桜が咲き始めた。
命二つの中に生きたる桜かな 芭蕉
※この「命」をずっと生者のいのちと死者のいのちだと
思っていた。
ところがそうではなくて、芭蕉が近江の水口で土芳と
再会したときの句なのだそうで、
「水口にて二十年を経て故人に逢ふ」の前書きがある。
この「故人」は「旧友」の意味。
太刀は稲妻萱穂のさやぎ *ルビ:稲妻萱穂 いなづまかやほ
獅子の星座に散る火の雨の *星座 せいざ
消えてあとない天のがはら *天 あま
打つも果てるもひとつのいのち
(宮沢賢治「原体剣舞連」より)
※「命二つ」から「ひとつのいのち」へ。
この前の連に「打つも果はてるも火花のいのち」がある。
太刀を切り結ぶ者が協力して火花を生んでいるようで
戦闘シーンを模した剣舞ながら、めでたい。
別のかたちだけど生きてゐますから 小津夜景
※森羅万象、草木国土悉皆成仏の囁きを拾ったら、こんな声かも。
あらゆる季語が春夏秋冬の冠を外して、物象や天象のガウンを
脱いでくつろぐ楽屋での会話とか。
あるいは、モナドとモナドがこっそり交わし合う消息文とか。
モナド越しイデア殺しの夜は更けて 小津夜景