東京~福井は20分の短縮に
2024年春の北陸新幹線金沢~敦賀間(125km)の開業まであと1年を切りました。東京~福井間は最短2時間53分となり、現行の東海道新幹線米原駅経由より約20分早くなると想定されています。
【え…もはや別の駅…】 新幹線「敦賀駅」の構造(画像で見る)
北陸新幹線W7系(画像:JR西日本)。© 乗りものニュース 提供
福井県庁は新幹線延伸で経済が活性化することに大きな期待を寄せ、県内各地で受け入れ態勢を整えています。日本政策投資銀行の2020年のレポートだと、北陸新幹線敦賀開業後、首都圏から福井県へのビジネス客が110.8%増、観光客が92.3%増と分析しています。
では、北陸新幹線はどのような運行体系になるのでしょうか。
まず、列車愛称は現在の「かがやき」「はくたか」「つるぎ」の3タイプが踏襲されることになりそうです。北陸新幹線金沢延伸、西九州新幹線開業の時は1年以上前に新名称が発表されていますが、今回はその動きはありません。
ダイヤについては、例年通り今年12月中旬頃にプレスリリースされると思います。北陸新幹線富山~金沢間は1日約40往復運転されていますが、その多くが敦賀駅まで乗り入れるのでしょう。金沢~敦賀間は所要43分と、特急で1時間12分かかる現状から大幅に短縮されるようです。
在来線特急はどうなるのでしょう。現在、特急「サンダーバード」が大阪~金沢間などで1日25往復運行されていますが、2024年春以降、すべて敦賀発着に変更されます。
特急は、現在、大阪~敦賀間を約1時間20~30分で走り抜けます。新幹線の運行本数にあわせて毎時2往復に増発されるのでしょうか。
神戸・姫路方面への延長運転があるかも、90年代に検討された北陸特急の関西空港乗り入れが実現するかも――683系がそのまま使われると思いますが、他の直流特急車も敦賀まで乗り入れるのか、想像力が膨らみます。
気になるのは、愛称です。九州新幹線に倣うなら、「リレーかがやき」や「リレーはくたか」、「リレーつるぎ」となるのでしょうか。あるいは「サンダーバード」の名前を引き継ぐのか、第三の名前になるのか、注目したいところです。
ただ、最大の課題は、敦賀駅です。北陸と京阪神を移動する際、北陸新幹線から特急への乗換が必要になります。
時短にならない福井~大阪
敦賀駅には高さ37mの巨大な駅舎が完成し、新幹線ホームは高さ24m、8階建てのビルに相当する場所に設置されます。駅の前後の地形、特に国道8号のバイパス道路を跨ぐ構造のため、仕方ないようです。
在来線特急ホームはその真下の地平部に位置します。14基のエスカレーターが両ホームを結びますが、鉄道・運輸機構の試算では上下の移動に5分かかるとしています。実際の乗換時間は余裕を持たせて8~10分は必要でしょうか。
昨年開業した西九州新幹線武雄温泉駅と比べると不便なのは否めません。同駅では新幹線と特急が同一ホームで平面移動できるので乗換時間は3~4分に設定されています。
このため、福井県内から大阪への移動時間は現行とあまり変わらないのです。
福井県資料によると大阪~福井間の所要時間は1時間47分とされています(敦賀駅の乗換10分)。所要時間は今の「サンダーバード」より4分短縮するに留まり、逆に特急料金は約600円アップすると試算しています。
福井市の南側にある越前市(武生)、鯖江市の利用者にとってはさらに微妙です。
北陸新幹線の越前たけふ駅は北陸自動車道武生ICの南隣に設置されます。国道8号から程近いのでパークアンドライドでのアクセスは良いのですが、武生駅から5km、鯖江駅から7kmほど離れているのをどう考えるのか。
建設中の敦賀駅。高さ37mの巨大駅舎は2023年2月にようやく全景が現れた(画像:JRTT鉄道・運輸機構)。© 乗りものニュース 提供
現在、特急は武生~敦賀間を20分で結びますが、新幹線は越前たけふ~敦賀間でおそらく12分程度。大阪方面へ行くには敦賀駅で乗換が必要となるので今の「サンダーバード」より所要時間は長くなりそうです。速達効果は実感できないでしよう。
「新幹線連絡」担う在来線は問題を抱えたまま
在来線特急には湖西線問題もあります。
湖西線は踏切のないほぼ高架路線であるため、最速130km/hで走行可能なのですが、秋から春にかけての時期、日本海から比良山を超えて琵琶湖へと流れる強風「比良おろし」に見舞われます。秒速25mを超えると運転規制が入るため、たびたび速度規制や運転見合わせが起きます。
2008年以降、比良~北小松間などで防風柵を設置して運転見合わせ時間は以前の3分の1になったようです。ただ、この冬も何日か湖西線の運転見合わせが実施され、「サンダーバード」は米原駅・東海道本線経由で運転されました。遠回りになるため20~40分は遅延します。このほか、東海道・山陽本線など他線の遅延の影響を受けることもあるでしょう。敦賀駅で予定していた新幹線に間に合わなくなることがしばしば起きそうです。
「対首都圏」はバラ色も「対京阪神&中京圏」は暗い?
特急「しらさぎ」の今後も懸念材料です。名古屋・米原~金沢間で1時間ごとに運行され、米原駅で東海道新幹線「ひかり」と接続し、福井県と首都圏と結ぶ最短ルートとして賑わいますが、2024年春以降、利用者の多くは北陸新幹線へ移行するのでしょう。名古屋~福井・金沢の移動には米原と敦賀とで乗換が2回必要な時もでてきます。敦賀~東京だと北陸新幹線より現行の米原経由の方が27分早いなどのケースもありますが、利用者数の減少は確実です。運行体系はどうなるのか気になるところです。
このように京阪神と福井県の移動に限るなら、新幹線敦賀開業効果は限定的です。先の政投銀レポートでも、関西圏から福井県に訪れるビジネス客は敦賀開業後に4.2%増、観光客は0.6%増と横ばいになると慎重な評価をしています。
一方、石川県では一定の新幹線効果があるようです。大阪~金沢間の所要時間は最速2時間4分、現行より27分短縮するとJRは試算しています。政投銀の2023年レポートでは、敦賀開業後、関西圏から石川県を訪れるビジネス客は21.2%増、観光客は53.5%増と推計しています。着実に利用を増やすためにも連絡特急の利便性向上は重要になります。
金沢~小松間で建設中の新幹線高架下をゆく特急「サンダーバード」(画像:JR西日本)。© 乗りものニュース 提供
この敦賀駅での乗換問題、北陸新幹線が京都・大阪まで延伸できれば解決するのですが、それはいつのことでしょうか。
国は新大阪延伸の時期を23年後の2046年としています。北陸や関西の政財界や自治体は2031年度の開業を要請していますが、諸般の事情で本格着工はまだ先のことです。財源も予算も確保されていません。建設費2.1兆円が倍増するのではとの指摘もあります。今年4月の京都府議会選挙では、建設反対を唱える議員、7年前に検討案から外された舞鶴ルート・米原ルートを支持する議員が当選するなど、地元もまとまっていません。
このように敦賀駅での新幹線と特急の乗換は、今後10年以上続く可能性が濃厚です。延伸の先行きが見通せない状態で、どのような中長期的ビジョンを描くのか。JR西日本と関係自治体は難しい対応を迫られています。