クロの里山生活

愛犬クロの目を通して描く千葉の里山暮らしの日々

浮浪児になる

2014-07-11 20:32:40 | 日記

公園の水飲み場で耕一が顔を洗っていると、シロが寄ってきた。そしてズボンのすそをくわえて引っ張った。

「どうしたシロ、どこかへ行きたいのか?」

耕一がそう尋ねると、シロは黙って歩き始めた。

シロの後を付いて耕一も歩いた。

大きな通りに出た。

都会の朝の喧騒がそこにあった。

走る車が「パアパア」と警笛を鳴らして通り過ぎ、会社へ急ぐ男女が歩道を足早に歩いて行く。

 

耕一はシロを見失わないように、瓦礫が方々に積まれている道を懸命に歩いた。

「横浜は大きな町だ!」

歩きながら耕一はそう思った。

ビル街を過ぎると商店街になった。

もう一時間近く歩いているが、人家が途切れることがない。

シロが後ろの耕一を確認するように時々振り返りながら歩く。

次第に辺りは雑然とした雰囲気の街並みになってきた。街角の電柱標識を見ると伊勢佐木町と書いてある。

 

シロが路地に入って行った。

シロの後を追って路地に入って行くと、うまそうな煮込み料理の匂いがしてきた。

やがて少し広い道に出た。その道の両脇に小さな屋台や露天が並んでいた。

客を呼ぶ威勢の良い男達の声が聞こえる。女達のかしましい声も聞こえる。

そこは闇市と言われる場所であった。

 地獄の底で必死にうごめき、たくましく生きる名も無き庶民の群像がそこにあった。

 

街角に立つ復員傷病兵の物乞い、ガード下の孤児達の靴磨き、そして夜の街角に佇む女達。

戦火の焼け跡で、地獄、餓鬼、畜生、修羅の姿をこの世に現じて、人々が必死に生きている。

何のために、誰のために生きているのか、そんな事を考えている暇はない。

ともかく生きなければならないのだ。

 

耕一も生きようと思った。

どんなことがあっても生きたいと思った。

なぜ生きるのか・・・・。

十六歳の少年の心に、ひとつの思いがこみ上げてきた。

「父母に会いたい・・・・・・」

 それはもの心付いた頃から、彼の心の奥底にあった小さな思いであった。

その小さな思いが、今、ひとつの希望となって彼の胸に突き上げてきた。

「自分を生んでくれた父母に会うまでは死ねない。死ぬわけにはいかない」

 

 

 

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1 コメント

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こんばんは (asakawayuki)
2014-07-12 19:36:53
クロのご主人さま

耕一少年はこれからどうなるんでしょう。
お腹も空いていることでしょう。
シロが助けてくれるのかしら。
お節介なおばあちゃん。余計なお世話でしたね。
私が高校生の頃、まだ、中央線や山の手線に傷病兵らしき人が乗ってきて物乞いをしていました。
偽物だという人もいました。

昼顔、クチナシの花が清楚ですね。
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