日本語教師ブラジル奮闘記

ブラジル生活裏話

ブラジルの学校教育の問題点

2009年08月13日 05時51分55秒 | ブラジル事情
 ブラジルの公立学校の教育は小学校から大学まで全額無料である。午前か午後の半日制を取っているため、午前学校に通う生徒は午後が暇になり、午後学校に通う生徒は午前が暇である。大多数の家庭は貧困階級であり、習い事にお金をかけたりは当然できないため、何もしない怠惰な人間を多数量産してしまう。怠惰な人間だけであれば、問題はないが、麻薬や犯罪に手を染めてしまう子供も生んでしまうから悲劇である。

 ブラジル政府の頭が悪い所は、基礎教育ではなく、高等教育に力を入れてしまっているところである。ブラジルはここ10年で連邦大学、私立大学の数が急激に増えたほか、コースの数、定員の数自体も増えているから、それこそ大学にはお金さえあれば誰でも入れるような状況になっている。

 今日の地元の新聞記事では、年度途中に実施し始めた冬の入試が定員に満たない大学が続出している状況を取り上げている。無料の連邦大学ですら、定員に満たないところが続出しているのだから、それこそ私立大学の状況は悲惨である。ただ、授業料が高いのだから、集まらなくて当然である。

 第一、基礎教育がしっかりしていない学生に、いくら高等教育を施そうとしたって無理なのである。残念ながら、人間というのは人それぞれ能力や適性があり、能力がないものに対して何かを習得させようと思っても無駄な努力だ。また、子供の頃から勉強する習慣がついていない人間に、大学に入ったから、じゃあ勉強しましょうと言ったって、急に勉強できるものではない。

 ご存知の通り、ブラジルは世界一貧富の差の大きい国である。裕福な家庭の子供は、小学校から授業料が高い私立に通い、授業料が無料の連邦大学を目指す。貧しい子供は、小学校から授業料が無料で教育レベルが低いと言われている公立学校に通うが、やはり勉強はできない子供が多く、授業料が無料の連邦大学に入れず、もちろん授業料は払えないから私立大学にもいけない。

 これでは不公平であり、社会格差は広がるばかりだということで、ブラジル政府は連邦大学の入試に「公立高等学校出身者枠、黒人枠、原住民枠」など、社会的に差別されている人にも「公平」になるように、彼ら専用の入学枠を設けた。まったく馬鹿げた制度である。この枠を利用すると、馬鹿でも人の命を預かる医者になれることになる。さらに、黒人かどうかは自己申告によるので、ちょっと肌が浅黒いという理由づけて、合格することもできるのである。この制度、公平性を求めて始めた制度なのだが、逆に不公平さを助長している。もうブラジルの教育は無茶苦茶である。

 日本でもそうだが、今は修士課程や博士課程を取得した学生が急激に増えている。大学を増やしているのだから、大学の先生も増やす必要がある。つまり、大学の先生を目指す修士・博士を持つ人も増える必要があるという状況の結果なのである。

 でも、どんな世の中でもエリートの数というのはある程度決まっている。そして、基本的に小数である。と言うか、少数だからエリートと言われるのである。修士や博士を持っている人が増えたからと言って、国民の教育レベルが上がったとは一概に言えない。学士だけでは大学の教授になれないから、大学院に進んだだけで、修士・博士課程を修了した人が優秀だとは言えず、単純に人より長い間学生の身分でいた人というだけである。

 皮肉な見方をすれば、修士や博士の学生は勉強だけして、まだ社会に何の貢献もしていない人達なのである。大学教授予備軍と言えば聞こえはいいが、その多くは大学教授になれず、人件費が高くて会社からも雇ってもらえない「インテリフリーター」になってしまう人達である。その状況は日本もブラジルも一緒である。

 ブラジルの大学教授の給料は高い。そして、小中学校・高校の教師の給料は安い。だから、みんな小中学校・高校の教師になろうせず、大学教授のポストを目指す。よって、優秀な先生が基礎教育に集まらない。結果、基礎教育のできていない子供達を作り出してしまい、社会格差がなくならない。もう完全なる悪循環である。

 以前からこのブログで何度も書いているが、ブラジルの私立大学はこれからどんどん倒産していくと思う。そして、ブラジル政府は連邦大学もどんどん創設しているが、これらの大学は国民の税金で経営されていることから、国民の税負担率もどんどん上昇していくことが予想される。そうすれば、国民は不満がたまり、いつかそれが爆発する。政府が大学教師に給料を払えない事態も発生し、教師による労働ストライキが勃発、教育を受ける権利を求める学生のデモへと発展していく。

 こうなるともうどうしようもない。いつかどこかで誰かが大改革をやるしか方法がない。日本なんかも教育問題に関して、ある意味こういうドツボ状態にはまっていると思うが、なかなか改善できていない。これが民主主義の一番悪い所だ。各人が既得権の保持に固執して、一番効果的な方法を取れないのだ。こんな時こそ、革命が必要で、英知に優れた独裁者が英断することが必要になってくる。

 小泉元首相が「自民党をぶっつぶす」とか、「犠牲を伴わない改革はない」などと言って、日本を改革しようと頑張っていたが、結局は民主主義という制度の下で改革しようとしても限界がある。封建制度に行き詰った徳川幕府の幕末の混乱の世の中から明治政府が誕生したように、時代の変わり目には必ず内戦が起こり、どうしても犠牲者を出してしまう。お産と同じ。何かが生まれる時には、痛みや血を伴う。

 ブラジルも日本もいい方向に進んで欲しいなと願うばかりである。

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