ACROSS THE UNIVERSE の 正しい歌詞
この曲の紹介や論評を見ると、特に歌詞について「文学的」「ジョンの最高傑作」という文字が踊り、ネット上でも日本語に翻訳するときの様々な解釈が紹介されていて、その人気の高さがよくわかります。一方で、英詞そのものが、アルバムのブックレットや詩集によって違い、謎めいた印象も与えています。
この曲を弾き語りでカバーしてみようと思った時に、歌詞の表記の違いに気が付きました。
そもそもこの曲に限らず、アルバムの歌詞カードに間違いが多いことは洋楽ファンならとっくに承知していることですし、他の曲に関しては違いがあってもさほど気にしませんが、ACROSS THE UNIVERSEに関しては、その詩を「最高傑作」と称し、様々な訳を一生懸命考えている方がいるにもかかわらず、歌詞表記の違いに関しては、その箇所を単に紹介するだけだったり、明確に指摘せず曖昧に終わっていたり、納得のいく指摘が見当たらなかったので、だったら自分で検証してみようと思ったのがこのブログを書くきっかけでした。ある程度細かいのはこの知恵袋でしょうか。全部じゃないんですけど。
私は英語に堪能ではなく、英米文学科卒でもなく、文学少年でもありません。なので、その意味と翻訳という側面で多くを語ることは難しいのですが、ジョンが書いた詩については、基になっている言葉は明確に存在すると思っています。創る最中で歌詞が変わることはあっても、レコーディングするとき、最終的な歌詞は用意しているはず。マイケルの「Come on」が「Chamone」に聴こえるとか、宇多田ヒカルさんの「だろう」が「だは~!」に聴こえるとか、そういう話ではありません。
普段から曲をカバーするとき真っ先にするのは、ひたすらリピートして聴くこと。課題曲を決めたら帰宅途中の車内で聴き続けます。危ないから車中で歌詞カードは絶対に見ませんが、ある程度聴くとメロディと語感をセットで覚え始めるので、そうなったら歌詞とコードを確認して部屋で練習を開始します。
この曲に関しても同じように取り組みましたが、いきなり「They slither while they pass they slip away」でつまづきました。頭の中は「???」。いったん練習をやめて、手元にある歌詞カードと詩集、ネットの情報をかき集め、ヘッドフォンで「...NAKED」のVersionを繰り返し聞きながら、納得できる歌詞を見つけることにしました。そのたどり着いた結果を記します。
全ての歌詞を書くのは権利上問題がありそうですし、表記の違いが明らかな箇所を中心に書きますので、気になっている方の参考になれば幸いです。…これは、原曲に忠実に歌おうと思った結果から来た私的な指摘です。ご批判もお寄せいただけたら嬉しいです。なお、いくつかバージョンの違いはありますが、歌詞をきちんと聴き取れるよう、音源は「LET IT BE…NAKED」のバージョンにフォーカスしています。「LET IT BE」のバージョンは「…NAKED」の録音をアレンジしたものなので。この「LET IT BE」バージョン(青盤収録もそう)のテープスピードを落とすやり方が良くも悪くも影響したのか、歌詞は聞き取りにくいです。このアレンジが歌詞の謎を生んでしまったのかもしれないと思うと、フィル・スペクターは罪深い男かもしれません。
この記事を書くにあたり、手元に歌詞カード、詩集とバンドスコアを用意しました。CD付属の歌詞カードはThe Beatlesの「1967-1970(青盤)」と「LET IT BE…NAKED」、David Bowieの「YOUNG AMERICANS」。それとソニーミュージックパブリッシングとシンコーミュージックによる「ビートルズ全詩集(改訂版)」、更にヤマハミュージックメディアが日本語版を手掛けた「[完全版]ビートルズ全曲歌詞集」。バンドスコアはソニーとシンコーによる青盤(2002年初版物)。
結論を先に言います。ACROSS THE UNIVERSEは、「[完全版]ビートルズ全曲歌詞集」に掲載されている歌詞が正しいと思います。ネットに書いてある歌詞は数が多すぎるのでここでの紹介は割愛し、主に「ビートルズ全詩集(改訂版)」(以後「全詩集」)、「[完全版]ビートルズ全曲歌詞集」(以後「全曲歌詞集」)を対比して、時に他の歌詞カードを参考にしながら個別に見ていきます。
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「全詩集」
They slither while they pass they slip away(?)
They slither while they pass they slip away(?)
先述しましたが、まず気になったのがここです。バンドスコアもこの表記。「while they」というのが聴こえている言葉とまず違う。さらに「they pass they slip~」と続くのは、文法の範疇では測れない歌詞の世界とはいえ、富田チルドレン(自称)としては看過できない強烈な違和感。意味としても、「全詩集」では「いつしか通り過ぎ」と「while they pass they slip away」をまとめてしまっていることに合点がいきません。Theyは冒頭のWordsを指しているでしょうし、紙コップに流れ込んだ言葉たちが溢れ出る様子を比喩として表現しているのであれば、slither とslip awayを使えば、passという動詞はこの場に必要ない。よく聴けば以下であると思います。
「全曲歌詞集」
They slither wildly as they slip away(!)
