読書の森

年賀状 最終章



彼女のご主人は、高校の先生だった。
温厚で真面目そうな人で、極めて細やかな心配りを妻にしていた。

「優しいご主人ね!」
彼女に言うと嬉しそうな顔をした。

「退院したら出来る限り家事をして、夫に不自由をかけないようにしたい」
彼女は熱心に願っていた。
負けん気の強い彼女が頑張り過ぎないよう、私は祈った。

二人共退院した冬、視力の失せた彼女の為に歌とメッセージの年賀郵便を送ったのである。



ご主人の名前で返事の賀状は来た。
中身は親戚と名乗る女性の筆だった。

「彼女は体調が非常に悪いのです。
申し訳ないのですが、もう手紙は出さないで下さい」

彼女が糖尿病の末期である事はよく知っていた。しかし、本人の気力と夫の愛情で支えていると信じていた。

この女性は親戚なんかじゃない。
夫を愛し世話をしている女性だった。
優しい夫には愛人がいた。
その愛人は妻が喜ぶのを嫌ったと考えた。

そういう事は、よくあり得るとは分かっていたが、まだ若い私はひどくグロテスクなものに触れた気がした。

もっと深読みをすれば、当然あのテープは夫も聞く筈なのだ。自分の愛しい男が他の女(若かった私)に興味を持って欲しくなかった訳である。

後に、私は男女を問わず、相手を独占する為には手段を選ばない人間が多い事を知った。
自分たちの城を守る為に、人情は無用となる、それは決して罪では無いのだ。

今、男と女とは哀しいものだと思う。




明けましておめでとうございます。
いつも読んでくださって本当に有難うございます。
年初としまして、内容が今一かと思います。

ブログは全く別と致しまして、

皆様にとって平和でお幸せな年となるよう祈っております!

読んでいただき心から感謝いたします。

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