台風15号が近畿を直撃したとき 僕は大阪出張の帰りだった
予定の新幹線の座席に座ってはいたものの いつ出発するかは未定だった
となりには女の子がいて 向こうから話しかけてきた
いつでるんでしょう
さあね こればかりは誰にもわからないよ
しばらく話したあと彼女は諦めて列車を降りた
僕はしまったと思った 名前さえ聞いていなかったのだ
結局その列車は運休となり 僕はホテルをとった
翌朝一番で新大阪駅に行き 自由席の切符を購入し 座席に着いた そして驚いた
なんと横に彼女が座っていた
あら 偶然ね
こういう偶然を見逃す手はないわ お名前なんとおっしゃるの
それから東京駅までの2時間半 僕たちは機関銃のように喋りあった
そして再会を約束して別れた
それから彼女からの連絡はなかった 僕は半分諦めていた
そこに台風16号が発生した 今度は関東直撃
携帯電話のベルが鳴った 彼女からだった
ねえ 今から会わない
だって 台風だよ
だからよ Xホテルの2階のラウンジ窓側の席にいるの 待ってるわ
僕はスラックスの裾を濡らしながら ホテルに向かった
君はいた 外を見ていた
やあ しばらく
あのね ここから外を見てるの 何が見える？
横殴りの雨と風に煽られる街路樹
いい答えだわ 台風を見てるの
素敵なあなたを運んできてくれた台風をね
