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東京都現代美術館 リニューアル・オープン「百年の編み手たち」6/16まで

2019年04月26日 | 美術館・展覧会

2016年から約3年間の改修工事を終えた東京都現代美術館(MOT)が3月29日、待ちに待った再開の日を迎えました。リニューアル・オープン記念展は「百年の編み手たち」。日本人作家の現代アートの網羅性では日本随一のコレクションを持つMOTならではの、日本のアートシーンの100年を俯瞰できる展覧会です。

  • 定まった美術史感にはとらわれず、作家たちの表現に対する模索を現代まで振り返る
  • 企画展示室3フロアすべてを使う大型展、空間のゆとりと展示作品数の多さは格別


建物構造は変わっていませんが、内装の一新で館内はとても明るくなっています。案内サインのデザインやカフェも一新され、新しさを随所で”さりげなく”感じることができます。時間を気にせずゆっくり訪れることをおすすめします。展示作品の魅力と空間の快適さを、より感じ取ることができます。


1Fエントランス回廊の明るい陽光も久々に体験

展覧会のチラシを最初見た時には気付かなかったのですが、訪れた際に館のロゴマークが微妙に変わっているのに気づきました。見慣れた「MO+」のロゴの+がもう一つ加わって「MO++」になっていました。一年間限定とのことですが、デザインの出来栄えやロゴに込めた「もっと」という思いも踏まえると、ずっと使い続けてもよいのではと感じます。みなさんはいかがでしょうか。

【東京都現代美術館】 リニューアル・オープン記念ロゴ

展示は3Fから時代を追って進んで行きます。100年前のスタートは1914年に設定しています。日露戦争に勝利した日本は、明治が終わる直前の1911年に関税自主権を回復し、一等国の仲間入りを自負するようになります。1914年には辰野金吾が設計した現在の東京駅が完成し、暮らしと文化の両面で豊かさを謳歌する大正モダニズム時代に突き進んで行く時代でした。

1914年は日本の美術界にとっても大きな変革があった年でした。国家によるアカデミズムを象徴するような文部省美術展覧会(文展)に反旗を翻した若手洋画家のグループが「二科会(にかかい)」を結成します。「二科」には古典的な表現とは一線を画す洋画の新表現を目指す意味が込められています。二科会は現在も存続し、著名な展覧会・二科展を主宰しています。

岡倉天心が東京美術学校を追われて結成した日本美術院を、天心の死後に横山大観や下村観山が再興したのも1914年です。洋画/日本画の両面で、国家主導に一線を画すような活動が公然と行われるようになったのです。芸術表現の自由を国民自身がリードするようになった、国民の文化度の成熟という意味では画期的な年でした。

この展覧会における日本の20c美術の”百年”のスタート年の設定としては、とても上手に感じます。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

1914年の作品は、岸田劉生「椿君に贈る自画像」から始まります。竹橋の東近美にいかにもありそうな作品ですが、都現美の所蔵です。ポスト印象派的表現からいきなりドイツ・ルネサンス的表現に転向するなど、自在に表現の”編集”を試みた”編み手”が岸田劉生でした。

展覧会では”編集”というキーワードで、表現への新たな挑戦にスポットをあてていきます。表現がきわめて多様になり、従来の流派として説明することが難しくなった20c美術の潮流の説明には、合理的なやり方でしょう。


写真撮影OKの3F第2章の一部展示室

第2章「震災の前と後」では、大正期にヨーロッパの新しい絵画表現を吸収した画家たちが一気に芽を吹かせた時代でした。

第一次大戦に歯科医として参加した中原實(なかはらみのる)は、シュルレアリスムのような現実にはあり得ない構図で日本的なモチーフを描いた作品を発表しています。1929年の「月光と肖像(星と女性)」は、究極に感情を排除してロボットのように美人を描いた作品です。この作品を見た当時の人の驚きは大変なものだったでしょう。

中原實は戦後になるとさらに非現実的な描写を進化させます。1949年の「杉の子」は、マグリット作品を思わせる夢の中ような空の下の畳の上で、赤ん坊がすやすやと眠っています。アメリカ文化を一気に日本人が受け入れていた時代です。この作品を受容できる日本人はかなり増えていたように感じました。



1Fは主に60~70年代、B1Fは80年代以降の作品です。横尾忠則とオノ・ヨーコの作品はいつ見ても、ひたすら豊かさを求めて突き進んでいた昭和の人のみならず、現在の平成/令和の人も振り向かせるような”主張”を感じます。描写は対照的ですが「これでいいのか?」と問いかけてくるように感じます。まさに”編集”上手なアーティストでしょう。

パロディー作品では森村泰昌の他に、梅津庸一が目立ちました。黒田清輝の「智・感・情」を思わせる表現ですが、「智・感・情」を知らない人が見るとどのような印象を持つのか聞いてみたくなります。

全体の印象として、MOTの現代アートコレクションはすき間が少なく濃厚です。あえて言うと現在の日本人アーティストとして世界で最も知られる3人、草間彌生/奈良美智/村上隆の展示が少ない印象は否めませんでした。この3人の作品は国内の美術館には多くありません。MOTもあまり所蔵していないようです。日本のアート市場の現実が現れているように思えたのが気になりました。


2つのカフェ「100本のスプーン」と「二階のサンドイッチ」

コレクション展も同時開催されています。こちらも併せて鑑賞することで、MOTのコレクションの層の厚さをより実感することができます。現代アートを知ってみたい人、コレクションを始めたいと思っている人には、それぞれとてもよい勉強と目の訓練になると思います。現代アートのファンにすでになっている人も、いつ行っても心地よい非地上空間を体験できるでしょう。

コレクション展
MOTコレクション ただいま/はじめまして
【美術館による展覧会公式サイト】


こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



現代アートの学芸員の毎日をコミカルに学べる

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<東京都江東区>
東京都現代美術館
リニューアル・オープン記念展
企画展
百年の編み手たち -流動する日本の近現代美術-
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:東京都歴史文化財団、東京都現代美術館
会場:企画展示室3F/1F/B2F
会期:2019年3月29日(金)〜6月16日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30

※会期中、一部展示作品が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この展覧会の一部展示室の作品は、私的使用に限って写真撮影が可能です。
 フラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音と動画撮影は禁止です。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていますが、企画展開催時のみ鑑賞できます。




◆おすすめ交通機関◆

東京メトロ半蔵門線「清澄白河」駅下車、B2出口から徒歩9分
都営地下鉄大江戸線「清澄白河」駅下車、A3出口から徒歩13分
東京メトロ東西線「木場」駅下車、3番出口から徒歩15分
都営地下鉄新宿線「菊川」駅下車、A4出口から徒歩15分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
東京駅→東京メトロ丸の内線→大手町駅→東京メトロ半蔵門線→清澄白河駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には有料の駐車場があります。
※渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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