トーキー時代に作られたサイレント映画ならではの音に関するチャレンジがあると「アーティスト」の記事に書きました。
それはトーキーで作られた映画の試写を見た後の、ジョージの楽屋での一コマでした。
ドレッサーの前でコップをテーブルに置くと「コツン」と音がするんですね。これは字幕ではなく実際音がするんです。で、びっくりした彼が鏡の前の化粧道具をテーブルに倒してみると、やはり「カタコト」と音がする。しかし、自分の声は聞こえないんですね。部屋の中の椅子を動かすとやはり音がするけど自分の叫び声は聞こえない。ドアを開けて外に出ると、歩いている撮影所の人々の話し声も聞こえてくる。えーっ!とジョージが天を仰いだところで・・・ベッドの上の冷や汗をかいた彼の顔。
つまり、楽屋のシーンは彼の悪夢だったというオチ。
トーキーをせせら笑うほど馬鹿にしていた彼だったけど、内心はどこかで怯えていたということでしょうか。それにしちゃ、トーキーへのチャレンジが遅かったなぁ。
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序盤の新作映画の上映シーンで、ルビッチを参考にしたテクニックが披露されていると書いた部分について。
敵の組織に捕らわれの身になっているヒーロー役のジョージの所に愛犬のジャックが助けに来るシーンでした。
主人公が自由の身になるには見張りの男の目を欺き、縛られている縄も外さなければならないけれど、如何に対処しているかは見せないままに、スクリーンを観ている大勢の観客の反応を見せながら彼の脱出が上手くいっているのを表現し、次のカットでは彼が捕らわれていた部屋の外に出てドアを閉めている。
ルビッチの「ニノチカ (1939)」に、同じようにストーリーの対象を直接写さずに登場人物のリアクションで内容を表現するシーンがあったことを思い出しました。
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さて、ネタバレついでに後半の展開についても書いておこうと思いましたが、ウィキに適当な記述があったので必要部分をコピペします。
<妻も出て行き、落ちぶれたジョージは執事を解雇し、家財道具などの全てをオークションで売り払う。それらを密かに買い取ったのはペピーだった。彼女は愛するジョージを助けたい一心で陰ながら彼を見守っていたのだ。執事も自分の家で働かせていた。
酒に溺れ、荒んだ生活を送るジョージは、ある日、酔った勢いで自分が出演した映画のフィルムに部屋の中で火を放つ。煙にまかれ、焼け死ぬところを寸前で救ったのは愛犬ジャックだった。 かつてのスターが火事を起こして焼け死ぬ寸前だったという事件は新聞紙上を飾る。その記事をたまたま目にしたペピーは撮影を放り出して病院に駆けつける。そして、火事の中でもジョージが抱きしめて決して放そうとしなかったというフィルムが、かつてペピーがエキストラとして出演したジョージの主演映画のものであることを知ったペピーはジョージを引き取って自宅で療養させることにする。
ペピーの屋敷で穏やかな療養生活を送り始めていたジョージだったが、自分がオークションで売り払った家財道具などを買い取っていたのがペピーであることを知ってしまう。プライドを傷つけられたジョージは火事の後片付けも済んでいない自宅に戻り、拳銃で自殺をしようとする。一方、ジョージが全てを知って屋敷を出て行ってしまったことを知ったペピーは自ら慣れない運転でジョージの下に向う。ジョージが拳銃の引き金を引く。“BANG!”その瞬間、ペピーの運転する車がジョージの自宅前の立ち木に激突して止まる。ジョージの下に駆けつけるペピー。ジョージを傷つけるつもりは毛頭なく、ただ助けたかっただけだったと涙ながらに謝罪するペピーをジョージは抱きしめる。
ペピーはジョージを俳優として映画界に復帰させるアイデアがあると言う。 映画会社の社長の前でペアダンスを披露するジョージとペピー。社長は感激し、2人の主演でミュージカル映画を撮ることになる>
オークションでペピーが競り落としていたのは直後に観客に明かされるので、終盤のジョージのショックは観客には伝わらない。ここは、観客にも内緒にしていた方が良かったでしょうね。
そうそう、ラストシーンはトーキーのミュージカルの撮影に入るところで、そこにも撮影所内の音がスクリーンから聞こえていました、サイレントではなく。ここは、いよいよ本格的にトーキーの時代に入ったという表現なんでしょうね。
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