羽生市ムジナモ保存会

食虫植物ムジナモの国内最後の自生地で、国の天然記念物の羽生市宝蔵寺沼ムジナモ自生地の復元には自然環境保全が不可欠である。

埼玉県の水資源と環境問題

2013-11-18 22:23:50 | 自然環境

 

                          羽生市ムジナモ保存会(埼玉環境カウンセラー協会会員)

 埼玉県は全国で5番目700万を超える人口を有し、その多くの人が平野部の自治体に居住している。埼玉県は50年以前に水道水用の水源の多くを安価な地下水に頼り、資金のかかるダムへの投資に力を入れなかったため、利根川水系から十分な表流水の水利権が確保されぬまま、昭和30年代以降県内の自治体は現在に至るまで営々として地下水を汲み続けている。平成15年度埼玉県の水道水と工業用水の1日当たりの使用量は、およそ276万m3で荒川・利根川水系からの表流水の取水が約74%で、不足分の26%に相当する72万m3が水道水用の地下水と推計されている。県内平野部の各自治体は水道水として20%から多いところで、70%地下水を汲み続ける現状を残念ながら認識している県民少ないと思われる。

 地下水を汲み続ける結果起こる弊害・環境への影響は多岐に及んでいる。その環境影響は、1地下水位の低下、2地盤の沈下、3湧水の途絶、4河川汚濁の進行、5地表の乾燥化・ヒートアイランド現象の加速、6自然環境(動植物)への影響等があり、これらについて述べてみたい。

1地下水位の低下 

 地下水は雨水や河川水が地下に浸透することにより供給されており、埼玉県平野部では当初地下水位は比較的地表付近にあったが、昭和30年代以来供給されている量以上に地下水を汲み続けた結果その水位は低下してしまっている。従って供給量を上回る過剰の地下水を汲み上げる限り、地下水位は下がり続け上昇することはない。平成21年度県内各地の地下水位は、浦和6~17m、大宮13~14m、越谷7~14m、所沢60~62m、行田5~19m、深谷17~18m、加須19~20m、栗橋28mのレベルにあり、地下水の汲み上げを完全に停止しない限り地下水位を地表付近まで回復させることは艱難であると考えられる。

2地盤の沈下

 地下水の過剰な汲み上げにより地下水位が低下し、粘土層の水がしぼり取られ収縮により地表面が下がってしまう、これが地盤沈下である。過去の観測開始昭和36年以降累積沈下量が100㎝を越える地域は、越谷市、八潮市、三郷市の東部地域、川口市、鳩ケ谷市、戸田市、さいたま市の中央部地域、栗橋町、鷲宮町、幸手市、久喜市の北東部地域、所沢市,三芳町の西部地域があり、その周辺地域は累積沈下量が50㎝を超える地域が広範囲に広がっている。

これら地盤沈下は不等沈下による道路の損壊・陥没、河川の橋脚の損壊、建築物と道路の段差、埋設インフラ・水道管等の損壊、漏水の原因になっている。

3湧水の途絶

 県北東部地域では吹き井戸と呼ばれた湧水が各地に存在し、自社の吹き井戸で酒作りを行っていた酒造メーカーも多くあったが、その地域に簡易水道や、市の水道の深井戸が掘られ、地下水を汲み上げるようになって以降、次第に湧水が枯れてしまった事例が多くある。湧水の途絶による野生動植物の生育が困難になったものに熊谷市久下のトゲ魚の仲間の「ムサシトミオ」や羽生市宝蔵寺沼の食虫植物「ムジナモ」の野生絶滅はその一例である。

4河川汚濁の進行

 平野部市街地内を流れる河川は元来その地域で最も低いところを流れている、地下水位が地表近くにあった当時は常時地下水が自然に河川に浸み出し、あるいは湧水となって湧き出し、自然にこの水が河川の浄化機能を果たしていた。昭和20年代当初鴻巣市吹上町の元荒川にもムサシトミオが生息しており、子供のころ元荒川で泳いだ人の話では、冷たい水が足に触れることがあったそうである。子供のころ川や沼で泳いで局所的に冷たい水が足に触れた経験のある人は昭和30年代頃までは羽生市でも確認されている。元荒川のムサシトミオは現在では、熊谷市久下のごく一部に管理された状況で生息しているが、かつては下流の吹上まで生息していたのである。地下水を汲み続けた結果、数mから10mに下がってしまえば、当然河川への水の供給が途絶え、自然の流れ自浄作用は望むべくもなく、生活排水や雨水が主流となってしまった現在では河川の汚濁の進行は必然といえる。

5地表の乾燥化とヒートアイランド現象・夏の暑さを加速

 地下水位が地表から1~2mと浅いところにあった当時は、その地下水により地表の湿潤が維持されていたが、過剰な地下水の汲み上げにより埼玉県平野部の全域において地下水位は低下してしまった。地下水を汲み続ける限り、地下水位は地表付近まで上昇・回復することはなく、深いところでは50~60m下がってしまった地域もあり、浅いところでも4~5m程度である。

その結果かつて地表近くにあった地下水位の低下により次第に地表の乾燥化が進行し、ヒートアイランド現象を加速させ、夏の暑さの原因になっていると考えられる。

6自然環境(動植物)への影響

 自然環境への影響としては、地下水位が下がってしまった結果次第に地表の乾燥化が進み、乾燥に弱い動植物は衰退し、乾燥に強い動植物へと生態系の変化が進行している。長期に亘る変化のため、通常人の気が付かぬ間に生態系の変化が進行し、これに伴う動植物への影響は図り知れないものがある。植物ではミソコウジュ、カワジシャ、ワレモコウ等が減少し、動物ではイシガメ、ニホンアカガエル、カラスガイは殆どいなくなった。かつてどこにもいたメダカなど見つけることが困難になってしまった。

 今後人口減少に伴い水に需要量は余裕があり増加しないと言う人がいるが、自分が地下水に依存して生活している事実を知らない人が多いと考えられる。多くの水資源を地下水に依存している埼玉県、群馬県は、自然環境への影響を考えると極めて深刻な状況にあると思われる。地下水の収奪からの脱却を図るためには、新たな表流水の確保に力を注ぐ必要があり、八ッ場ダムの実現は埼玉・群馬県民にとって不可欠である。

 県土の保全・自然環境回復には、地下水の収奪を防ぐ手立てを講ずることが急務と考える。水道水の水源を地下水に頼るのではなく、100%表流水を確保すべきで、これが困難であるならば、莫大な費用が掛かっても、シンガポールのように下水の再生利用あるいは、海水の淡水化による水資源の確保を真剣に考えるべきである。



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