[21]は著作隣接権でした。条文の細かいところまで聞かれているなという感じでしたかね。
【問題文】
〔21〕著作隣接権に関し、次の(イ)~(ホ)の記述のうち、正しいものを組み合わせたものは、どれか。
(イ) 放送事業者は、自然の風景など、それ自体が著作物として保護されない番組を放送する場合には、当該放送に関して、著作隣接権を取得することはできない。
(ロ) 映画製作者が俳優の許諾を得てその実演を映画の著作物に固定し、当該実演が収録されたビデオテープを販売している場合に、第三者がこれらのビデオテープを俳優に無断で複製し、公衆に販売しても、俳優の録画権を侵害しない。
(ハ) 実演家に無断で実演を写真撮影し、その写真を公衆に販売する行為は、実演家の有する複製権及び譲渡権を侵害する。
(ニ) 市販されている音楽CDを利用したテレビドラマがDVDとして発売されることに対して、その音楽CDの製作者はそれを許諾する権利を有する。
(ホ) 放送事業者は、私的使用のための録音・録画に関して、複製権が制限されるかわりに、私的録音録画補償金を請求する権利を取得する。
1 (イ)と(ロ)
2 (ロ)と(ニ)
3 (イ)と(ホ)
4 (ロ)と(ホ)
5 (ハ)と(ニ)
【コメント】
著作権法1条は「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、・・・」となっていることからわかるように、著作物とは別に、実演、レコード、放送及び有線放送そのものについても、著作者の権利とは別の著作者の権利に隣接する権利を定める旨明確に規定しています。
この隣接する権利については著作隣接権として第4章に規定されています。著作隣接権については、平成14年改正で実演家の権利として人格権が認められる改正がありましたね。とはいえ、著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)のうち公表権については実演家にはない点に注意(90条の2、90条の3)。
ここで、「著作隣接権」は、89条6項に定義されていますが、著作隣接権の概念には実演家人格権は入っていません。これは、著作者の権利として著作者人格権と著作権とが認められ(17条)、著作権の概念と著作者人格権の概念とは別物であることと同じです。
著作隣接権は、法目的の記載からも明らかなように、実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者に認められる権利です(89条1項から4項)。
(1)著作隣接権により保護を受ける人
実演家(2条1項4号)、レコード製作者(2条1項6号)、放送事業者(2条1項9号)、有線放送事業者(2条1項9号の2)
(2)保護対象
①実演(2条1項3号)、保護を受ける実演(7条)
②レコード(2条1項5号)、保護を受けるレコード(8条)
③放送(2条1項8号)、保護を受ける放送(9条)
④有線放送(2条1項9号の2)、保護を受ける有線放送(9条の2)
☆ここでは、平成9年改正で導入された「公衆送信(2条1項7号の2)に「放送」と「有線放送」を含ませている点と、さらに、公衆送信は、自動公衆送信(2条1項9号の4)を含んでおり、この自動公衆送信には、放送と有線放送は含まれないという規定になっている点に注意しておきましょう。
(3)認められる権利について条文を整理すると以下のとおり
①実演家に認められる著作隣接権
・録音権及び録画権(91条1項)
・放送権及び優先放送権(92条1項)
・送信可能化権(92条の2第1項)
・譲渡権(95条の2第1項)
・貸与権(95条の3第1項)
②レコード製作者に認められる著作隣接権
・複製権(96条)
・送信可能化権(96条の2)
・譲渡権(97条の2第1項)
・貸与権(97条の3第1項)
③放送事業者に認められる著作隣接権
・複製権(98条)
・再放送権及び有線放送権(99条)
・送信可能化権(99条の2)
・テレビジョン放送の伝達権(100条)
④有線放送事業者に認められる著作隣接権
・複製権(100条の2)
・放送権及び再有線放送権(100条の3)
・送信可能化権(100条の4)
・有線テレビジョン放送の伝達権(100条の5)
さて、以上を前提に設問を見てみましょう。
(イ) 放送事業者は、自然の風景など、それ自体が著作物として保護されない番組を放送する場合には、当該放送に関して、著作隣接権を取得することはできない。
上記のとおり、放送事業者には著作隣接権が認められていますが、何について著作隣接権を取得できるかというと、9条では、次の各号のいずれかに該当するものに限り、この法律による保護を受けるとして、1号で「放送事業者の放送」が挙げられており、放送事業者の放送については著作隣接権が認められます。
