「ラインの仮橋」の上映時間は125分。面白い映画だと2時間なんてあっという間のはずですが、これは些か実際の時間以上に長く感じられる作品でした。対照的な生き方をする男二人のドラマを並行するような形で描いていて、その違いが観客の印象に何か化学的変化を起こすかというとそうでもないんですね。
アンドレ・カイヤットの演出は、手堅く、要所要所で緩急もつけていて、ヴェネチア国際映画祭でのサン・マルコ金獅子賞受賞が納得の出来なのに、主役の二人が絡むエピソードもそんなに多くなく、全体の印象は二つのドラマを交互にみせられている感じなんです。
ジャンは何とか脱走しようと次の手を考える男で、ロジェは捕虜という境遇を運命と受け入れる男。
しかも(映画はこの後、パリ解放までの数年間が描かれるのですが)、ロジェの方はヒューマン・ドラマだし、ジャンの方は後半が男女の愛が軸のメロドラマになっていくんです。
最近のように時間軸をいじることもない編集だと余計に二つのドラマの違いが浮き彫りになりますね。ロジェが主演でジャンが脇役のヒューマン・ドラマとジャンとフロランスのメロドラマ、それぞれエピソードを付け加えて2本の映画が作れそうです。
ロジェが割り与えられた農家はその村の村長の家で、村長は捕虜であるロジェを一人の人間として丁重に扱う人でした。ロジェに意地悪をしてしまう息子をたしなめることの出来る男で、食事も家人と同じテーブルで摂らせます。年頃の娘ヘルガ(トラントフ)もロジェの人の善さを見出せる女性でした。
段々と戦況はドイツに不利になっていき、村長も戦争に取られ、やがて幼かった息子にも召集がかかってきます。村の男達も少なくなり、新しい村長の手伝いをするうちに、いつしかロジェは村中から信頼される男になっていくでした。
ジャンの方は後半、愛のドラマになると書きましたが、お相手はプロローグで少しだけ出てくる女性記者のフロランスです。
フロランスはジャンを好いていて、出生する前の彼のアパートを訪ねて翻意を促すのですが、彼の意志は固く、彼女は部屋を出て行こうとします。ジャンも美しい彼女を憎からず思っていたので、愛し合っているのに何もせずにこのまま帰ってしまうのかと言葉を投げかけます。彼女は貧しい生まれなので、どんなに好いた男でもお金の心配をしなくてはいけないのはお断りという信条があるんですが、それでもジャンには惹かれてしまうようです。
この後の展開で、ジャンとフロランスの腐れ縁というか、愛憎紙一重の関係が戦争終結後まで描かれていきます。
▼(ネタバレ注意)
ジャンは最初は老夫婦と(戦地に行った息子の)嫁との三人家族の農家に行かされますが、逃亡の準備を画策している疑いを持たれ、ロジェと同じ村長の家に変更されます。
ロジェと気安くなっていたヘルガは、新しくやってきたジャンがハンサムなので段々とジャンが好きになっていきます。時々ヘルガの運転するトラックで軍に食料などを運ぶことがあり、その道中にチャンスが出来るとジャンは睨みました。脱走の準備が出来たジャンはロジェも誘いますが、その手段はヘルガや彼女の家族を騙す事になるのでロジェは同行しないと言います。
ジャンの脱走は成功し、ヘルガは恥ずかしい思いをした上に、後日警察に連行され、家族から離れて強制労働を強いられる事になります。
数ヶ月後にヘルガは帰ってきますが、最初はロジェにも口を利きません。父親が戦地で亡くなり、弟も出征する中で、段々とロジェへの信頼感を取り戻していくのです。
パリへ帰ったジャンを待っていたのは、ナチスに迎合していた編集委員が社長になり、その男の右腕となったフロランスでした。
「あたしが望んだ戦争じゃないわ。それを利用して何が悪いの」
そううそぶくフロランスですが、帰ってきたジャンを他のどの男よりも受け入れてしまい、ジャンもそんな彼女を放し難く思うのでした。
