(1937/ジュリアン・デュヴィヴィエ監督/ジャン・ギャバン、ミレーユ・バラン、リーヌ・ノロ、リュカ・クリドゥ、ルネ・カール、マルセル・ダリオ/94分)
北アフリカ、地中海を望むアルジェリアの港町アルジェの一角には、世界中からハミ出し者達が集まるカスバという場所がある。段差の付いた小道が迷路のように入り組んでいて、斜面に建てられた家屋の屋上はテラスになっており、そこを伝って行けば何処にでも出られる。パリの大泥棒だったぺぺ・ル・モコ(ギャバン)もフランス警察に追われてやって来た男で、ここカスバでも親分肌の気っ風と度胸で男にも女にも慕われている。幾度かパリから刑事がやって来たが、裏社会の仲間達が警察情報をいち早く彼に伝え、何年も捕まえることが出来ないでいた。
アルジェ警察の刑事スリマン(クリドゥ)も虎視眈々とぺぺ逮捕の機会を狙っていた。フランスの刑事達がカスバでぺぺを捕まえようとして殉職したことを知っているので、そこで彼に会うことはあってもスリマンが銃や手錠を出すことはない。何しろぺぺがカスバから表街道に出てこないことには捕まえることは出来ないのだ。
そんなある日、パリからギャビー(バラン)という女がカスバにやって来る。恰幅のいい酒商の情婦で、その友人夫婦との四人旅である。ギャビー達がカスバを散策している時に警察の手入れがあり、丁度居合わせたスリマンに誘導されてギャビーは近くの民家に避難する。そこはぺぺの仲間の家で、警察から逃れたぺぺが怪我の手当を受けにやってきて二人は知り合う。
ギャビーはぺぺを同胞だと言い、ぺぺは美しい彼女にもう一度逢いたいと思う。彼女の身に着けた宝石類も魅力だが、ぺぺはギャビーに懐かしいパリの匂いを感じ取ったのだ。美しいパリ、楽しく魅惑的なパリ、そして生まれ故郷でもある懐かしい街。ギャビーもぺぺに男の魅力を感じ、次の逢瀬を約束、やがて情夫との別れまで決意するのだが・・・という話。
原題は【PEPE-LE-MOKO】。邦題はそのぺぺ・ル・モコのパリへの郷愁を表したもので、一見センチメンタルなタイトルのようですが、後年のフィルム・ノワールに通じる裏社会に生きる男の悲劇的な運命を描いた作品であり、ジメジメ(或いはメソメソ)はしていません。
カスバには警察の手先となって仲間を売る男達もおり、彼らの奸計やらそれを見抜くぺぺとのやりとりはサスペンス・タッチで描かれ、ぺぺ達が警察の犬となった男を取り調べるシーンは、ボギーのハードボイルド映画よりもリアルで陰湿な雰囲気があります。
異色の存在感を示したのが刑事のスリマンで、常に薄笑いを浮かべ、慇懃な態度ながら執拗にぺぺを追いつめる。映画評論家、双葉十三郎さんの本『外国映画ぼくの500本』によると、戦前にこの映画が公開された時、映画ファンの間では感じが悪くてコスカライ奴を“スリマン”と呼んだそうです。
俳優出身で、サイレント時代から監督を始め、後にフランスの四代巨匠の一人と評されるまでになったデュヴィヴィエの名作。冒頭のナレーションを使った物語の舞台説明と雰囲気作りの上手さ。警察とスパイとギャング達との駆け引き、ぺぺとギャビーの邂逅と情愛、彼らを取り巻く人間模様。それらがテンポのよいストーリー展開の中で上手く絡まっていく。
東映の任侠映画も殆ど観てないし、ギャングの悲哀などどうでもイイのですが、そういう正義感はこの際どこかに置いといて、ぺぺの望郷の念が沸々と湧いてくるのを感じながら観ると実に面白いです。
▼(ネタバレ注意)
目をかけていた若い手下が殺され、益々カスバの暮らしに嫌気がさすぺぺ。ぺぺは死んだとスリマンに騙され、カスバを離れようとするギャビー。ギャビーが騙されていることを知ったぺぺは、ついにカスバを降りて、街に出ていく決心をする。
ギャビーの乗るフランス行きの船に一緒に乗ろうとするわけだけど、カスバの路地を歩いて出て行くぺぺの描写が面白かった。
早足で歩いているぺぺをアップで追いながら、背景のカスバの路地裏の壁などはぼやけている。ぺぺの心は既にフランス行きの船の上という意味でしょう、更には背景に大海原が出てきたりする。分かり易い心理描写でした。
