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読書の森

紫姫の駆け落ち その6

煌々と照らす月が雲に覆われて一瞬濁って見える。
佐代子は、遠い月を眺めた。
夫は今宵も自分を抱くだろうか?

キリキリと抱かれて、忘我の中に浸りきってみたいと思う。
過去の出来事も未来の事も何もかも忘れてしまいたい。

太陽が上り又沈む、その繰り返しが続いて真実が明らかになったら、「忘れていました」などと口が裂けても言えまい。
夫の愛がこれほど深いのに、事もあろうにその弟と睦み、子を産んだ不貞な毒婦と言われ、死罪となろう。
自分だけでない一族郎党が汚名を着る事になろう。
順序が逆で、先に弟から愛されてその子を孕んだなどと、それが真実だろうと、さらに嘲り笑われるだけである。

真実の全てを葬りさり、嘘を突き通すのが本当のお家の為である。
その思いが彼女の心の支えとなった。

この美しく肥沃な地を自分なりに愛している、だから醜い真実を明るみに出すべきでない、この土地に殿様より古く住み着いた豪族の子孫に残る意地だった。
作者注:
(令和の日本では全然通用しない戦国の旧家の意地)



愛されるだけの美しい女は、ただ自分が被害者だという思いで満ちてていた。
なんとかこの苦境から逃れたい。
悩み抜いた挙句、狂気に近い恐ろしい考えが佐代子に閃いた。

夫、泰清を殺すのだ。
それを夜間忍び込んだ曲者の仕業とする。
自分は離れの厠に行って知らない事にしよう。
お側の者が交代して寝屋の様子を伺う者のいない時間にことを行うのだ。
この大事件によって、この赤子の父親、即ち夫の弟が次の城主となる、残された母娘は亡き殿の忘れがたみと妃と言うことになる。
そして恐るべき秘密は有耶無耶にされるだろう。


佐代子の頭の中に「殺す。殺さねば自分が殺される」という恐ろしい声がガンガンと鳴り響いていた。

泰清がいなくなれば、きっと楽になれる。
何故なら、もう彼に真実を知られたらどうするかと悩まずに済むからだ。
追い詰められた狂気が彼女を駆り立てた。

注:話が残酷になり過ぎてごめんなさい🙏


読んでいただき心から感謝です。ポツンと押してもらえばもっと感謝です❣️

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