読書の森

哀しきバレンタインデー その2



靖にとってその年のバレンタインデーは輝かしい1日になる筈だった。
しかし、想い出に変わった時それは哀しいものに変わった。

紗南はその翌日から姿を見せなくなった。
1ヵ月後、堪り兼ねた靖が紗南の住むアパートを訪ねた時、別人の様に衰弱した彼女がいた。

彼女は、あの日想いを寄せていたクラスメートの実沢大に手編みのベストを送った。
以前から心を込めて編んでいたものである。

実沢とはグループ交際をしてLINEもやり取りしていた。
誰から見ても優秀な美男で、優しい物腰が娘心を捉えたのである。

飲み会で、如何にも紗南に気がある様に紗南を凝視した。
それだけの事で紗南は舞い上がった。

その日から彼女がせっせと編んだダークグレーのベストを、実沢に突き返されたのだ。
「ウザいんだな、お前。可愛い顏してるけど、やってる事は昭和のおばちゃんだよね。
こういうの渡されると縛り付けられる気がしてね」

実沢は我儘な男だった。
チヤホヤされるのが好きで女に優しいが、モテる男を演じていたかっただけである。
彼の目的は社会に出て権力を持つ事だった。
富も女も地位も欲しい。
その為に今小娘一人に縛られる積もりは毛頭なかった。

一方、紗南は、まさか優しい実沢がそんな残酷な事を言うと夢にも思わなかった。
ポカンと口を開けて、その場に立ち竦んでいた。



それだけでない。
その日の内に法学部のクラス中に、紗南の失恋の噂が流れたのである。
誰が話し出したのか知れない。
恐らくLINEで紗南が実沢に連絡したのが見られたのだろう。
LINE の特に親しい友人が悪口を流すのが紗南にはひどいショックだった。

思い込みの強い女。
可愛いけどしがみつくから近寄らない方がいい。

そんな言葉が交わされていると、わざわざ紗南に告げた友達もいて、紗南は心の底まで冷えてきた。

春休みを迎えても広島の実家に帰る気もしない。
友達と会う気もしない。
ネットを見ると、恐怖感がわく。

紗南は勉強は勿論、家事も食べる事も外出する事も全て億劫になった。
眠りも浅く短い。
僅かに近くのコンビニに行って飢えを凌ぐ位である。

痩せこけた紗南の顏は青白く、目だけが光っていた。
あのイキイキと可愛いお姉さんはどこに行ったのか?
思わず後ずさりした靖だが、理由を知りたいと思った。
本能的に男が絡んでいると思った。

読んでいただき心から感謝します。 宜しければポツンと押して下さいませ❣️

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