ここで、放送とは、公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信をいう旨規定されてはいるものの(2条1項8号)、放送の対象についてはなんら限定がなく、対象が著作物でなければならないという話はありません。レコードについても同じで、音を収録したもの(レコード)が保護を受けるわけですが(8条1号、2号)、その対象が著作物である必要はないわけです。また、実演についても基本的には著作物の実演に限らず「ものまね」「腹話術」のようなものであっても保護されるわけです(2条1項3号)。というわけで、誤り。
いきなり「著作物として保護されない番組の放送?」と動揺した受験生が多かったかもしれません。なお、上述した著作権法の第1条を見ると分かるように「著作物のみを保護する」という法律ではないことが分かると思いますし、そもそも第1条には「著作物を保護する」という話はなく、著作物や放送等についての著作者の権利や隣接権を定め、著作物や放送等の公正な利用に留意しつつ、権利者の保護を図る、という組み立てになっている点にも注意しましょう。
(ロ) 映画製作者が俳優の許諾を得てその実演を映画の著作物に固定し、当該実演が収録されたビデオテープを販売している場合に、第三者がこれらのビデオテープを俳優に無断で複製し、公衆に販売しても、俳優の録画権を侵害しない。
俳優といえば実演家の話になりますね。上述したとおり、実演家には、録音権及び録画権が認められていますが、91条2項に例外があります。すなわち、実演家がその実演を映画に録音・録画することを許諾した場合には、映画に収録(録音・録画)された実演については、実演家の権利が及ばなくなり、映画からの録音・録画行為があっても、実演家の権利は働きません。この点、映画については実演家等保護条約でとられている「ワンチャンス主義」を採用したともいえます。
しかし、これにはさらに例外があります。「録音物に録音する場合を除き」となっている点です。
この意味は、映画を単に録音したような場合、映画を元に、新たに音楽CD(サントラ盤)を作るなどの行為は、映画としての利用とはいえないため、一種の目的外利用ということになってこのようなCDには実演家の権利が及びます。
そしてこれにはさらに例外があります。いくら録音物であっても、「音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。」(かっこ書き)となっている点です。これは影像とともに再生することを目的として録音するのであれば、単なる録音ではなく、映画を映画として利用することになるのだから、実演家の権利は及ばない、ということになるわけです。
本問は、ビデオテープへの録音なので、実演家の権利自体は及ばないということになります。正しい。
(ハ) 実演家に無断で実演を写真撮影し、その写真を公衆に販売する行為は、実演家の有する複製権及び譲渡権を侵害する。
上述したとおり、実演家が有する権利に複製権はありませんね。よって誤り。
(ニ) 市販されている音楽CDを利用したテレビドラマがDVDとして発売されることに対して、その音楽CDの製作者はそれを許諾する権利を有する。
音楽CDの製作者というのは、レコード製作者のことですね。レコード製作者が有する著作隣接権(89条2項)は上述したとおり、複製権(96条)、送信可能化権(96条の2)、譲渡権(97条の2)、貸与権(97条の3)です。
「市販されている音楽CD(商業用レコード)を利用したテレビドラマがDVDとして発売」となると、そのDVDには音楽CDの音楽が複製されていることは明らかですから、レコード製作者は「複製権」(96条)に基づく利用許諾ができますね。よって正しい。
この点、「商業用レコードの二次使用」(95条)に思いを寄せた人もいたかもしれませんが、これは、「放送又は有線放送」に対するものですので、本問には該当しませんね。
(ホ) 放送事業者は、私的使用のための録音・録画に関して、複製権が制限されるかわりに、私的録音録画補償金を請求する権利を取得する。
「私的録音録画補償金」は、第五章に登場します。104条の2は、ちょっと読みにくい条文ですね。私的録音録画補償金は、「第30条第2項の補償金」(104条の2第1項)であり、30条2項の規定を準用しているのは「実演又はレコードの利用について」です(102条1項)。従って、放送事業者には請求する権利はありません。よって誤り。
以上、正しいものは、(ロ)と(ニ)ですので、正解は2ということになります。
☆正答率は3割。5を選んだ人が4割いました。ただ、5を選んだ人は(ハ)を正しいとした点に誤りがあるものの、そこのポイントは「実演家に複製権があるか。」ということでしかなかったのですが、うーん、すべて条文事項とはいえ、厳しい問題だったかと思います。
☆本欄の解説にはミニ吉先生の各枝の解説原案に基づいて吉田が完成させました。ミニ吉先生ありがとうございました。
【問題文】
