『 館林はなぜ暑い 』
群馬県の自然環境と水資源の問題
羽生市ムジナモ保存会(SECA会員)
最近テレビの天気予報やニュースで夏季の日中最高気温を示す地名に群馬県「館林・高崎」の名が度々出てくることにお気づきのことと思います。以前に比べ夏の暑さの厳しさが一段と加速していることを実感していることと思います。なぜこのようになってしまったのでしょうか、考えてみたいと思います。
1.地球の温暖化と候変動
かつて産業革命以前の18世紀中頃までの地球を取り巻く大気中の炭酸ガス(CO2)濃度は、何世紀もの間280ppm程度とほぼ一定だったと推測されている。ハワイのマウナロア山の測候所(富士山頂と同程度の高所、日本のスバル望遠鏡も近年隣のマウナケア山に建設されている)は半世紀に亘り大気中の炭酸ガス濃度を測定し続けています。1960年の年平均炭酸ガス濃度は337ppmであったが、2004年には377ppm となり44年間に40ppm増加したことになる。この増加の原因は、ご承知のように先進国及び発展途上国の化石燃料の大量消費が最大要因で、毎年大気中の炭酸ガス(CO2)濃度は約1ppm増加し続けています。炭酸ガスを代表とする大気中の温室効果ガスの増加は大気の放熱をおさえ、地球の気温上昇・温暖化が進みその結果、極地の氷の解氷、気候変動、エルニーニョ現象、異常気象等が世界各地に頻発している。地球規模の温室効果ガスの増加は当然日本にもその影響が及び、このままいくと関東地方の気候は50~100年後には現行の鹿児島と同じ気候・照葉樹林帯に移行すると考えられている。館林のみならず日本全体が夏暑いのは地球の温暖化の延長線上にその原因があると考えられる。
2.地表の乾燥化による温暖化の進行(群馬県の平野部及び館林市の特異性)
群馬県における水道水の水源はどのように確保されているか、この現状を認識している人は少ないと考えられる。館林市の平成19年度の水道水の水源の内訳は地下水が65.7%で県の浄水場(河川・表流水)からの水が34.3%である。館林以外の群馬県内の他の自治体、前橋、高崎、伊勢崎、太田市、板倉、明和、千代田、邑楽町等すべて館林市と同様に地下水に大きく依存しているのが現状である。また企業が使用する工業用水も地下水に依存しており平成17年度群馬県の地下水汲み上げ採水量の合計は15,567万m3で、1日当り42.6万m3、毎分296m3の水を汲み続けている。
地下水の水質は必ずしも良質であるとは言えず、地域によってはシリカ(Si)、鉄、マグネシウム、カルシウムなどが過剰な物質が溶解し、お茶や紅茶を入れても本来のおいしさが損なわれてしまうのである。水源を河川水とする浄水場を経由する水(県水)の方がむしろ地下水より水質が安定し好ましいと考えられる。
地下水を長年汲み続ける弊害はその地域の地下水位が次第に下がってしまうことである。
かつて地下水位が地上付近まであったころは、多々良沼や城沼にも地下水が湧き水となり、また市内の小河川にも地下水がしみだし「川や沼の浄化機能」を果たしていたが、地下水位が低下してしまった現在はそれを望むべくもない。かつて多々良沼に生育していた「ムジナモ」が絶滅したのもこれが原因と考えられる。
地下水位が下がると次第に地表は乾燥化が進み、その地域固有の湿地性の植物はまず衰退し乾燥に強い植物移行し、地表の乾燥化は次第に自然環境を変化させ生育する動植物に多大な影響を及ぼしていると考えられる。また地下水位低下による地表の乾燥化は、夏の暑さ厳しくするヒートアイランド現象を加速しているのである。
館林(他の地下水を汲み上げている都市)が暑いのは温暖化によるものと、地下水汲み上げによる地表の乾燥化が原因していると考えられる。
ちなみに館林市に3箇所ある地下水位を観測している観測井の、平成18年度の平均地下水位は、1号観測井:-17.2m 、2号観測井:-17.23m 、3号観測井:-4.41mで、深いところは地表から17mも下がってしまったところにあるのが現状で、浅いところでも4mである。
地下水を汲み続けることによる地下水位の低下は同時に地盤の沈下を引き起こす原因となり、一度沈下した地盤は決して元に戻ることはないとされている。地盤沈下は道路の沈下・損壊、水道配管の漏水など、これらの長期に渡るインフラの補修・復旧に莫大な経費をつぎ込む原因にもなっている。
以上のように地下水を汲み上げによる弊害は、地下水位の低下による自然環境への影響、ヒートアイランド現象の加速、池・沼・小河川の汚濁の進行、地盤沈下、道路を含む地下インフラの損壊等平野部においては計り知れない負の弊害がある。
この解決策はこの水需要の水源を地下水依存から脱却し、将来100%表流水・河川水(県水)に移行していくことが重要であり、群馬県は表流水の確保に一層の努力が必要と考える。
3.表流水確保に「八ッ場ダム」は必要
(1)気候変動・異常気象による利根川水系の集中豪雨時の急激な増水をおさえ、利根川下流域の低地における堤防の決壊を防ぐ多大な役割がある。
現在異常気象により関東地方に何時集中豪雨があってもおかしくない状況にあって、集中豪雨の際のダムの役割は下流の都市の安全確保に重要な受け皿となり、大水害防止に寄与する。
(2)上記2.による地下水くみ上げを中止し、県水(表流水)の供給能力拡大のための、水資源確保に群馬県にとって「八ッ場ダム」は不可欠であり、日量42.6万m3の水需要を満たすには八ッ場ダムでもまだ足りない状況にあると考えられる。
(3)八ッ場ダムの完成により、水力発電による自然エネルギーの有効活用が促進される。
4.埼玉県の水需要
平成16年度置ける埼玉県における水道水及び工業用水として1日当たりの地下水揚水量は72.5万m3で群馬県と比較し1.7倍多く、現在約30%地下水に依存していると推定される。1985年代の埼玉県北東部は日本一の地盤沈下地帯であり、現在も沈下は進行している。埼玉県も群馬県と同様に地下水依存からの脱却を図るための表流水確保に「八ッ場ダム」は不可欠である。