音信

小池純代の手帖から

うたつらね 3

2019-02-17 | 日記


つめたい水ということでもう少し集めてみる。

 水に降る雪 白うは言はじ
 消え消ゆるとも
                (『閑吟集』)

※「白」と言うひまもなく消える。
 恋をたとえた小歌なのだとか。七音七音七音。
 こまかい拍は三四・四三・二五。この拍の斜め感と
 日本の歌としての安定感。

 薄の契りや 縹の帯の ただ片結び
                   (『閑吟集』)

※これも恋の小歌。拍は同じく三四・四三・二五。
 水に降る雪も片結びの帯もするする解ける。
 水と雪の契りも薄いのだ。

 わが恋は 水に降る雪白うは言はじ 消ゆるとも
                  (『宗安小歌集』)

※五音七音七音五音。シンメトリカルな音数と「わが恋は」と正面切った正直さ。
「水に降る雪 白うは言はじ 消え消ゆるとも」の類歌。

 わが恋は水に燃えたつ蛍々 もの言はで 笑止の蛍
                  (『閑吟集』)

※同じく「わが恋は」で始まる小歌。五音七音六音五音七音。
 「水に燃えたつ」ってなあに。謎かけに応えるかのような「蛍々」。
 水の上の蛍の火。解けたりはしない。
 なにも言わずにやがて闇に消える。



コメント

うたつらね 2

2019-02-11 | 日記
※寒山の詩を再掲。

 欲識生死譬 
 且将氷水比 
 水結即成氷   
 氷消返成水 
 已死必応生 
 出生還復死
 氷水不相傷
 生死還双美

※その書き下し文がこちら。

 生死の譬えを識らんと欲せば    せいしのたとえをしらんとほっせば
 且らく氷水を将って比えん     しばらくひょうすいをもってたとえん
 水結ぼるれば即わち氷と成り    みずむすぼるればすなわちこおりとなり
 氷消くれば返って水と成る     こおりとくればかえってみずとなる
 已に死すれば必らず応に生るべく  すでにしすればかならずまさにうまるべく
 出生すれば還って復た死す     しゅっせいすればかえってまたしす
 氷と水と相い傷なわず       こおりとみずとあいそこなわず
 生と死と還た双ながら美し     せいとしとまたふたつながらよし
         (入矢義高・注『寒山』中國詩人選集5 より)

※総ルビにつきすべてひらがな表記でルビに代えた。

 白文の対も書き下し文の対も二つながら美し。
 どちらが水、どちらが氷。

 凍結は水の端より 生別は会はむこころをうしなひてより    
       小原奈実(「声と氷」『本郷短歌』第二号)

※この対も美し。水の端から始まる氷。心の端から始まる別れ。
※もうじき二十四節気の「雨水(うすい)」。
 雪が雨に、氷が水になる時期。春の季語。




コメント

うたつらね 1

2019-02-01 | 日記

 欲識生死譬  
 且将氷水比  
 水結即成氷  
 氷消返成水
 已死必応生
 出生還復死
 氷水不相傷
 生死還双美 

 ※作者は寒山。題名はなし。  
 これを読み下しつつ意訳すればこんな感じ。 

  生き死にはたとへて言へば氷水  *氷水:こほりみづ
  水のかたまりそれ氷  
  とけた氷はそれは水
  死んでしまへば次の世へ  
  生まれてきたら次は死へ 
  氷も水もともによし
  死ぬも生くるもともによし  
  ふたつともよしとてもよし
   
※「氷」「水」から連想するのがよみびと知らずのこの都都逸。 

 とけて流れてしまへばもとは
 水と悟つたゆきだるま


コメント