この映画は終盤になるにつれて、ぺぺの周りの状況が望郷の念を沸き立たせるような展開になっていくのですが、ギャビーへの手紙を託した仲間を待っているシーンも印象深い。
仲間の情婦は元歌手で、その女がレコードをかけながらかつてパリで唄った歌を涙を浮かべながら唄う。彼女の望郷の想いは聞いているぺぺの想いでもある。この時カメラは、女の表情は追うがぺぺは写らない。この控え目さがイイですな。
ラストシーンも映画史上の名シーンとして名高いです。『ギャビー!』。
▲(解除)
北アフリカ、地中海を望むアルジェリアの港町アルジェの一角には、世界中からハミ出し者達が集まるカスバという場所がある。段差の付いた小道が迷路のように入り組んでいて、斜面に建てられた家屋の屋上はテラスになっており、そこを伝って行けば何処にでも出られる。パリの大泥棒だったぺぺ・ル・モコ(ギャバン)もフランス警察に追われてやって来た男で、ここカスバでも親分肌の気っ風と度胸で男にも女にも慕われている。幾度かパリから刑事がやって来たが、裏社会の仲間達が警察情報をいち早く彼に伝え、何年も捕まえることが出来ないでいた。
アルジェ警察の刑事スリマン(クリドゥ)も虎視眈々とぺぺ逮捕の機会を狙っていた。フランスの刑事達がカスバでぺぺを捕まえようとして殉職したことを知っているので、そこで彼に会うことはあってもスリマンが銃や手錠を出すことはない。何しろぺぺがカスバから表街道に出てこないことには捕まえることは出来ないのだ。
そんなある日、パリからギャビー(バラン)という女がカスバにやって来る。恰幅のいい酒商の情婦で、その友人夫婦との四人旅である。ギャビー達がカスバを散策している時に警察の手入れがあり、丁度居合わせたスリマンに誘導されてギャビーは近くの民家に避難する。そこはぺぺの仲間の家で、警察から逃れたぺぺが怪我の手当を受けにやってきて二人は知り合う。
ギャビーはぺぺを同胞だと言い、ぺぺは美しい彼女にもう一度逢いたいと思う。彼女の身に着けた宝石類も魅力だが、ぺぺはギャビーに懐かしいパリの匂いを感じ取ったのだ。美しいパリ、楽しく魅惑的なパリ、そして生まれ故郷でもある懐かしい街。ギャビーもぺぺに男の魅力を感じ、次の逢瀬を約束、やがて情夫との別れまで決意するのだが・・・という話。
原題は【PEPE-LE-MOKO】。邦題はそのぺぺ・ル・モコのパリへの郷愁を表したもので、一見センチメンタルなタイトルのようですが、後年のフィルム・ノワールに通じる裏社会に生きる男の悲劇的な運命を描いた作品であり、ジメジメ(或いはメソメソ)はしていません。
カスバには警察の手先となって仲間を売る男達もおり、彼らの奸計やらそれを見抜くぺぺとのやりとりはサスペンス・タッチで描かれ、ぺぺ達が警察の犬となった男を取り調べるシーンは、ボギーのハードボイルド映画よりもリアルで陰湿な雰囲気があります。
異色の存在感を示したのが刑事のスリマンで、常に薄笑いを浮かべ、慇懃な態度ながら執拗にぺぺを追いつめる。映画評論家、双葉十三郎さんの本『外国映画ぼくの500本』によると、戦前にこの映画が公開された時、映画ファンの間では感じが悪くてコスカライ奴を“スリマン”と呼んだそうです。
俳優出身で、サイレント時代から監督を始め、後にフランスの四代巨匠の一人と評されるまでになったデュヴィヴィエの名作。冒頭のナレーションを使った物語の舞台説明と雰囲気作りの上手さ。警察とスパイとギャング達との駆け引き、ぺぺとギャビーの邂逅と情愛、彼らを取り巻く人間模様。それらがテンポのよいストーリー展開の中で上手く絡まっていく。
東映の任侠映画も殆ど観てないし、ギャングの悲哀などどうでもイイのですが、そういう正義感はこの際どこかに置いといて、ぺぺの望郷の念が沸々と湧いてくるのを感じながら観ると実に面白いです。
▼(ネタバレ注意)
目をかけていた若い手下が殺され、益々カスバの暮らしに嫌気がさすぺぺ。ぺぺは死んだとスリマンに騙され、カスバを離れようとするギャビー。ギャビーが騙されていることを知ったぺぺは、ついにカスバを降りて、街に出ていく決心をする。