〔21〕著作隣接権に関し、次の(イ)~(ホ)の記述のうち、正しいものを組み合わせたものは、どれか。
(イ) 放送事業者は、自然の風景など、それ自体が著作物として保護されない番組を放送する場合には、当該放送に関して、著作隣接権を取得することはできない。
(ロ) 映画製作者が俳優の許諾を得てその実演を映画の著作物に固定し、当該実演が収録されたビデオテープを販売している場合に、第三者がこれらのビデオテープを俳優に無断で複製し、公衆に販売しても、俳優の録画権を侵害しない。
(ハ) 実演家に無断で実演を写真撮影し、その写真を公衆に販売する行為は、実演家の有する複製権及び譲渡権を侵害する。
(ニ) 市販されている音楽CDを利用したテレビドラマがDVDとして発売されることに対して、その音楽CDの製作者はそれを許諾する権利を有する。
(ホ) 放送事業者は、私的使用のための録音・録画に関して、複製権が制限されるかわりに、私的録音録画補償金を請求する権利を取得する。
1 (イ)と(ロ)
2 (ロ)と(ニ)
3 (イ)と(ホ)
4 (ロ)と(ホ)
5 (ハ)と(ニ)
【コメント】
著作権法1条は「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、・・・」となっていることからわかるように、著作物とは別に、実演、レコード、放送及び有線放送そのものについても、著作者の権利とは別の著作者の権利に隣接する権利を定める旨明確に規定しています。
この隣接する権利については著作隣接権として第4章に規定されています。著作隣接権については、平成14年改正で実演家の権利として人格権が認められる改正がありましたね。とはいえ、著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)のうち公表権については実演家にはない点に注意(90条の2、90条の3)。
ここで、「著作隣接権」は、89条6項に定義されていますが、著作隣接権の概念には実演家人格権は入っていません。これは、著作者の権利として著作者人格権と著作権とが認められ(17条)、著作権の概念と著作者人格権の概念とは別物であることと同じです。
著作隣接権は、法目的の記載からも明らかなように、実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者に認められる権利です(89条1項から4項)。
(1)著作隣接権により保護を受ける人
実演家(2条1項4号)、レコード製作者(2条1項6号)、放送事業者(2条1項9号)、有線放送事業者(2条1項9号の2)
(2)保護対象
①実演(2条1項3号)、保護を受ける実演(7条)
②レコード(2条1項5号)、保護を受けるレコード(8条)
③放送(2条1項8号)、保護を受ける放送(9条)
④有線放送(2条1項9号の2)、保護を受ける有線放送(9条の2)
☆ここでは、平成9年改正で導入された「公衆送信(2条1項7号の2)に「放送」と「有線放送」を含ませている点と、さらに、公衆送信は、自動公衆送信(2条1項9号の4)を含んでおり、この自動公衆送信には、放送と有線放送は含まれないという規定になっている点に注意しておきましょう。
(3)認められる権利について条文を整理すると以下のとおり
①実演家に認められる著作隣接権
・録音権及び録画権(91条1項)
・放送権及び優先放送権(92条1項)
・送信可能化権(92条の2第1項)
・譲渡権(95条の2第1項)
・貸与権(95条の3第1項)
②レコード製作者に認められる著作隣接権
・複製権(96条)
・送信可能化権(96条の2)
・譲渡権(97条の2第1項)
・貸与権(97条の3第1項)
③放送事業者に認められる著作隣接権
・複製権(98条)
・再放送権及び有線放送権(99条)
・送信可能化権(99条の2)
・テレビジョン放送の伝達権(100条)
④有線放送事業者に認められる著作隣接権
・複製権(100条の2)
・放送権及び再有線放送権(100条の3)
・送信可能化権(100条の4)
・有線テレビジョン放送の伝達権(100条の5)
さて、以上を前提に設問を見てみましょう。
(イ) 放送事業者は、自然の風景など、それ自体が著作物として保護されない番組を放送する場合には、当該放送に関して、著作隣接権を取得することはできない。
上記のとおり、放送事業者には著作隣接権が認められていますが、何について著作隣接権を取得できるかというと、9条では、次の各号のいずれかに該当するものに限り、この法律による保護を受けるとして、1号で「放送事業者の放送」が挙げられており、放送事業者の放送については著作隣接権が認められます。
