パースにいた頃、クラスメイトにいやなやつがいた。
スイス人女子で、かなり年下。
絶対的に気に入らなかったのは、完全に日本人を見下していたことだった。
日本人の発音をバカにしたり、「何て言ってるのかわからない」とため息をついてみたり。
直接そういう態度をされたことはなかったけど、同じ日本人に対する態度が悪いのは、どう考えても気分のいいものじゃない。
こいつやなやつだな、と思っていた。
が、ある日のこと。
たまたま隣に座ったら「見て」というジェスチャーをして自分のノートを差し出してきた。
ノートにあったのは、「消しゴム」という日本語。
…消しゴム?
「何コレ?」と笑うと、彼女は私の消しゴムを指差して、
「マネして書いた」と笑った。
やつの態度から、てっきり日本人が嫌いなのかと思っていたら、実は日本人のホームステイを受け入れたり、その影響で日本語をかじったりしていたようで。
日本は好きだけど、日本人のはっきりしない物言いや態度がどうも気に入らないらしかった。
経験上、ヨーロピアンに多いんだけど、やたらと人の物を使う。
「貸してくれない?」なんて、あんま聞いてくれない。
慣れるまでは、結構むかつく。
スイス女子は、ジャスミンちゃんという名前。
一度だけ筆ペンを貸してあげたら、毎日「JAPANESE PEN 貸して」と有無を言わさず持っていく。
愛想もなにもあったもんじゃないのだ。
そして筆ペンを渡すと、やつの書いた日本語を添削せねばならんのだった。
ある時なんて、
「目を閉じてごらん、キスしてあげる」
とか書いたの見せてきて、びっくりした。
いつ使うんだこんなの(笑)って。
そして突然、私の筆ペンを持ったまま、何日もホリデーをとりやがった。
「ああ、もう私の筆ペンは返ってこないのね…」と思った。
まぁ、返ってきたけどね。
そしていよいよ私の卒業式。
最後のクラスで、ジャスミンに筆ペンを差し出した。
人の筆ペンで、「無印良品」だの「ジャスミン」だの、手を真っ黒にしていろんなとこに書きまくってたし。
そんなに好きならあげようと思って。
「あげるよ」と言った時のジャスミンの顔は、マンガのようだった。
パァァッとホッペがピンクになって。
ほんとにビックリしていて、ほんとに嬉しそうだった。
「いいの?ホントに??」と繰り返し聞いてきた。
筆ペンも、ここまで喜ばれりゃ本望でしょ。
あれから1年以上。
ジャスミンからお手紙が届きました。
そこには筆ペンの文字。
代えのインクもあげたのですが、ここぞ!という時にだけ使ってるらしい。
今は、教師になる勉強をしてるんだって。
「カオリみたいな先生になりたい」なんて書いてくれました。泣かすー!
社交辞令なんて言わない子だったから。
それとも大人になったのかしらー
というわけで、私の筆ペンは今スイスにいます。