小説家、精神科医、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、精神科医、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

医者の斡旋業者

2016-01-20 21:40:40 | 医学・病気
ある医師斡旋業者である。ある日、用事があって、代診医の手を借りたい病院やクリニックを募集する。そして、医師に来て働いて欲しい日にちと、場所、給料などを提示する。そして、その日に、そのクリニックで、働いて給料を得たいと、思っている医師が、その案件に応募する、という形態の斡旋業である。斡旋業者は、仲介の手数料で儲ける。そういう医師斡旋業者は、日本に、優に100社、以上、あるだろう。200社、以上あるかもしれない。

ある医師斡旋業者である。そこでは、以前、絶対、損をしない方針を考えた。それは。医師が、ある仕事に応募したら、そこで、確実な決定とすることにした。医師が、その後、気が変わったり、用事が出来たり、あるいは、雪とか台風とかの天候によって、行けなくなっても、取り消しできず、確実に損をしない方法を考えた。それは、応募した時点で、決定とし、その後、取り消す、と医師が言ってきた場合、医師に、ペナルティーの金を支払え、という方法である。支払う金の量は、予定の仕事の勤務日が、近づくにつれて、比例して高く設定することとした。こうすれば、理屈からいって、斡旋業者は、絶対、損をしないことになる。医師が、予定通り働いた場合は、普通に、斡旋料を受け取れるし、医師が、気が変わって、キャンセルした場合にも、医師が斡旋業者に支払うペナルティー料で、儲けることが出来る。

この方法で、始めて、会社は、順調に確実に利益を上げていた。
しかし、会社は、運営しているうちに、だんだん、ある事実に気づいた。
それは、仕事に応募した医師が、キャンセルするケースは、ほとんど無いということである。ほとんど100%、医師は、応募したら、確実に、働くという事実である。

医師の方からしてみれば、応募した後、キャンセルして、働いてもいないのに、金を支払うのは、バカバカしいから、絶対、キャンセルすることはないのである。

しかし、斡旋業者としては、そうは、受け止めなかった。
単なる数字から、応募した後で、キャンセルする医師は、絶対、いない、と斡旋業者は確信した。

そこで、応募した後、キャンセルした場合の、ペナルティー制という方法は、やめることにした。ペナルティー制というと、イメージが悪い。また、ペナルティーを、おそれてしまって、医師が、応募するのを、ためらってしまうことも、あり得るだろう。ペナルティー制をなくせば、もっと、応募が増えるだろうと、斡旋業者は考えたのだろう。また、数少ないキャンセルした医師に指定の銀行口座に、ペナルティー料を支払うよう催促するのも、出来にくい。(銀行の、取りたて人のような人もいない。土地のような担保も無い)そもそも、医師が、ペナルティー料金を、支払わない場合、さらに、重いペナルティーを科す、ようにしても、医者が、振り込まなければ、それまでである。では、ペナルティー料を払わない場合、この斡旋業者の会員を辞めて下さい、というペナルティーを課したら、医師は辞めるだけである。医師の斡旋業者など、無数に、いくらでもあるからである。それに、会員は、医師免許を持った医者だけなので、会員が、どんどん、減ってしまう。それは、会社の経営上、不利である。この会社は、医師が、ちゃんと、仕事をしたつもりでも、医師の仕事の欠点を調べて、給料を振り込まない、ということもする。会社としても、キャンセルした医師に、ペナルティー料金を振り込んで下さい、と言っても、医師が、振り込まなければ、それまでである。振り込む、というのは、医師の能動的な行為なので、しなければ、それまでである。まあ、最初に、100万円とか、会社に預けておいて、キャンセルした場合には、そこから、引き落とす、というふうにすれば、会社は、ペナルティー料金は、確実に獲得できる。しかし、そんな、えげつないことまで、するのなら、医師の斡旋業者など、いくらでもあるのだから、別の斡旋業者で仕事を探す、となるだけである。しかも、今は、ネットで検索すれば、医師を募集しているクリニックは、いくらでも探せる。斡旋業など介さないでも、仕事は探せる。そもそも、医者が、どこかの病院に就職するのは、人事権を持っている医局の教授の意向で、決められ、医者は、博士号が欲しいから、そのためには医局に属していたいから、教授の意向には、さからえず、教授の命令で、どこかの大学の関連病院への常勤医としての就職となるか、あるいは、数年して、技術が身についたら、独立して、どこかの病院の常勤医となるか、クリニックを開業するというパターンであり、常勤医となると、収入は十分あるから、アルバイトする必要などないし、しない。つまり、斡旋業者に頼んで、仕事を探す医師の数は、極めて少ないのである。一生、一度も、斡旋業者と関わらない医者は、非常に多い。というか、その方が普通である。斡旋業者としては、数少ない、お客さん(医師)を、手放したくないのである。

だから、そもそも、この、キャンセル制の方法は、潰れるだろうと、思っていた。

そして、実際、その斡旋業者は、ペナルティー制をやめてしまった。ところが、これが誤算だった。ペナルティー制をなくしてしまったことで、医師は、安易に、いくつもの仕事の案件に、気軽に応募し、そして、都合が悪くなれば、安易に、応募を取り消した。斡旋業者としては、商談成立が、滅茶苦茶になってしまった。
そして他の、ペナルティー制をしていない、斡旋業者と、変わりなくなってしまった。

それは、単発の、一回きりの、仕事の斡旋の場合である。

週一回とか二回とかの、決まった医療機関での、レギュラーの仕事の斡旋もあるが、これは、斡旋業者としては、あまり、嬉しくないのである。なぜなら、斡旋料は、商談が成立した時の、最初にだけ、斡旋業者は、受けとるわけだから、レギュラーとして、話がまとまってしまうと、その後、斡旋料は、受けとれない。しかも、レギュラーとして、働くとなれば、医師としては、将来の、給料の保障が出来るから、単発の、一回きりの、仕事の応募は、しなくなる傾向が強い。
しかし、斡旋業者としては、単発の、一回きりの、仕事の応募を、ちょこちょこ、して欲しいのである。その方が、毎回、斡旋料が取れるからである。
レギュラーの募集も、出しているが、それは、会社の規模を大きく見せるための、みせかけ的な面が強く、本気で取り組んでいない面がある。ちょうど、たくさん野菜が置いてあるように見せかけるために、八百屋で、野菜の後ろに、カガミを置いているのに似ている。

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