修復で蘇った文化財を集めたという興味深い美術展「文化財よ、永遠に」が、京都・泉屋博古館(せんおくはくこかん)で行われています。
文化財修復で得られる様々な成果も学ぶことができます。
目次
- 文化財を修復すると新たな発見がある
- 国宝「明月記」など著名作品がずらり、住友財団の修復助成
住友財団が30年続けてきた文化財修復への助成による素晴らしい成果が一堂に会しました。
アメリカの文化財修復実績
泉屋博古館は、日本の歴史的な大店(おおだな)・財閥を代表する名家の一つ、住友家が蒐集した美術品コレクションを保管・展示する美術館です。
日本と東洋の美術品コレクションの質は国内有数です。
「せんおくはくこかん」という、日本有数の難読美術館名称としても”有名”ですが、「泉屋(いずみや)」というのは江戸時代に銅精錬業により大坂で日本最大級の大店となった住友の屋号です。
住友コレクションにとっては、とても大切な”名前”なのです。
文化財を修復すると新たな発見がある
この展覧会「文化財よ、永遠に」の展示品はすべて、文化財修復によってリフレッシュされた作品で構成されています。
展示品の修復を助成したのは、住友グループ企業各社により1991年に設立された「住友財団」です。
公的な文化財保護予算確保への理解が進まない日本において、住友財団が30年に渡って継続している文化財修復助成はとても注目されます。国内はもちろん、欧米の美術館が所蔵する日本美術や、世界中の文化財の文化財修復助成を行っています。
世界トップクラスと言われる文化財の修復技術を活用し、とてもたくさんの名品に再び輝きを取り戻させているのです。
「元の状態を改変しない」という文化財修復の大原則をふまえるために、修復方法を検討するための事前の科学的調査も大抵行われます。
主な目的である「美しさを蘇らせるリフレッシュ」以外にも、現代の最先端科学技術により様々な付帯成果を創出することができます。
- 制作に用いた素材や修正の過程が判明し、名作の制作履歴が明らかになる
- 仏像胎内など外部から見えない部分への記録から、制作時期・作者など歴史的事実が明らかになる
- 過去の修理でよく見られる当初の姿からの変容を、制作当初の元の姿に戻すことができる
- 最先端科学に基づいた詳細な記録を残すことで、次回の修復をスムースにする
- 修復を続けることで、”いにしえ”から伝わる制作・修復技術を継続できる
展覧会では多くの展示作品で修理の様子や修理技法のパネル解説が行われています。
一般的な展覧会ではなかなか得られない、文化財を維持する”匠の技”について学べること。何と言ってもこの展覧会の大きな魅力です。
館の借景は大文字山
この展覧会は全国4か所の美術館でほぼ同時並行で行われるという、異色の演出がなされています。
住友財団は30年間で、1,000件を超える文化財修理を助成しています。
修復によって得られた新たな知見を幅広く紹介するために、展示作品を4会場に分けたのでしょう。
すみ分けはおおむね以下になります。
- 泉屋博古館(京都):関西にある文化財(仏像除く)
- 泉屋博古館分館(東京):主に東日本にある文化財(仏像除く)
- 東京国立博物館:全国の仏像(九州・沖縄除く)
- 九州国立博物館:九州・沖縄にある文化財
国宝「明月記」など著名作品がずらり、住友財団の修復助成
出展リストを見ると、見覚え/聞き覚えのある著名作品が多いことに気づかされます。国宝・重要文化財も目白押しです。
【住友財団公式サイトの画像】 「大日如来坐像」浄瑠璃寺
京都府最南端の山中ある国宝/重文の宝庫・浄瑠璃寺が所蔵する文化財では”珍しく”文化財指定を受けていませんが、若き日の運慶の傑作、奈良・円成寺(えんじょうじ)・国宝の大日如来像にとてもよく似た神秘的で美しいオーラを発しています。
平安末期の慶派仏師の作と考えられており、毎年1月の3日間しか公開されない美仏です。修理の際には近世の修理で後補された下地を取り除き、制作当初の姿に近づけられました。
京都・建仁寺の塔頭・霊源院(れいげんいん)のルーツとなった南北朝時代の僧・中巖圓月(ちゅうがんえんげつ)の坐像彫刻は、写実的な美しさでは日本の肖像彫刻のトップクラスです。
玉眼が表情のリアルさを強調し、時間の経過で黒光りするようになった地肌が像の存在をとても神秘的に見せています。
修理の際に発見された胎内仏・毘沙門天立像もあわせて出展されています。
小振りながら意志が強そうに造形された表情が印象的です。