ここで、放送とは、公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信をいう旨規定されてはいるものの(2条1項8号)、放送の対象についてはなんら限定がなく、対象が著作物でなければならないという話はありません。レコードについても同じで、音を収録したもの(レコード)が保護を受けるわけですが(8条1号、2号)、その対象が著作物である必要はないわけです。また、実演についても基本的には著作物の実演に限らず「ものまね」「腹話術」のようなものであっても保護されるわけです(2条1項3号)。というわけで、誤り。
いきなり「著作物として保護されない番組の放送?」と動揺した受験生が多かったかもしれません。なお、上述した著作権法の第1条を見ると分かるように「著作物のみを保護する」という法律ではないことが分かると思いますし、そもそも第1条には「著作物を保護する」という話はなく、著作物や放送等についての著作者の権利や隣接権を定め、著作物や放送等の公正な利用に留意しつつ、権利者の保護を図る、という組み立てになっている点にも注意しましょう。
(ロ) 映画製作者が俳優の許諾を得てその実演を映画の著作物に固定し、当該実演が収録されたビデオテープを販売している場合に、第三者がこれらのビデオテープを俳優に無断で複製し、公衆に販売しても、俳優の録画権を侵害しない。
俳優といえば実演家の話になりますね。上述したとおり、実演家には、録音権及び録画権が認められていますが、91条2項に例外があります。すなわち、実演家がその実演を映画に録音・録画することを許諾した場合には、映画に収録(録音・録画)された実演については、実演家の権利が及ばなくなり、映画からの録音・録画行為があっても、実演家の権利は働きません。この点、映画については実演家等保護条約でとられている「ワンチャンス主義」を採用したともいえます。
しかし、これにはさらに例外があります。「録音物に録音する場合を除き」となっている点です。
この意味は、映画を単に録音したような場合、映画を元に、新たに音楽CD(サントラ盤)を作るなどの行為は、映画としての利用とはいえないため、一種の目的外利用ということになってこのようなCDには実演家の権利が及びます。
そしてこれにはさらに例外があります。いくら録音物であっても、「音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。」(かっこ書き)となっている点です。これは影像とともに再生することを目的として録音するのであれば、単なる録音ではなく、映画を映画として利用することになるのだから、実演家の権利は及ばない、ということになるわけです。
本問は、ビデオテープへの録音なので、実演家の権利自体は及ばないということになります。正しい。
(ハ) 実演家に無断で実演を写真撮影し、その写真を公衆に販売する行為は、実演家の有する複製権及び譲渡権を侵害する。
上述したとおり、実演家が有する権利に複製権はありませんね。よって誤り。
(ニ) 市販されている音楽CDを利用したテレビドラマがDVDとして発売されることに対して、その音楽CDの製作者はそれを許諾する権利を有する。
音楽CDの製作者というのは、レコード製作者のことですね。レコード製作者が有する著作隣接権(89条2項)は上述したとおり、複製権(96条)、送信可能化権(96条の2)、譲渡権(97条の2)、貸与権(97条の3)です。
「市販されている音楽CD(商業用レコード)を利用したテレビドラマがDVDとして発売」となると、そのDVDには音楽CDの音楽が複製されていることは明らかですから、レコード製作者は「複製権」(96条)に基づく利用許諾ができますね。よって正しい。
この点、「商業用レコードの二次使用」(95条)に思いを寄せた人もいたかもしれませんが、これは、「放送又は有線放送」に対するものですので、本問には該当しませんね。
(ホ) 放送事業者は、私的使用のための録音・録画に関して、複製権が制限されるかわりに、私的録音録画補償金を請求する権利を取得する。
「私的録音録画補償金」は、第五章に登場します。104条の2は、ちょっと読みにくい条文ですね。私的録音録画補償金は、「第30条第2項の補償金」(104条の2第1項)であり、30条2項の規定を準用しているのは「実演又はレコードの利用について」です(102条1項)。従って、放送事業者には請求する権利はありません。よって誤り。
以上、正しいものは、(ロ)と(ニ)ですので、正解は2ということになります。
☆正答率は3割。5を選んだ人が4割いました。ただ、5を選んだ人は(ハ)を正しいとした点に誤りがあるものの、そこのポイントは「実演家に複製権があるか。」ということでしかなかったのですが、うーん、すべて条文事項とはいえ、厳しい問題だったかと思います。
☆本欄の解説にはミニ吉先生の各枝の解説原案に基づいて吉田が完成させました。ミニ吉先生ありがとうございました。
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