上野の国立科学博物館(カハク)で「大哺乳類展2」が行われています。「2」を付けることで、9年前に開催されて好評だった「大哺乳類展」の続編となるべく、主催者の意気込みを示しています。哺乳類が地球上で最も繁栄している動物の種となった秘密を探ることができます。サイエンスの展示ですが、芸術のように美しくもあります。
- 展覧会のサブタイトルは「みんなの生き残り作戦」、なぜ子孫を残し続けることができたのか?
- ガイコツからはく製まで、実物大で哺乳類の多様性を学べる展示は美しく、圧巻
- 哺乳類の強みと種の持続の理由を解説するパネルもとてもわかりやすい
サイエンス系の展覧会は近年増えており、私も行くようになりました。ただ標本を並べてあるだけのような、埃っぽい展示はもはやありえません。とても勉強になって楽しめます。
こんなはく製がある
科学博物館と言えば、修学旅行や遠足、子連れファミリーしか行かないという”偏見”に危機感を持っているのでしょうか。わが国を代表する上野のカハクは2004年に地球館、2007年に日本館のリニューアルを完成させ、まったく埃っぽさを感じさせない常設展示を充実させてきました。並行して特別展にも力を入れており、近年は年3回のペースで、サイエンスに必ずしもとらわれない多様なテーマで開催しています。
2016年の「世界遺産ラスコー展」、2017年の「古代アンデス文明展」のように、どちらかと言えば歴史分野でのテーマの展覧会も好評です。特別展を含めた年間入館者数は、隣にあるアート&カルチャー系の東京国立博物館(トーハク)と共に、おおむね200万人台であまり差はありません。圧倒的なコンテンツを誇るトーハクのマーケティング力の弱さが、カハクを訪れるととても目立ってしまいます。
哺乳類の立ち方の特徴 解説パネル
展示ではまず、哺乳類の強みとしてロコモーション(移動運動)の特徴に徹底的にスポットをあてます。冒頭から「哺乳類の立ち方の特徴」と、超マニアっくな入り方をしていますが、この話にはいきなりハマります。
両生類や爬虫類は、手足が胴体の真横から張り出すようについており、俊敏で複雑な動きはできません。哺乳類は手足が胴体の真下に延びるようについており、自在で多様なロコモーションができるようになります。
歩き方の特徴でなく、立ち方の特徴から歩き方を論じたことでとてもわかりやすい話になっています。会場では、興味喚起とわかりやすさを重視した解説が、あちこちでとても上手に行われています。
トラのガイコツ
様々な動物のロコモーションの特徴を、ガイコツの構造に着目して解説する展示も興味津々です。草食動物からチーター、ゴリラまで、様々な動物のガイコツを見ていると、とても美しく見えてきます。その動物に合わせたロコモーションができるよう、合理的で流れるようなボディ構造が芸術的に見えてくるからです。
チーターが走る際の骨の動きを、連続したガイコツのコマ画像で開設したパネルにも見とれてしまいます。動きにまったく無駄がなく、背骨がバネのようにしなって、手足の動きを助けています。このコマ画像を動画にしてYouTubeにUpすれば結構うけるのではと、個人的には感じてしまいました。
#大哺乳類展2 図録📙について、担当者イチオシの見どころポイントをご紹介!
— 特別展「大哺乳類展2―みんなの生き残り作戦」公式 (@mammals2_2019) 2019年4月21日
【その③ パラパラチーター】
展覧会のテーマのひとつである「ロコモーション」をパラパラ漫画で再現。チーターの骨格が動きます!💨💨 pic.twitter.com/nnKfTh5hOC
展覧会の公式図録では、各ページ右下にこのチーターのガイコツの動きのコマを印刷し、パラパラ漫画のように遊べます。この遊びだけで図録の売上がかなりUpするように思えてなりません。
トラとオオカミのガイコツの違いにも興味を持てました。瞬発力で獲物を捕まえるネコ科のトラの背骨はしなやかですが、持久力で獲物を捕まえるイヌ科のオオカミは柔軟な動きができそうには見えません。動きの無駄をなくすことで持久力を獲得しているのです。
会場中央、ただただ見とれる
会場中央の「哺乳類大行進」では150種以上のはく製が並びます。圧巻の一言以外、形容詞が見つかりません。空中にはクジラの模型が優雅に泳いでいるように、吊り下げられています。このクジラ、裏に回ると体の内部構造がわかるようになっています。巨体を維持する秘密もきちんと学べる心憎い演出です。
トラのはく製の体毛を触れるコーナーもありました。思わず触ってみましたが、短く太い毛が高密度でつまっており、頑丈な絨毯のようでした。不思議なことに奈良公園でなでた鹿の体毛の感触と似たような印象を受けました。ペットの犬や猫とは明らかに違います。
「食べる」秘密を探る、あごと歯に特化した展示も、生きるためのエネルギー補給の仕組みをわかりやすく興味深く伝えてくれます。「生む・育てる」秘密を探る展示では、親子で体毛の色がなぜ違うか、種によって異なる環境に対応するためであることがよくわかります。
展覧会の最後、哺乳類としての「ヒト」の進化の解説が印象に残りました。
- 唯一、直立二足歩行でロコモーションする
- 自由になった手が道具を使うようになり、とびぬけた脳の発達につながった
- 環境に適応するのではなく、環境を改変し、地球上でもっとも繁栄した種となった
生き物は、環境に適応し、種を残すために進化してきました。この絶対的な地球の”おきて”を、あらためて肝に銘じさせるエピローグです。
地球館と日本館の常設展示も素晴らしいです。真面目に見学すれば3日くらいはかかりそうです。サイエンスも、アートと同じく美しいのです。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
日本マイクロソフト元社長・成毛眞が語るカハクのヒミツ
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<東京都台東区>
国立科学博物館
特別展
大哺乳類展2 ーみんなの生き残り作戦
【主催メディアによる展覧会公式サイト】
主催:国立科学博物館、朝日新聞社、TBS、BS-TBS
会場:地球館B1F 特別展示室(1F特別展専用入口から入場)
会期:2019年3月21日(木)~6月16日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:00~16:30(金土曜~19:30)
※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この展覧会は、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。フラッシュ/三脚/動画撮影は禁止です。
※この博物館は、コレクションの常設展示を行っています。
国立科学博物館
【公式サイト】http:/www.kahaku.go.jp/
◆おすすめ交通機関◆
JR「上野」駅下車、公園口から徒歩5分
京成「上野」駅下車、正面口から徒歩10分
東京メトロ日比谷線/銀座線「上野」駅下車、7番出口から徒歩10分
東京メトロ千代田線「根津」駅下車、1番出口から徒歩15分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
東京駅→JR山手線/京浜東北線→上野駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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