ひと月ほど前のこと。
近所のスーパーで皮とひげ付きのとうもろこしが一本98円で売られていた。
こんなに安くて農家の皆さんにはホント申し訳ないなぁと思いながらも「出始めのとうもろこしきっと、絶対旨い!」という勝手な思い込みに購買欲を掻き立てられ、「今日は一本だけ」と購入。帰宅してすぐに調理した。
我が家の調理法は以下の3ステップ。
①無水鍋にとうもろこしの皮と髭を敷く。
②とうもろこしをのせ少量の水を振る。
③蓋をして火にかける。
コレが、美味しく仕上がるコツ!ロイヤルクイーン料理教室でそう教わってからそれ以外の方法はあり得なくなった。
火にかける時間も蒸気が出てから1〜2分程度。全体が透き通るような鮮やかなヤマブキ色になったら皿に引き上げて冷ます。美味しさが鍋に逃げ出さないうちにそこから出してあげるのだ。
とうもろこしが皿の上にいるのも束の間。ちょっと味見のつもりがもう止まらない!大口開けてがぶりがぶり、顎が疲れる程に上下の顎は一気にとうもろこしの上をむさぼっていった。そうしてそれは2分もしないうちに全ての実を失い、無残な姿に変わってしまった。
歯の隙間に残る甘く新鮮な芳りと黄色い粒に魅了された一瞬の出来事が、私を「至福」の世界に留まらせる。あぁ、結局人って食べることに単純に生きる喜びを感じてしまうんだ。あっという間の自分の無意識の行動に今更ながら本能には勝てぬと知った。
「もっとたくさん買うべきだった」
店頭に高く積まれたあのとうもろこしの残像が脳裏に甦る。よく考えてごらんよ。たくさん買って来たらこんな感覚はきっと得られない。この「至福」は、この「一本」がもたらしてくれたもの。二本目以降にはないものだ。そう自分に言い聞かせて残像と妄想におさらばした。
苦しみからの解放のためには、自分の中の「思い込み」を捨てること。
そう学んだばかりだったけど、今日の「思い込み」は私に幸福感をもたらした。思い込みの中にはそんな「当たり」もあるのかもしれない。当たりをいつでも期待するつもりはない。ただこんな生活の些細な楽しみがここに存在することを知れた、それだけでも嬉しかった。
大切なのは気づくこと。思い込みだろうが何だろうが、ささやかな楽しみと喜びを感じること。
毎日のちっぽけな幸せをここに記録出来ることも幸せの一つなのかもしれない。それならば、ぼちぼちでも少しずつでも自分の足跡を残していこう。
そう、これからも。