音信

小池純代の手帖から

雑談5

2021-07-07 | 雑談


  

上の日焼けが斎藤茂吉自選歌集『朝の螢』の目次のほぼ全部。
なお装幀は石井鶴三。
下の色白が玉城徹自選歌集『汝窯』の目次の一部。

『汝窯』の目次の全容は以下のとおり。

 目 次

陶磁
鳥と魚


れおなるど
詩人たち
新春
天使

獣類
幼孩(えうがい)
哲人
春寒
物語
女性
桜花
死者
仲春
世界
青春
夜空

秋興

樹木
形態
暴力

山川人物
昆虫
自画像
劫罰
玄冬

  解説 村永大和
  玉城徹略年譜
  おくがき

    装幀・加藤 陽


アイテムの列挙だけでもずいぶん多くが語られていることが
わかる。いろいろあそべる語群だと思う。
各項目をお題にして題詠にいそしむもよし、
式目にして寅彦や東洋城が試みたような変則連句にいどむもよし。

「おくがき」は一頁にたったの八行。第一歌集、第二歌集の、
 「両集の組織をできるだけ破壊しようと努めた。」とある。
さらに、

 各章のはじめに、東西の巨匠からの引用を置いたのは、
 それらの言葉をもって、わたしの作品を飾ろうとした
 わけではない。それらは、わたしが解体のために用い
 た鑪であり、工作具であった。


巨匠たちの箴言や詩句の引用を装飾ではなく、
解体の工具として用いたとのこと。
「鑪」は「ふいご」や「たたら」と読む。製錬炉を指すらしい。
工事の準備を製錬炉から始めるとはたいへんなことだ。





コメント

雑談4

2021-07-07 | 雑談
雑談に至る前のほとんどメモ。

玉城徹『汝窯』は自選歌集。1975(昭和50)年に刊行。
第一歌集『馬の首』1964(昭和37刊)、
第二歌集『樛木』1972(昭和47刊)から選んでいる。
大正13(1924)年生まれだから五十代前半の刊行。

大正14(1925)年は斎藤茂吉の自選歌集『朝の螢』が出版された年。
第一歌集『赤光』、第二歌集『あらたま』の二冊を中心に
1906(明治39)~1917(大正6)まで11年間の作品から選んだ。
四十代前半の刊行。

判型も同じ四六判で装丁に山の絵が使われているところなど
共通点がいくつかあって興味深い。

  

自選歌集ということで比較してみると、
塚本邦雄『寵歌』は第十五歌集と第十六歌集の間、六十代後半の刊行。
岡井隆『蒼穹の蜜』は第十三歌集と第十四歌集の間、六十代前半。

『寵歌』は編年体。一首ずつ作品番号を振ってどの歌集のどの章のそれか
一目瞭然なうえに索引もついている。塚本邦雄年代記とでも言おうか、
前期中期のミニ辞典というぐらいに親切な編集。

『蒼穹の蜜』は幼少期から壮年期にかけての著者影が各章の口絵に
挿まれていて一見、自伝歌集であるかのように見えるが、
構成は編集を効かせている。そう見せておいてこう見せない、
表裏比興のひとつの在り方など思う。

『汝窯』は、第一歌集、第二歌集の「組織をできるだけ破壊しようと
努めた」と「おくがき」にあるとおり「解体」して構成されている。
そこは茂吉のプチ『赤光』とプチ『あらたま』をつなげたような
『朝の螢』とは大いに異なる。







コメント