テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

いのちの紐

2020-01-16 | サスペンス・ミステリー
(1965/シドニー・ポラック監督/シドニー・ポワチエ、アン・バンクロフト、テリー・サバラス、スティーヴン・ヒル/98分)


 1965年製作のアメリカ映画「いのちの紐(ひも)」を観る。
 2005年に書いたアン・バンクロフトの訃報記事で、彼女の出演映画の中で見逃していて残念な作品の一つとして挙げていたもので、この度ツタヤの(発掘良品として)棚に並んでいたのでレンタルしてきました。
 漠然と監督はアラン・J・パクラと思っていましたがシドニー・ポラックでした。それまでTVドラマを手掛けていたポラックさんの劇場用映画の監督デビュー作らしいです。

*

 物語の舞台は西海岸北部の港町シアトル。
 当時のアメリカでは2分に一人の割合で自殺未遂が発生していて、それを防ごうと「自殺防止協会」という組織を作り、「いのちのダイヤル」を開設して一人でも自殺志願者を減らそうとしていたのです。
 この映画は、「いのちのダイヤル」に電話を掛けてきた睡眠薬自殺を図る一人の女性と彼女の命を救おうと必死で説得を続けるボランティアの黒人大学生との或る一夜の物語であります。【原題:The Slender Thread】

 黒人大学生アラン・ニューウェルに扮するのはなんと当時38歳のシドニー・ポワチエ。2年前の「野のユリ」で主演オスカーを獲った彼の、同じくヒューマニズム溢れる演技がドはまりしている役でした。
 睡眠薬自殺を図る女性インガ・ダイソンにはアン・バンクロフト。彼女も3年前の「奇跡の人」でオスカーを受賞した名女優でした。
 そして、「自殺防止協会」の所長をテリー・サバラスが演じています。

 オープニングはシアトルを俯瞰で捉えた映像が続いて、その中に愁いを帯びた表情で街角に佇むインガの姿も見えます。大学のキャンパスから出てきて「自殺防止協会」のあるビルに向かって車を走らせるアランも挿入されて、BGMのクインシー・ジョーンズのジャズが軽快なリズムながらもサスペンスドラマの序章らしいムードでした。

 でも何と言ってもこのドラマの成功の最大要因はスターリング・シリファントの脚本でしょうね。(但しオリジナルではなく、『ライフ』誌に掲載されたシャヴァ・アレクサンダーの実話が元ネタらしいです)
 インガが電話を掛けてきた時には既に睡眠薬を大量に飲んだ後で、あと何時間か後には絶命するかもしれないという状況。なのでアランは電話での会話をなるべく伸ばして逆探知をして彼女の居場所を探ろうとするんですね。つまり時限サスペンスの要素があるんです。
 逆探知をするには電話局の協力が必要ですが、その辺の仕組みは出来ていて、局の動きもカットバックされながら描かれます。
 また「自殺防止協会」の所長はその夜家族と外出する予定で、但し緊急の場合は戻ってくると連絡先をアランに知らせています。電話局との連携で所長に連絡が取れたり、「自殺防止協会」の仲間も集まってくれたり、アランも孤軍奮闘ではなくなっていくんですが、所長曰く『彼女は君と話をしている。いま他の者に代わると電話を切る可能性が高い』
 あくまでも独りで対応していると思わせるべくアランは受話器を握り続けるのです。
 警察、電話局との連携の様子も当時は目新しい感覚で見られたでしょうし、なかなかインガの居場所が特定できなくて、今見てもハラハラしますね。

 アランとインガの会話の中、彼女の人生が折々に過去映像として挿入され、自殺に辿り着いた原因についても謎解きのシークエンスになっていて映画的です。
 全体としても2時間TVドラマの感覚で観れるコンパクトな作品ですね。

 カメラのロイヤル・グリッグスはあの「シェーン」でオスカーを獲った人。今作はモノクロでした。
 お馴染みのイーディス・ヘッドはここでも衣裳デザイン賞にノミネートされたそうです。





▼(ネタバレ注意)
 インガを自殺未遂にまで追い込んだ問題について書いておこうと思いましたが、つまびらかにするのは止める事にしました。自身への備忘録としても、ヒントで宜しかろうと。
 12歳の息子も巻き込みかねないシリアスな夫婦の問題であり非はほぼインガにあるのですが、この映画はサスペンスドラマなので、その問題の評価はさておいて、彼女を病的にさせてしまったことだけ受け入れるのが鑑賞者としては正しい態度でしょう。
 形式上はハッピーエンドですが、彼らの今後の人生を考えると素直に喜べないところもありますね。

 この2年後の「卒業」のミセスロビンソンにアン・バンクロフトはキャスティングされるのですが、この作品が影響を与えたのではあるまいかと観ていてふと思ったりしました。
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・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠

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