ジャンはレジスタンス活動をしながら新しい新聞の発行に情熱を燃やします。やがて、連合国軍がパリに攻め込み、かつてナチスに加担していたフランス人には厳しい時代になっていきます。ジャンは新しい新聞社の社長となり、愛し合うようになったフロランスと結婚することを宣言しますが、社員からはかつてナチスに擦り寄っていたフロランスを妻とするのなら、社長を辞めるか、結婚を止めるかの二択を迫られるのです。
父親の死のショックからついに母が倒れ、とうとうヘルガ一人となった家を、ロジェが去っていく日が突然来ます。戦争が終わったので当然ですが、ドイツは戦敗国、途方にくれた顔で見送るヘルガも戦争被害者なんですよね。トラックの上からそんな彼女を見つめ続けるロジェにも全然解放の歓びは沸いてきません。
パリに戻ったロジェを待っていたのは、以前と変わらない日々。姑が亡くなっていたのは手紙で知ってましたが、まさか可愛かった嫁が姑と同じような潤いの無い人間になっていたとは想像していませんでした。ちょっと変貌が作為的ではありますがネ。
ロジェは、周りの人々に信頼されていたドイツの村での生活が恋しくなっていきます。また、一人になってしまったヘルガの事もずっと気にかかっており、ついに新聞社の社主であるジャンを訪ねてある事を頼みます。それはロジェを記者と偽り、ドイツへの取材出張命令を下すことでした。
そんな事をしている間にも、ジャンの自らの進退を決定すべき時間は刻々と迫ってきます。ジャンがロジェとライン川に架かる橋に向かっている頃、フロランスは、自ら身を引いてパリを出て行きます。ジャンが社長を辞めることを会社側に告げた事も知らずに・・・。
ラストシーンは、橋を渡ってヘルガのいるドイツへ入っていくロジェと、彼を見送っているジャンです。さて、ヘルガは今もロジェを待っているのか? 去って行ったフロランスとジャンが再びめぐりあう事は出来るのでしょうか?
▲(解除)
アンドレ・カイヤットの演出は、手堅く、要所要所で緩急もつけていて、ヴェネチア国際映画祭でのサン・マルコ金獅子賞受賞が納得の出来なのに、主役の二人が絡むエピソードもそんなに多くなく、全体の印象は二つのドラマを交互にみせられている感じなんです。
ジャンは何とか脱走しようと次の手を考える男で、ロジェは捕虜という境遇を運命と受け入れる男。
しかも(映画はこの後、パリ解放までの数年間が描かれるのですが)、ロジェの方はヒューマン・ドラマだし、ジャンの方は後半が男女の愛が軸のメロドラマになっていくんです。
最近のように時間軸をいじることもない編集だと余計に二つのドラマの違いが浮き彫りになりますね。ロジェが主演でジャンが脇役のヒューマン・ドラマとジャンとフロランスのメロドラマ、それぞれエピソードを付け加えて2本の映画が作れそうです。
ロジェが割り与えられた農家はその村の村長の家で、村長は捕虜であるロジェを一人の人間として丁重に扱う人でした。ロジェに意地悪をしてしまう息子をたしなめることの出来る男で、食事も家人と同じテーブルで摂らせます。年頃の娘ヘルガ(トラントフ)もロジェの人の善さを見出せる女性でした。
段々と戦況はドイツに不利になっていき、村長も戦争に取られ、やがて幼かった息子にも召集がかかってきます。村の男達も少なくなり、新しい村長の手伝いをするうちに、いつしかロジェは村中から信頼される男になっていくでした。
ジャンの方は後半、愛のドラマになると書きましたが、お相手はプロローグで少しだけ出てくる女性記者のフロランスです。
フロランスはジャンを好いていて、出生する前の彼のアパートを訪ねて翻意を促すのですが、彼の意志は固く、彼女は部屋を出て行こうとします。ジャンも美しい彼女を憎からず思っていたので、愛し合っているのに何もせずにこのまま帰ってしまうのかと言葉を投げかけます。彼女は貧しい生まれなので、どんなに好いた男でもお金の心配をしなくてはいけないのはお断りという信条があるんですが、それでもジャンには惹かれてしまうようです。
