京都・龍谷ミュージアムで行われている「日本の素朴絵」展を見てきました。
展覧会のサブタイトル「ゆるい、かわいい、たのしい美術」の通り、アニメのようにほのぼのとした日本美術を楽しむことができます。
目次
- 美術用語としての「素朴絵」に注目
- 素朴な”ゆるかわ”日本美術をテーマにした展覧会がこんなにも
- ”ゆるかわ”絵巻は鳥獣戯画より面白い
- 庶民も知識人も”ゆるかわ”を楽しんだ
- 埴輪や仏像にも”ゆるかわ”が
美術用語としての「素朴絵」に注目
この展覧会では、「うまい・へた」の物差しでははかれない、「ゆるく・とぼけた・あじわいのある」絵画を「素朴絵」と定義しています。
展覧会を監修した跡見学園女子大学・矢島新教授が、松涛美術館の学芸員時代以来、長年取り組んできたテーマです。
最初にこの用語を耳にしたとき、とても上手なネーミングだと感じました。
「ゆるかわ絵」というとベタすぎるのに対し、洗練されていてとても知的な美術用語っぽく聞こえます。
西洋絵画でも「素朴派」という用語がありますが、画家の特徴を示します。
アンリ・ルソーに代表される、19c末に活躍したプロの画家ではない、素人の日曜画家たちです。
「素朴派」という言葉はあまり知られておらず、そもそも西洋絵画のオールドマスターには「素朴絵」に該当する作品はほとんどありません。
展覧会を見て、日本美術の新しいジャンルの定義として「素朴絵」という用語がもっと知られるよう、応援したくなりました。
日本人も外国人もみんな、アニメを彷彿とさせる「素朴絵」を知ると、必ずや魅了されます。
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素朴な”ゆるかわ”日本美術をテーマにした展覧会がこんなにも
2019年は、本展以外にも「素朴絵」にスポットをあてた展覧会が非常に目立っています。
- 3月「ゆるカワ日本美術」福岡市博物館
- 3月「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」府中市美術館
- 7月「本展 東京会場」三井記念美術館
- 7月「かわいいかわいい妖怪展」三次もののけミュージアム
- 10月「大津絵 -ヨーロッパの視点から-」大津歴史博物館
他にも、江戸時代の”ゆるかわ”の画僧・仙厓(せんがい)にスポットをあてた展覧会が、近年は少なくありません。
「素朴絵」は、もはや日本美術の「サブカル」ではなく、広範囲にファンを獲得できるまでに進化してきたとまで感じさせます。
龍谷ミュージアムの中庭はいつ見ても心が落ち着く
”ゆるかわ”絵巻は鳥獣戯画より面白い
展覧会は5つの章で構成されています。
- 第1章 絵本と絵巻
- 第2章 庶民の素朴絵
- 第3章 素朴な異界
- 第4章 知識人の素朴
- 第5章 立体に見る素朴
【公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
第1章「絵本と絵巻」では、全国の美術館から集められた「素朴絵」の名品がずらり並んでいます。
日本民藝館蔵「つきしま絵巻」「うらしま絵巻」は室町時代の説話集・御伽草子の絵巻の一つです。
庶民にも理解しやすいよう、紙芝居のように物語がほのぼのと表現されているところが注目されます。
両作品を見ていて鳥獣戯画との違いが気になりました。
鳥獣戯画を楽しんだのは主に知識人です。
そのため動物によるパロディであっても、描写は洗練されています。
両絵巻のほのぼのとした人間臭い表現は、鳥獣戯画とは真逆です。
素朴さというたまらない魅力は、鳥獣戯画にはありません。
【所蔵者公式サイトの画像】 「鼠草子絵巻」サントリー美術館
「鼠草子絵巻」も御伽草子ですが、こちらの描写には人間臭さは感じられません。
物語内容にあわせ、さまざまな描写の「素朴絵」が存在することに、見入ってしまいます。
大人も子供も展覧会を楽しめます
庶民も知識人も”ゆるかわ”を楽しんだ
第2章「庶民の素朴絵」では、大津絵(おおつえ)の名品が楽しめます。
【所蔵者公式サイトの画像】 「大津絵 鬼の三味線引図」大津市歴史博物館
大津絵とは、京都の一つ手前の東海道・大津宿で、江戸時代に旅人の土産物やお守りとして名物となった風刺画です。
「鬼の三味線引図」は放蕩する男性を風刺した作品で、まるでピクトグラムのように戒めへの思いが伝わってきます。後期のみ展示です。
第4章「知識人の素朴」では、江戸時代の知識人や著名な絵師も「素朴絵」を楽しんでいたことがわかります。
【所蔵者公式サイトの画像】 尾形光琳「竹虎図」京都国立博物館
「竹虎図」は、京都国立博物館のゆるキャラ「トラりん」になったことですっかり有名になりましたが、筆者はあの尾形光琳です。
琳派を代表する洗練された表現からは想像がつかないほど、ゆるく表現されています。
遊び上手だった光琳ならではの、”粋”でしょう。
埴輪や仏像にも”ゆるかわ”が
高槻市立今城塚古代歴史館蔵の埴輪は「力士」と名付けられています。
古墳時代に「力士」がいたのか?と叫びそうになりますが、その造形を見るとすぐに納得です。
あんこ型のおなかを手でたたこうとするような造形は、確かに「力士」にしか見えません。
満願寺蔵「薬師如来坐像」は、巨大な団子鼻が強烈な印象を醸し出します。
しかし仏像にしてはかなり胸板が厚く造形されており、団子鼻と妙にバランスがとれているところが、”傑作”です。
ミュージアムの裏にこんな絵になる建物があります
実に内容のしっかりした展覧会で、”素朴な”日本美術の名品を、これほどまでに多様に集めたことに驚かされます。
日本美術の多様性は」中世からすごかった」と、叫んでしまう展覧会でした。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
展覧会監修・矢島教授が届ける”ゆるかわ”の決定版
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利用について、基本情報
<京都市下京区>
龍谷ミュージアム
特別展
日本の素朴絵 -ゆるい、かわいい、楽しい美術-
【美術館による展覧会公式サイト】
主催:龍谷大学龍谷ミュージアム、毎日新聞社、京都新聞、NHK京都放送局、NHKプラネット近畿
会場:2,3階展示室
会期:2019年9月21日(土)~11月17日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30
※10/20までの前期展示、10/22以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、2019年9月まで三井記念美術館、から巡回してきたものです。
※会場毎に展示作品が一部異なります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。
◆おすすめ交通機関◆
JR/近鉄/地下鉄・京都駅から徒歩15分
地下鉄烏丸線・五条駅から徒歩15分
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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