(2019/ポン・ジュノ監督・共同脚本/ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム/132分)
韓国映画は高評価の多いキム・ギドク監督作品でさえ一本も観ていない僕だが流石にコレはいつか観ようと思っていた。なにせ米国アカデミー賞の作品賞、監督賞を受賞したのだから。それが先月、地上波でノーカット放送されたので迷わず録画した。以前ならNHK以外はなかなか録画もしなかったが、去年買ったレコーダーは再生時にCMをスッ飛ばしてくれるスキップボタンがあるので助かるのだ。
韓国、ソウル。
かつてソウルでは北朝鮮からの攻撃に備えて集合住宅を建てる際には防空壕として地下に部屋を設ける事が義務化されていた。時と共にその危機意識も薄れていき、また経済的な理由もあって地下室も住居として賃貸することが許されるようになった。外光を採り入れる窓が小さく虫の発生も多い、この半地下の部屋は賃借料が安い為、貧困家庭の象徴的なものとなっていた。
この映画は、そんな半地下で暮らす貧困家族が主人公である。
父親のキム・ギテクは何事にも我慢強く温厚な男。その妻のチュンスクは元アスリート。息子のギウは2年目の大学浪人で、美術系が得意な妹のギジョンも浪人生という四人家族だ。
ピザ屋の配達用紙パックの組み立てアルバイトを家族総ででやっているという家族紹介のシーンが簡潔に描かれた後、ギウの友人でエリート大学生のミニョクが訪ねて来て物語は動き出す。
ミニョクの用事はこういう事だった。
長期の留学をすることになったのだが、今英語の家庭教師をしているパク家の長女、女子高生ダヘの後任の先生になって欲しいというのだ。ギウが自分は大学生でもないしミニョクには学生の知り合いが沢山いるだろうに何故?と聞くと、ミニョクは可愛いダヘに性欲旺盛な大学生は紹介したくないし、ギウの英語の実力は学生並みだから問題ないというのだ。自分の紹介ならばあちらの親も疑わないし、なにしろダへの母親はミニョク曰く『シンプルな人』らしい。つまり単純な人というわけ。要するにミニョクはダヘが好きなのだ。
ダヘの父親はIT企業の社長をしている金持ちなのでアルバイト料も良い。ギウは妹のギジョンに学生証明書を偽造させて、高台にあるパク家の大豪邸を訪ねるのであった。
英語原題は【parasite】。寄生生物ですな。
邦題では後ろに「半地下の家族」とつけて、ちょっと「万引き家族」を連想させるようなモノになっていますが、この映画には社会的な視点を無理強いさせるような所はないです。単純にサスペンスとして楽しめます。勿論、現代社会の物語ですから世相は反映されていて、ブラック・コメディ的な部分も多くそこも興味深いところではあります。
さて、この後どの様にキム一家がパク家に寄生していくか、ちょっとだけ書いておきましょう。
パク家にはダへの下に小学生のダソンという男の子がいて、彼は少し問題児。落ち着きが無く突拍子もない言動を見せる。ただ絵を書くのは好きらしく其方の才能を伸ばそうと家庭教師を付けたんだが、やはり落ちつかい態度に何人も辞めていったという過去がある。壁に飾ってあったダソンの特異な絵画を見たギウは、自分の従姉妹の知り合いにアメリカ帰りのアート系セラピーに強い女性がいるが、彼女ならダソンの力になるかも知れないと言う。
シンプルなパク夫人はギウの言う帰国子女に逢ってみる事にするのだ。
勿論、その女性に成りすますのがギウの妹ギジョン。
ネットでかじったアートセラピーの知識を適当に混ぜてまんまとダソンの絵の家庭教師になる事に成功するのです。ダソンの絵には小さい頃のトラウマが描かれていると言うと夫人は驚く。ダソンがかつて家の中でお化けを見たと卒倒した過去があったからだ。ダへは弟には虚言癖があるというのでトラウマもそういう類のモノかと思っていたら、終盤になって嘘ではなかったことが分かる。
パク家の父親であるパク氏はIT企業の社長なので専属ドライバーがいるが、このドライバーの職を乗っ取るのがキム家の父親ギテクだ。乗っ取りの段取りについては割愛しましょう。ここでアイデア賞を発揮したのがギジョンだった事だけ書いておきます。
キム家で無職は後は母親のシュンスクだけ。
彼女が乗っ取るのがパク家に長年仕える住み込みの家政婦のムングァンです。ダへによるとムングァンには桃アレルギーという持病があり、なのでパク家では桃が一切出てこない。これを聞いたギウが一計を案じる。ま、これも割愛しましょう。
