テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

シェイプ・オブ・ウォーター

2019-01-25 | ファンタジー
(2017/ギレルモ・デル・トロ監督・共同脚本/サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、マイケル・スタールバーグ、オクタヴィア・スペンサー、ダグ・ジョーンズ/124分)


 2017年のオスカー受賞作でありますな。監督賞や美術賞、作曲賞も獲って、更には脚本賞や編集賞、主演女優賞他多数にノミネートされたという、まさに名作と呼ぶべき映画なんですが、巷では『これが作品賞?』という声が上がったのも確か。
 半魚人と所謂さえない女性との恋物語が、ギレルモ・デル・トロ監督独特の世界の中で語られるファンタジーという事前情報にあんまり惹かれなくてほおっておきましたが、やっぱりオスカー像が送られた作品なので観る事にしました。

*

 1960年代初めの米ソ冷戦時代のアメリカが舞台。
 航空宇宙科学センターという政府の秘密研究所に掃除婦として働いているイライザ(ホーキンス)が主人公。
 下が映画館になっているアパートの一室に住んでいる彼女は孤児院で育ち、子供の頃に首に受けた傷の影響か言葉がしゃべれない。耳は大丈夫なので聴くことには問題はないが、会話には手話か相手の聞き上手が必要だ。アパートの隣室にはゲイのイラストレーター、ジャイルズ(ジェンキンス)が居て、孤独な者同士仲良く暮らしている。
 研究所への出勤は夕方。夜が通常の勤務時間なのだ。
 ある日、航空宇宙科学センターに大きなタンクが運ばれてくる。中には水が詰まっていて何か生き物がいるようだ。そっと中を覗いたイライザは水かきのような手を持ったソレに興味を持った。
 ソレはアマゾンの奥地で原住民から神と崇められていたのだが、現地で油田開発を行っていた際にアメリカ軍が捕獲したのだ。後にイライザはそれが人間と魚の合体人間のようなもの(=半魚人)とわかった。
 ソレの管理者であるストリックランド(シャノン)は残酷な軍人で、獣のように彼を扱ったが、研究チームのホフステトラー博士(スタールバーグ)は人間の代わりに宇宙ロケットに乗せることが出来ると提案した。それによって宇宙開発に於いてソ連を一歩リードすることが出来ると。
 軍の最高司令官ホイト元帥にストリックランドは半魚人の生体解剖を勧めた。肺呼吸とエラ呼吸が出来るこの生物の機能を調べることこそソ連を出し抜くことになるのだと。
 掃除の合間に半魚人と僅かな意思の疎通が出来るようになっていたイライザは、ストリックランドの案が採用されることを知り、ジャイルズの力を借りて彼をこの施設から脱出させようと思うのだが・・・という話。

 ウィキによると<脚本はデル・トロが幼少期に鑑賞した『大アマゾンの半魚人』の「ギルマンとジュリー・アダムスが結ばれていたら」という考えが基になっている>と書かれている。
 僕は「半魚人」のホラー映画があったのは知っているが未見なのでよく分からない。いずれにしてもこの映画に半魚人と女性のラブロマンスなんて甘いムードは感じなかったな。
 むしろ、半魚人が脱出した後にストリックランドが如何にして追い詰めていくかとか、実はソ連のスパイで半魚人を殺したくないホフステトラー博士のソ連上層部とのやりとりの方がハラハラして面白かった。

 更に半魚人の扱いに?マークが付くんだよね。アマゾンで暮らしていたのなら淡水魚のはずなのに、ホフステトラー博士は彼を生かすには塩水が必要だとイライザに言っていたり、そのくせ水道水を部屋一杯にした中でイライザと愛し合ったりさせている。あのシーンも実際にはあり得ないよなぁ。
 ま、ファンタジーだから許せるけど、もう一つ、海に逃がすのに何故雨の日を待ったんだろう。ボルチモア近郊の街だと思うけど、海なんて車でひょいと行けるでしょうに。
 イライザも実は半魚人だったなんて話もあって、それはラストシーンで彼女の首の傷がエラの様に動くからだと思うけど、あれは半魚人君の魔法がかけられたせいだと思うけどなぁ。

 レトロ調プラス水中の藻をイメージさせたような緑っぽい画調にして、しかも夜のシーンが多いので正にブラック・ファンタジー(或いはダーク・ファンタジー?)。
 全裸で熱演のホーキンス嬢には申し訳ないけど、半魚人相手ではエロさも出ませんでしたな。色々とセックス関連の会話やシーンが多くて映倫ではR15+指定らしいですけど。
 但し、先にも書いたようにサスペンスとしては登場人物の絡ませ方とか、シチュエーションの構成は面白かったです。
 お薦め度は★三つ半。半魚人君のリアルさでむしろマイナスでした。
 尚、ギレルモ・デル・トロ監督作品は今回初体験でありました。





・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠

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