奈良 大和文華館で、江戸初期風俗画の二大傑作が競演する「国宝彦根屏風と国宝松浦屏風」展が行われています。
両屏風はすぐ近くに展示されており、究極のオーラの違いを見比べて楽しめる、またとない機会です。
後世の浮世絵につながる江戸初期風俗画の魅力を、しっかりと味わうことができます。
秋色に染まる大和文華館の海鼠壁
目次
- 江戸初期に大流行した風俗画「遊楽図」は時代の鏡
- 国宝彦根屏風と国宝松浦屏風、オーラの違いをとくとご覧あれ
- 風俗画に描かれた人物はどんどん大きくなっていった
出陳中の「輪舞図屏風」の第四~五扇部分です。輪になって踊る輪舞は、人々が集まって行う屋外の楽しい遊びでした。多くの遊楽図に輪舞の様子が描かれていますが、この作品のように綺麗な円形になっているのは珍しいです。人物は小さいですが、繋いだ手の指先まで繊細に描き込まれています。 pic.twitter.com/bxkqURzpXY
— 大和文華館【公式】 (@yamatobunkakan) December 5, 2019
江戸初期に大流行した風俗画「遊楽図」は時代の鏡
美術用語で、市井の人たちの暮らしぶりや生活を楽しむ様子をモチーフとして描いた作品を指すのが「風俗画」です。
日本では、京の都の様子を描いた「洛中洛外図」がそのはしりと考えられています。
戦国時代真っただ中16c前半の「歴博甲本」国立歴史民俗博物館蔵が、現存最古の洛中洛外図です。
「洛中洛外図」は、当初は戦国大名が京の街の様子を家来や客人に見せるために描かせましたが、戦国の世が終わると、豊かな町衆たちから注目されるようになります。
モチーフも、観光ガイドのように京の都全体の名所をもれなく描くのではなく、四条河原など特定のスポットに絞って、遊びを楽しむ様子を描くよう変化していきました。
これが「遊楽図(ゆうらくず)」です。
ようやく訪れた平和と街の繁栄を謳歌する、新しい時代の到来の象徴のようなモチーフでした。
- 芝居見物や酒宴を楽しむ人々の表情や着物の描写は緻密
- 役者や見物人の着物のデザインは今見てもかっこよく、まるでファッションショーのよう
- 現存しない建物の姿や配置もわかり、歴史的にもとても貴重な資料
当時の最新トレンドがとてもよくわかり、今にも人々が飛び出してくるようにリアルに描かれている。
何と言っても「遊楽図」の最大の魅力でしょう。
銀杏の黄葉が絵になる大和文華館
彦根屏風と松浦屏風、オーラの違いをとくとご覧あれ
桃山時代から江戸時代初期に大流行した遊楽図の最高傑作と並び称されているのが、今回の展覧会のツイン主役である「彦根屏風と松浦屏風」です。
同じ展覧会で「ご一緒」するのは、3年前2016年秋の彦根城博物館「コレクター大名 井伊直亮-知られざる大コレクションの全貌-」以来ですが、その際展示室は別でした。
しかし今回の展示では、彦根屏風の一隻と松浦屏風の左隻が同じ視界に入るよう展示されており、まさに「競演」です。
風俗画ファンにはたまらない「しつらえ」になっています。
【所蔵者公式サイトの画像】 「彦根屏風(風俗図)」彦根城博物館
彦根城博物館で「彦根屏風」を最初に見た時、遊里で遊ぶ男女がとても「上品」に描かれているという印象を受けたことを、私は記憶しています。
- この時代の遊楽図屏風に多い1mほどの高さで、一隻だけの作品、コンパクトさはちょうどよい
- 余白が大きく金箔以外に何も描かれていない、主役に自然と目が行く
- 余白を活かした人物の配置とその着衣のデザインはとても優雅、描写も緻密で洗練されている
- 唯一背景のように描かれた屏風は中国の山水画で、文人趣味をうかがわせる
寛永年間(1624-44)の狩野派の絵師によると考えられている「彦根屏風」は、上流階級のサロンのような高級な遊里を描いたものでしょう。
そうでないと、こんな「洗練」された描写はできません。
彦根城
もう一人の主役「松浦屏風」は、「彦根屏風」とは対照的に「妖艶」なのです。
【所蔵者公式サイトの画像】 「松浦屏風(婦女遊楽図屏風)」大和文華館
- 同じく遊里を描いたものだが、遊女と禿(かむろ)だけで、客の男性は描かれていない
- 高さ150cm超の屏風に描かれた人物はほぼ等身大、しかも一双なので彦根屏風の2倍の圧巻のスケール
- 髪の毛や着物の文様の描写は、画面が大きいだけに彦根屏風よりさらに緻密、輝くような絵具の発色も驚愕
- 客の殿方を夢の国にいると錯覚させる「あやしい」女性の表情や目線は一人一人異なる、モナリザの微笑のように観る者をとりこにする
