音信

小池純代の手帖から

日々の微々 230831

2023-08-31 | 歌帖
  230831


  ・秋分三首・

     雷乃収声*かみなりすなはちこゑををさむ

  ものがたり終はらぬうちに雲が去るくちにいかづち含んだままの


    蟄虫坏戸*すごもりのむしとをとざす

  ああこんないい風の夜戸を鎖して暗いところでしづかに暮らそ
                 鎖:さ



    水始涸*みづはじめてかれる

  水抜いてさてさて刈らむ稲穂波田毎の月の鎌ぞさえざえ








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日々の微々 230826

2023-08-26 | 歌帖
  230826


  ・白露三首・

 
    草露白*くさのつゆしろし

  草の葉をころがる露のかがやきのなんともひかりとも濁りとも


    鶺鴒鳴*せきれいなく

  おいそこの若いのそこの小綺麗な若いのセキレイみたいな若いの


    玄鳥去*つばめさる

  去り際になにかを告げてゐたやうなふりして棄ててゐたのか鳥影
                                  鳥影:とりかげ










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日々の微々 230823

2023-08-26 | 歌帖
  230823


  ・処暑三首・

 
    綿柎開*わたのはなしべひらく

  うづくまりうづくまりしてまもり来し思ひの果てをなほなほつつむ


    天地始粛*てんちはじめてさむし

  焦がれこがれ逃れのがれてあめつちの間をしづけく雨はしづくす
                      間:あひ



    禾乃登*こくものすなはちみのる

  萌ゆるかのはた崩ゆるかの虚空にあふるる雲の量をこそ見め
   萌:も     崩:く   虚空:おほぞら    量:かさ









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日々の微々 230820

2023-08-20 | 歌帖
  230820


  ・立秋三首・
 

    涼風至*すずかぜいたる

 うすぎぬのそでながの人佇つごとき玻璃戸に細く風を聞きをり


    寒蝉鳴*ひぐらしなく

 かなしくて啼くのではなく生真面目にかなしい曲を奏でる仕掛け


    蒙霧升降*ふかききりまとふ

 ここからは秋のつめたい水の粒ランドマークに霧立ちのぼる







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