「被災地の商業復興を阻害するから、遠方から物資を送る個人支援はすべきではない」という指摘がある。
(どの震災でも出てくる指摘)
商業復興という視点からは定性的には正しい指摘だが、定量的にはどうなのか以下に検証する。
1)評価モデル=益城町
熊本県全域で定量評価すると現地の肌感覚とあまりにかけ離れると思うので、事例として被害が大きかった益城町を取り上げる。
①益城町の統計資料
http://www.town.mashiki.lg.jp/kihon/pub/default.aspx?c_id=27
上のページの「商業」を参照。
平成23年の数字として、商店数=251、年間商品販売額=5,536,392万円、とある。
若干古い数字ではあるが、これを震災前の数値とする。
②益城町の避難所の避難者数
熊本県、熊本市、益城町の避難者数の推移(神戸協同病院)
http://kobekyodo-hp.jp/images/material/20160512_kumamoto_mashiki.pdf
上記資料から、ある時期(5月中旬)の数字として避難者数4千人とする。
2)個人支援規模
個人支援の全容は捕捉できないが、ここでは被災者個人からの「Amazon欲しいものリスト」を取り上げる。
私が把握している限りでは、「Amazon欲しいものリスト」を提示している被災者個人は10人足らずで、食品と生活雑貨を中心にひとり当たり総額10万円未満と思われる。
(実際は個人差が大きい。避難所の他の人にも配るために多い人もいる。)
ここでは、月当たり100万円(=10人×10万円)と仮定する。
3)試算の条件
①前項の個人支援を求めている被災者が全員益城町にいると仮定する。本当はそうではないし、極めて乱暴な仮定だが、とりあえずそう置く。
②前項の欲しいものリストにある品物は、支援がない場合は被災者個人が全て自費で購入するものと仮定する。本当はそうではなく、大半は無ければ我慢すると思われるが、とりあえずそう置く。
4)商業規模に対する支援額の率
1項から、益城町の月間商品販売額は、461,366万円。
2項から、Amazon経由での個人支援規模は最大で、月に100万円。
従って、Amazon個人支援の影響は最大で 0.022% 程度。
店舗あたり平均では、3,980円/月の売り上げ減。(=100万円/商店数251)
これは3項のように乱暴な仮定をおいているから、現実にはもっともっとゼロに近くなる。
参考までに、避難所で配給される食事で試算すると、1,050円/日・人とのことなので、4千人であれば、12,600万円/月。
よって、益城町の月間商品販売額に対する比率は、2.73% となる。
5)結論
現実的にありえないほどの仮定を置いても、Amazon経由での個人支援が被災地の商業に与える影響は 0.022%程度。
実際には、もう1〜2桁以上低いと思う。
従って、「被災地の商業復興を阻害するから、遠方から物資を送る個人支援はすべきではない」という指摘は、定性的には正しいように見えても、定量評価すると現状では影響度が低すぎてどうでもいいレベルになる。
(他に、県外などから直接物資を運び込む支援もあるが、そちらは定量捕捉できないのでここでは評価しない。)
だから、マクロで見て商業復興を阻害するという心配よりは、むしろ苦境にある被災者個人に対して全国から支援の手が差し伸べられることにより、苦難が多少でも緩和されること、及びそれに付随した心の交流が図られることの価値の方が評価に値すると考える。
逆に、被災者からの支援を求める声を完全無視したとしたら、それによる見捨てられ感は被災者の苦難を現実以上に難しいものにしてしまうだろう。(東北の被災地でそういう話を聞いている)
以上。