この後の展開で、ジャンとフロランスの腐れ縁というか、愛憎紙一重の関係が戦争終結後まで描かれていきます。
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▼(ネタバレ注意)
ジャンは最初は老夫婦と(戦地に行った息子の)嫁との三人家族の農家に行かされますが、逃亡の準備を画策している疑いを持たれ、ロジェと同じ村長の家に変更されます。
ロジェと気安くなっていたヘルガは、新しくやってきたジャンがハンサムなので段々とジャンが好きになっていきます。時々ヘルガの運転するトラックで軍に食料などを運ぶことがあり、その道中にチャンスが出来るとジャンは睨みました。脱走の準備が出来たジャンはロジェも誘いますが、その手段はヘルガや彼女の家族を騙す事になるのでロジェは同行しないと言います。
ジャンの脱走は成功し、ヘルガは恥ずかしい思いをした上に、後日警察に連行され、家族から離れて強制労働を強いられる事になります。
数ヶ月後にヘルガは帰ってきますが、最初はロジェにも口を利きません。父親が戦地で亡くなり、弟も出征する中で、段々とロジェへの信頼感を取り戻していくのです。
パリへ帰ったジャンを待っていたのは、ナチスに迎合していた編集委員が社長になり、その男の右腕となったフロランスでした。
「あたしが望んだ戦争じゃないわ。それを利用して何が悪いの」
そううそぶくフロランスですが、帰ってきたジャンを他のどの男よりも受け入れてしまい、ジャンもそんな彼女を放し難く思うのでした。
ジャンはレジスタンス活動をしながら新しい新聞の発行に情熱を燃やします。やがて、連合国軍がパリに攻め込み、かつてナチスに加担していたフランス人には厳しい時代になっていきます。ジャンは新しい新聞社の社長となり、愛し合うようになったフロランスと結婚することを宣言しますが、社員からはかつてナチスに擦り寄っていたフロランスを妻とするのなら、社長を辞めるか、結婚を止めるかの二択を迫られるのです。
父親の死のショックからついに母が倒れ、とうとうヘルガ一人となった家を、ロジェが去っていく日が突然来ます。戦争が終わったので当然ですが、ドイツは戦敗国、途方にくれた顔で見送るヘルガも戦争被害者なんですよね。トラックの上からそんな彼女を見つめ続けるロジェにも全然解放の歓びは沸いてきません。
パリに戻ったロジェを待っていたのは、以前と変わらない日々。姑が亡くなっていたのは手紙で知ってましたが、まさか可愛かった嫁が姑と同じような潤いの無い人間になっていたとは想像していませんでした。ちょっと変貌が作為的ではありますがネ。
ロジェは、周りの人々に信頼されていたドイツの村での生活が恋しくなっていきます。また、一人になってしまったヘルガの事もずっと気にかかっており、ついに新聞社の社主であるジャンを訪ねてある事を頼みます。それはロジェを記者と偽り、ドイツへの取材出張命令を下すことでした。
そんな事をしている間にも、ジャンの自らの進退を決定すべき時間は刻々と迫ってきます。ジャンがロジェとライン川に架かる橋に向かっている頃、フロランスは、自ら身を引いてパリを出て行きます。ジャンが社長を辞めることを会社側に告げた事も知らずに・・・。
ラストシーンは、橋を渡ってヘルガのいるドイツへ入っていくロジェと、彼を見送っているジャンです。さて、ヘルガは今もロジェを待っているのか? 去って行ったフロランスとジャンが再びめぐりあう事は出来るのでしょうか?
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