着物のデザインは桃山時代風ですが、制作年代は桃山時代から江戸半ばまで様々な説があることも、この作品の不思議な魅力を高めています。
西洋絵画にはよく見られる何かの暗示を、この作品から感じてなりません。
彦根屏風の「洗練」、松浦屏風の「妖艶」。
オーラの違いをぜひ楽しんでください。
出陳中の「邸内遊楽図屏風」(奈良県立美術館蔵)の第一~二扇部分です。遊郭と思われる邸の中や庭で人々が遊ぶ様子を描いた邸内遊楽図は、本作品を含め多くの作品が残されています。寛いだ表情の人々のそばには、料理を盛った器や、美しく蒔絵された料紙箱・硯箱などが贅沢に並べられています。 pic.twitter.com/hkMaCWL3ih
— 大和文華館【公式】 (@yamatobunkakan) December 7, 2019
風俗画に描かれた人物はどんどん大きくなっていった
この展覧会は、遊楽図が時代を追って作品が展示されています。
モチーフの描き方の変遷、すなわち時代の鏡の映し方がどのように変わっていくかを楽しむことができます。
描かれる空間の範囲はどんどん小さくなり、描かれる人物はどんどん大きくなるのです。
風俗画のはしり「洛中洛外図」は、範囲は京の街全体を描きました。
クローズアップされた名所の周辺に描かれた人物は小さく、まるでアリのようです。
続く遊楽図では、北野天満宮の境内や四条河原といった、特定の娯楽スポットだけを描きます。
おのずと範囲は狭くなり、人物は大きくなりました。
何を楽しんでいるのか、どんなファッションで着飾っているか、わかるようになります。
モチーフの主役が、街の風景から人物に、移り変わっていることが見逃せません。
次に流行する、個人の屋敷の中だけを描いた「邸内遊楽図」や、さらに範囲の狭い松浦屏風のような室内だけを描いた遊楽図にも、この傾向は受け継がれます。
行きつく先は、寛永時代から約20年後に現れた、背景がなく人物だけを描いた「寛文美人」と呼ばれる美人画です。
浮世絵にも、美人画人気は引き継がれていきます。
- 狩野孝信「北野社頭遊楽図屏風」個人蔵
- 「邸内遊楽図屏風」奈良県立美術館蔵
- 「松浦屏風」大和文華館蔵
- 「舞妓図」大和文華館蔵
と順に見比べてください。
とっても面白いですよ。
また、ちょっと贅沢な屏風仕立ての一品もございます。大きな屏風がコンパクトにまとまり、家に居ながらにして国宝を観覧している気分を味わえます。価格は、彦根屏風が5,170円、松浦屏風が5,830円【いずれも税込み】で、ミュージアムショップにて販売中です。 pic.twitter.com/HJk47BPSPO
— 大和文華館【公式】 (@yamatobunkakan) November 29, 2019
西洋絵画で風俗画と受け止めることができる最初期の作品は、くしくも日本の洛中洛外図と同じ頃、フランドルでブリューゲルが描いた「農家の婚礼」ウィーン美術史美術館でしょう。
風俗画が市民の間で大流行したのも日本と同じ頃、16cのオランダです。
ハルス、レンブラント、フェルメール、本当に輝くような時代でした。
風俗画は「時代の鏡」、400年前にタイムスリップしてみましょう。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
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利用について、基本情報
<奈良県奈良市>
大和文華館
特別展国宝彦根屏風と国宝松浦屏風
―遊宴と雅会の美―
【美術館による展覧会公式サイト】
主催:大和文華館
会期:2019年11月22日(金)~12月25日(水)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:00
※12/8までの前期展示、12/10以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。
◆おすすめ交通機関◆
近鉄奈良線「学園前」駅下車、南口から徒歩7分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:55分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→学園前駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には無料の駐車場があります。
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