【住友財団公式サイトの画像】 狩野山楽「唐獅子図」養源院
山楽筆の「唐獅子図」は、俵屋宗達筆の襖絵「松図」と並んで、京都・養源院が誇る桃山美術の傑作です。
本物を常時公開で鑑賞できるという、京都でも数少ないお寺として知られています。
仏壇の正面下部の板に描かれた珍しい小振りの獅子ですが、荒々しさの表現は見事です。
絵の具や紙の剥落が修復され、輝きを取り戻しています。
国宝の「山水(せんすい)屏風」神護寺蔵は、東寺旧蔵・現京都国立博物館蔵と並ぶ、中世のやまと絵屏風の傑作です。
元は貴族の邸宅にありましたが、密教寺院に移されて儀式で用いられ、現代まで伝えられたものです。
平安貴族が好んだ優雅な趣が見事に表現されています。
後世の修理で配列が錯綜していたのを、修理の際に元に戻しました。前期のみ展示です。
【住友財団公式サイトの画像】 長谷川等伯「竹林七賢図屏風」両足院
京都・建仁寺の塔頭・両足院(りょうそくいん)が所蔵する「竹林七賢図屏風」は、等伯晩年の円熟味を感じさせる名品です。
人物の表情の描写がそれぞれ個性的で、七人が持つ知恵を見事に描き分けています。
扇をつなぐ蝶番が破損して自立できないなど、深刻だった状態が修理で見事に蘇りました。後期のみの展示です。
【文化庁・文化遺産オンラインの画像】 藤原定家「明月記」冷泉家時雨亭文庫
藤原定家「明月記」は、日記では藤原道長「御堂関白記」と並ぶ、芸術的にも歴史的にも超一級の史料です。
全長700mもある巻物のため12年を要した修復の半分を住友財団が助成、裏打紙を中心に丁寧な補修が行われました。
【住友財団公式サイトの画像】 以心崇伝「武家諸法度草稿」金地院
徳川家康と秀忠のブレーン、金地院崇伝が構想を練った「武家諸法度」の”草稿”という、珍品の重要文化財です。
手擦れによる表面の毛羽立ちなどが修復されました。
琵琶湖疎水トンネル「ねじりまんぽ」
日本では財団による助成はひっそりと行われることが一般的でしたが、近年は積極的にPRする姿勢も見られます。
美術品修復の分野でも、こうした展覧会により”裏方の努力”がPRされることは素晴らしいことだと感じました。
泉屋博古館さん、とても価値のある企画をありがとう。
泉屋博古館へは地下鉄蹴上駅から歩くと、ねじりまんぽの赤煉瓦と南禅寺の美しい境内を満喫できます。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
美の最高峰、東京藝大が紐解く日本画のヒミツ
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<京都市左京区>
泉屋博古館
住友財団修復助成30年記念
「文化財よ、永遠に」
【美術館による展覧会公式サイト】
主催:泉屋博古館、住友財団、住友グループ各社、読売新聞社、京都新聞
会期:2019年9月6日(金)~10月14日(月)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30
※9/23までの前期展示、9/25以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は全国4会場でほぼ同時期に行われています。4会場で展示作品はすべて異なります。
泉屋博古館分館(東京) 9/10~10/27
東京国立博物館 10/1~12/1
九州国立博物館 9/10~11/4
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていますが、企画展開催時のみ鑑賞できます。
◆おすすめ交通機関◆
京都市バス「宮ノ前町」バス停下車徒歩1分、「東天王町」バス停下車徒歩3分
地下鉄東西線「蹴上」駅1番出口からから徒歩20分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30~40分
京都駅烏丸口D1バスのりば→市バス100系統→宮ノ前町
【公式サイト】 アクセス案内
※休日の午前中を中心に、京都駅ではバスが満員になって乗り過ごす場合があります。
※休日の夕方を中心に、渋滞と満員乗り過ごしで、バスは平常時の倍以上時間がかかる場合があります。
※この施設には無料の駐車場があります。
※休日やイベント開催時は、道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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