ギャビーの乗るフランス行きの船に一緒に乗ろうとするわけだけど、カスバの路地を歩いて出て行くぺぺの描写が面白かった。
早足で歩いているぺぺをアップで追いながら、背景のカスバの路地裏の壁などはぼやけている。ぺぺの心は既にフランス行きの船の上という意味でしょう、更には背景に大海原が出てきたりする。分かり易い心理描写でした。
この映画は終盤になるにつれて、ぺぺの周りの状況が望郷の念を沸き立たせるような展開になっていくのですが、ギャビーへの手紙を託した仲間を待っているシーンも印象深い。
仲間の情婦は元歌手で、その女がレコードをかけながらかつてパリで唄った歌を涙を浮かべながら唄う。彼女の望郷の想いは聞いているぺぺの想いでもある。この時カメラは、女の表情は追うがぺぺは写らない。この控え目さがイイですな。
ラストシーンも映画史上の名シーンとして名高いです。『ギャビー!』。
▲(解除)
・お薦め度【★★★★★=クラシックファンは、大いに見るべし!】
子供の頃に初めて観たのですが、大人になって見返すと、またいろいろな感慨があって味わい深い作品ですよね。
説明のつかない男女の愛の妙、万国共通な望郷の念の狂おしさ。地味ながら、大変ドラマティックな人間模様を捉えた映画だと思います。
モデルがポージングしているようなヒロインのカットもあったりして、少しレトロなムードもありますね。
>子供の頃に初めて観たのですが・・・
へっ!
キスシーンもソフトだから、ま、いいのか?
R-15くらいの大人のお話でした。決してお絵かきの話ではない。(笑)
あと、双葉さんの「スリマン」のエピソード、私も思い出してちょっと笑ってしまいました。確かにスリマン、憎憎しかったですねー。
大変興味深い演出でした。
「ギャビー」の叫び声が汽笛で遮られる場面におけるカメラの切り替えの絶妙なタイミング・・・昔の監督はこういうのが上手いですねえ。
技術的に映画を見る場合、映画が一番面白かった時代かもしれません。
>ジャン・ギャバン
とジョン・ウェインといった辺りの魅力は、映画を見始めた頃はなかなか解らなかったですが、30を過ぎる頃不思議と理解できるものですね。格好良い!
トラコメ有難うございました。
デュヴィヴィエは本国じゃ日本ほど評価されなかったと聞いてますが、これはギャバン効果ですかね。
双葉さんは85点(☆☆☆☆★)でした。
>ジャン・ギャバンとジョン・ウェイン
そうそう、子供の頃はただのオッチャンでしたが、こちらがオッチャンになると彼らの格好良さとかが分かるようになる。
コチラも成長したと言うことでしょう。^^
映画館で観たことで、わたしとしては、かなり強烈な映画となりました。本当に素晴らしかったです。ラスト・シークエンスの美しさは言葉では言い表せませんよ。メイクも演技も銀幕用だったと思います。
そして、つい数年前までサイレントしかなかった映画を新しい時代で撮っているという斬新さが伝わってくるものでした。
では、また。
いいですねぇ♪
★三つ付けた作品は(たまには★二つでも)、2回以上は観ないと気が済まないので、指定席が当たり前の劇場鑑賞は、“年一”という絶滅危惧種の映画ファンです。^^
デュヴィヴィエ作品はあまり見てないので、宿題が増えました。もとい、楽しみが増えました。
>つい数年前までサイレントしかなかった映画を新しい時代で撮っている・・・
レコード、汽笛・・、音が映像から独立した、完全なるトーキー映画、そう思いましたです。
『フランス式十戒』をアップしましたので、TB、コメントに伺いました。
こちらはオールスター出演の派手な作品です。なかなか良いですよ。機会があれば是非ご覧くさい。
デュヴィヴィエといえば、ギャバンですが、わたしとしては、ドロンも含めた3者のコラボで一作品撮ってもらいたかったですよ。
では、また。
昔、それこそ小学生の頃にてTVの吹き替えで見たような気がしますが、その後はとんと放送もされませんし、完全に忘却の彼方ですね。
ちょいと年末に来て忙しいので、後ほどゆっくりお邪魔します。