そうやって、ついにはキム家は全員がパク家に寄生することに成功するわけです。
ダソンの誕生日、パク一家はテントや食料品を車に詰めてキャンプに出発する。一泊の予定なので寄生家族のキム一家は半地下の部屋から抜け出し、なんの気兼ねも無く豪邸の居間に集まり、酒やおつまみを並べて寄生成功の祝杯をあげる。
夕方から曇り出した空からは夜になって雨が降り出した。すると何の前触れもなくインターホンがなる。
やって来たのは少し前に解雇された前の家政婦ムングァンだった。急に首になったので地下室に忘れ物をしたのを思い出し取りに来たという。ダへとはメールのやりとりをしているので今夜パク家が留守なのを知っていたというのだ。
シュンスク以外の寄生者が陰に隠れて様子を見ていると、ムングァンは地下室に降りていく。なかなか上がって来ないのでシュンスクも降りていくのだが・・・。
お薦め度は★四つ半。
雨の夜に急に帰って来たパク家とキム家との騒動が、ドリフターズのドタバタコントみたいで少々長いと感じたので★半分減点しましたが、なにより画作りがスマートなのでストレスなく観れるのがいいです。
伏線が伏線らしくなく語られているのもスマート。
キャンプの夜の雨が高台の豪邸にはなんの支障も無いのに、半地下家族の本拠地には災害となってしまっていたという展開。
片やお祝いパーティーの準備でウキウキしているシーンの裏では、降雨災害の被災者が集まる体育館で古着の配給が始まっているという皮肉。
怒涛のクライマックスに収束させていくワイドな視点も感心しました。
ホラーストーリーとしてエピローグを設けるという感覚(伏線回収もしている)は良いんですが、内容が内容だけに余韻を残すまでには至らなかったのも減点ですかな。
タイトル名を知っている「殺人の追憶」「グエムル -漢江の怪物-」もポン・ジュノの作品との事。改めて観たくなりました。
韓国映画は高評価の多いキム・ギドク監督作品でさえ一本も観ていない僕だが流石にコレはいつか観ようと思っていた。なにせ米国アカデミー賞の作品賞、監督賞を受賞したのだから。それが先月、地上波でノーカット放送されたので迷わず録画した。以前ならNHK以外はなかなか録画もしなかったが、去年買ったレコーダーは再生時にCMをスッ飛ばしてくれるスキップボタンがあるので助かるのだ。
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韓国、ソウル。
かつてソウルでは北朝鮮からの攻撃に備えて集合住宅を建てる際には防空壕として地下に部屋を設ける事が義務化されていた。時と共にその危機意識も薄れていき、また経済的な理由もあって地下室も住居として賃貸することが許されるようになった。外光を採り入れる窓が小さく虫の発生も多い、この半地下の部屋は賃借料が安い為、貧困家庭の象徴的なものとなっていた。
この映画は、そんな半地下で暮らす貧困家族が主人公である。
父親のキム・ギテクは何事にも我慢強く温厚な男。その妻のチュンスクは元アスリート。息子のギウは2年目の大学浪人で、美術系が得意な妹のギジョンも浪人生という四人家族だ。
ピザ屋の配達用紙パックの組み立てアルバイトを家族総ででやっているという家族紹介のシーンが簡潔に描かれた後、ギウの友人でエリート大学生のミニョクが訪ねて来て物語は動き出す。
ミニョクの用事はこういう事だった。
長期の留学をすることになったのだが、今英語の家庭教師をしているパク家の長女、女子高生ダヘの後任の先生になって欲しいというのだ。ギウが自分は大学生でもないしミニョクには学生の知り合いが沢山いるだろうに何故?と聞くと、ミニョクは可愛いダヘに性欲旺盛な大学生は紹介したくないし、ギウの英語の実力は学生並みだから問題ないというのだ。自分の紹介ならばあちらの親も疑わないし、なにしろダへの母親はミニョク曰く『シンプルな人』らしい。つまり単純な人というわけ。要するにミニョクはダヘが好きなのだ。
ダヘの父親はIT企業の社長をしている金持ちなのでアルバイト料も良い。ギウは妹のギジョンに学生証明書を偽造させて、高台にあるパク家の大豪邸を訪ねるのであった。
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英語原題は【parasite】。寄生生物ですな。
