
夕方だったので銭湯は高齢者が多かった。たまに帰るときには私も母についてこの銭湯に行くが、若い人の姿はあまり見ない。それでも夜には、40代、50代の若者?もちらほらしているが、夕方は70~80代の方ばかりだった。昔見たことがある大先輩が腰を丸めて身体を洗っていたりするが、この人たちも母と一緒で遠い道のりを歩いてくるのだろう。銭湯は350円、最低限の設備だけは何とか揃っている感じで、最近流行のスーパー銭湯のように何でもある便利なものではない。深夜になったり、逆に朝になることが多いので私もどちらかというとスーパー銭湯が多いが、あっちは340円だ。まさに大きなスーパーマーケットと個人商店のような関係だ。昔ながらの商店街が錆びれていくのは止めようがない。
それでもこの高齢者の皆さんがここに来る理由があるとすればきっと友達と会えることだろう。今日もいつもの仲間らしい人が入ってくると「遅いやないけ(今日は遅いじゃないか)」や「どないしとん(どうしていたんだ)」と独特の加古川弁で声がかかる。加古川弁は関西弁の中でも実に荒っぽくきたない言い方だ。播州弁といわれるが関西弁の一番西の端だ。銭湯には式亭三馬描く「浮世風呂」といって昔から友達と会える楽しみがあったわけだが、個人商店にはなかなかその辺の「付録」がない。お客さんを留めるのは難しいなあ・・、と帰り道に母とシャッターが下りた店が並ぶ商店街を歩きつつ考えた。商店街の活性化と簡単にいうけれど、ちょっとこの錆びれかたは並ではない。
時々暗い商店街を自転車の高校生たちが勢いよく走っていく。私も高校を卒業して大学浪人の19歳まで住んでいた。その後、最近までほとんど帰るチャンスもなくいたけれど、35年間で実に町は変わった。加古川駅前も当時は「夢のような話」「ほんまにできるんやろか(本当にできるのだろうか)」と母らが話していた再開発がやっとなってすっかりテレビスタジオのセットのようになったが、味気ない。できたのがあまりにも遅すぎて、すっかり錆びれた町に似合わない。が、神戸市のベッドタウンなので辛うじて駅前だけはそれらしくはカッコつけている、という感じか。
加古川は元々兵庫県内では最大の一級河川「加古川」が流れ、古代から「駅」として栄えた土地だ。海にそそぎ出る河口には「高砂やー」で知られる高砂市があり尾上の松も有名だ。ヤマトタケルノミコトが加古川で産湯を使ったとされる伝説があり、川沿いにある小高い日岡山はヤマトタケルの母、稲日太郎姫命(いなびのおおいらつめのみこと)の墓、つまり古墳があって宮内庁管轄だ。日岡山近辺に住む親しい同級生の話を聞くと子供の頃から疑うことなく「ヤマトタケルノミコト」の子孫だと聞かされていたらしい。私は実はこのことを大学生になって加古川を出る頃まではまったく知らなかった。
久しぶりにヤマトタケルの話になってしまった。この話は実は住民ディレクターの発祥地熊本県球磨郡山江村に通うようになって知るのである。それは山江村で熊襲猛(クマソタケル)の物語に出会い(古事記、日本書紀)、征伐したクマソタケルからタケルの名前をもらったという日本武尊(ヤマトタケル)の歴史を紐解き始めてから発見したことだった。ヤマトタケルは加古川に生まれたという伝説がしっかりとあったのだ。(つづく・・・)
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