少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

シルバービュー荘にて

2024-05-03 15:10:51 | 読書ブログ
シルバービュー荘にて(ジョン・ル・カレ/早川書房)

21年1月に紹介した『スパイは今も謀略の地に』がジョン・ル・カレの遺作だと思っていたが、その後この本が出版されていることに、最近、気が付いた。

息子による「あとがき」によれば、父との約束に基づき、ほぼ完成形で残された原稿を出版した、とのこと。

2人の人物が交互に描かれる。不審な情報に接した保安機関「サービス」の責任者。競争の厳しい金融業の世界を引退し、書店を始めた男。その関係がよく理解できないうちに話が進み、次第に、ある人物に焦点が当てられていることに気が付く。

いわゆるスパイ小説らしい派手さはない。作品としては、『スパイは今も・・・』や『繊細な真実』に近いものを感じる。

この作品が生前に発表されなかったのは、おそらく息子の推測が的を得ているのだろう。

スパイ小説について語っていると、あの国やこの国の悪口を言いたくなるが、それを我慢して少しだけ感想を。

結局、その男のことを一番理解していたのは娘だった。

書店主は、よいスパイになりそうだが、その物語を書く人はもういない。

なお、息子はニック・ハーカウェイ。(22年7月に紹介した『エンジェルメイカー』の作者)