邦題では後ろに「半地下の家族」とつけて、ちょっと「万引き家族」を連想させるようなモノになっていますが、この映画には社会的な視点を無理強いさせるような所はないです。単純にサスペンスとして楽しめます。勿論、現代社会の物語ですから世相は反映されていて、ブラック・コメディ的な部分も多くそこも興味深いところではあります。
さて、この後どの様にキム一家がパク家に寄生していくか、ちょっとだけ書いておきましょう。
パク家にはダへの下に小学生のダソンという男の子がいて、彼は少し問題児。落ち着きが無く突拍子もない言動を見せる。ただ絵を書くのは好きらしく其方の才能を伸ばそうと家庭教師を付けたんだが、やはり落ちつかい態度に何人も辞めていったという過去がある。壁に飾ってあったダソンの特異な絵画を見たギウは、自分の従姉妹の知り合いにアメリカ帰りのアート系セラピーに強い女性がいるが、彼女ならダソンの力になるかも知れないと言う。
シンプルなパク夫人はギウの言う帰国子女に逢ってみる事にするのだ。
勿論、その女性に成りすますのがギウの妹ギジョン。
ネットでかじったアートセラピーの知識を適当に混ぜてまんまとダソンの絵の家庭教師になる事に成功するのです。ダソンの絵には小さい頃のトラウマが描かれていると言うと夫人は驚く。ダソンがかつて家の中でお化けを見たと卒倒した過去があったからだ。ダへは弟には虚言癖があるというのでトラウマもそういう類のモノかと思っていたら、終盤になって嘘ではなかったことが分かる。
パク家の父親であるパク氏はIT企業の社長なので専属ドライバーがいるが、このドライバーの職を乗っ取るのがキム家の父親ギテクだ。乗っ取りの段取りについては割愛しましょう。ここでアイデア賞を発揮したのがギジョンだった事だけ書いておきます。
キム家で無職は後は母親のシュンスクだけ。
彼女が乗っ取るのがパク家に長年仕える住み込みの家政婦のムングァンです。ダへによるとムングァンには桃アレルギーという持病があり、なのでパク家では桃が一切出てこない。これを聞いたギウが一計を案じる。ま、これも割愛しましょう。
そうやって、ついにはキム家は全員がパク家に寄生することに成功するわけです。
ダソンの誕生日、パク一家はテントや食料品を車に詰めてキャンプに出発する。一泊の予定なので寄生家族のキム一家は半地下の部屋から抜け出し、なんの気兼ねも無く豪邸の居間に集まり、酒やおつまみを並べて寄生成功の祝杯をあげる。
夕方から曇り出した空からは夜になって雨が降り出した。すると何の前触れもなくインターホンがなる。
やって来たのは少し前に解雇された前の家政婦ムングァンだった。急に首になったので地下室に忘れ物をしたのを思い出し取りに来たという。ダへとはメールのやりとりをしているので今夜パク家が留守なのを知っていたというのだ。
シュンスク以外の寄生者が陰に隠れて様子を見ていると、ムングァンは地下室に降りていく。なかなか上がって来ないのでシュンスクも降りていくのだが・・・。
*
お薦め度は★四つ半。
雨の夜に急に帰って来たパク家とキム家との騒動が、ドリフターズのドタバタコントみたいで少々長いと感じたので★半分減点しましたが、なにより画作りがスマートなのでストレスなく観れるのがいいです。
伏線が伏線らしくなく語られているのもスマート。
キャンプの夜の雨が高台の豪邸にはなんの支障も無いのに、半地下家族の本拠地には災害となってしまっていたという展開。
片やお祝いパーティーの準備でウキウキしているシーンの裏では、降雨災害の被災者が集まる体育館で古着の配給が始まっているという皮肉。
怒涛のクライマックスに収束させていくワイドな視点も感心しました。
ホラーストーリーとしてエピローグを設けるという感覚(伏線回収もしている)は良いんですが、内容が内容だけに余韻を残すまでには至らなかったのも減点ですかな。
タイトル名を知っている「殺人の追憶」「グエムル -漢江の怪物-」もポン・ジュノの作品との事。改めて観たくなりました。
・お薦め度【★★★★★=サスペンスファンなら、大いに見るべし】
さすが、アカデミー再交渉を受賞しただけのことはありますね。
皮肉めいた展開が続きましたよね。豪雨が最高潮だったかな?
後味は良くなかったですかねー。
本文にも書いている通り、韓国映画はほとんど観ないんですが、他の人の意見を見ると結構残酷な描写が多いらしいですね。
主人公家族に同情する点は無いし、誰かそういう人間が出て来てたら感想も違うんでしょうけど・・。