ちなみに、「wildly as」は青盤とヤングアメリカンズの歌詞カードもそう。しかしネイキッドとバンドスコアでは「while they pass」でした。一項目としては取り上げませんが、ネイキッドとバンドスコアは、その後にある「my opened mind」を「my open mind」と書いています。少し残念。聴けばopenedであることはすぐに気が付くと思うのですが。
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「…NAKED」
That call me on and on(?)
That call me on and on(?)
「全曲歌詞集」
They call me on and on(!)
They call me on and on(!)
なんか、…NAKEDの歌詞カードは前に引き続き残念。他は軒並みThatではなくThey。そりゃそうだ。だけど…NAKEDの歌詞カードには以下のような注釈がありました。
おことわり:歌詞は作者によって正式に認められたものを採用しております。実際に歌われている内容とは異なる箇所がありますが、ご了承ください。
ここの「作者」ってのが気になりますが、なんとなく言いたいことは分かります。大人の事情があるんでしょうか。「違うことは俺も分かってんだよ。だけど、これで出さなきゃいけねーんだ」というメッセージにも受け取れます。
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「全詩集」
shades of earth(?)
shades of earth(?)
「青盤」
shades of love(?)
「全曲歌詞集」
shades of life(!)
shades of life(!)
ここから佳境に入ります。文法的なことではなく、どちらも名詞として「earth」と「life」の違いで、全詩集、バンドスコアと…NAKEDは「earth」。全曲歌詞集とヤングアメリカンズは「life」。ところがなんと、青盤は「earth」でも「life」でもなく、「LOVE」と来たもんだ。
単純に「ライフに聴こえる」で終わってしまいそうですが、その前に対比として「Sounds of laughter」があり、その二つをまとめて「are ringing~」と続きます。つまり「Sounds of laughter」と「shades of ウンボボ」は、意味は反対であっても比較可能な同種でないと成り立ちません。それが「笑い声」と「地球の影」では対象として薄い。人間社会での明るさを表す笑い声だったら、客観的、物理的事実ではなく主観的な暗さが来てほしい。なら「暮らしにおける(人生の)影」という意味が対比になって良いんじゃないでしょうか。この意味だと「LOVE」も捨てたもんじゃないですが、聴こえるのは「Life」でしょうよ。
ちょっと言いにくいですが、このあたり、日本のトップシンガーで英語もネイティブ並みな方も「earth」でカバーしてましたね。「while they pass」もそうだったかな…。YouTubeで見られます。たぶんメロを知ってるから目の前にあった歌詞を信じていたんでしょう。もしくは…NAKEDのバージョンではなく、聴き取りにくい「LET IT BE」バージョンを参考にしたのでしょうか。ちなみにアコギ2本で演奏していたので、Keyは変えていますが形とするとネイキッドにかなり近いです。
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「全詩集」
my opened views(?)
my opened views(?)
「全曲歌詞集」
my opened ears(!)
my opened ears(!)
これもよく聴くと「views」ではなく「ears」だと思いますが、意味としては、全詩集ではare ringingを含め「僕の開かれた視野に鳴り響いて」と訳されています。悪いとは言いませんが、その後の「inciting and inviting me」まで考えると、耳に鳴り響いて僕を誘うという内容が良いんじゃないかと思います。ちなみに「inciting and inviting me」は、「inviting and inciting me」と前後が逆になっているものもあるようです。正しくは「inciting and inviting me」です。
…NAKEDの歌詞カードはedを付けないopenにviewsと続いていました。ここは聴くとedがないopenでも良さそうというか、判断に迷うところです。でもopenedだろうな~。
そして驚くことに青盤は「MY OPENED EARS VIEW」と、この問題にまるで一石を投じているかのような表記でビックリ。VIEWSでもないのがさらに凄い。
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「Young Americans」
It calls me(?)
It calls me(?)
「全曲歌詞集」
And calls me(!)
And calls me(!)
最後に指摘するのは「It」と「And」です。私の結論は「And」で、ここは「全詩集」も「And」でした。「It」にしているのはヤングアメリカンズ、青盤、…NAKED、バンドスコアと結構多いですが、何度も聴くと「And」で間違いないでしょう。
ここで、数多くのカバーが存在するのに、なんでDavid Bowieを参考にしているの?と思われていた方もいるかと思いますが、その理由は、レコーディング時にジョンが同席していて、ジョンから歌詞を直接教えてもらっていた可能性が高いほぼ唯一のカバーであるからなんです。
このカバー自体を好きで聴いているかどうかは聞かないでもらうとして、コーラス部分はともかく英語詞の箇所は信じるに値すると思いながら検証していました。が、唯一納得できなかったのがこのItでした。どうしてもAnd、そうでなければThenにも聴こえましたが、Thenが入ると意味不明。正しいのかどうかは分かりませんが、Andで繋げてもcalls meだから、主語は三人称単数であるからして、直前のsunsではなくundying loveでしょう。It だと接続が気になって。いや、文を一旦切っているのならItでも問題はなさそうですが…最終的に私が判断したのは「And」でした。ヤングアメリカンズのおかげで最後に謎が残ってしまいましたが、これ以上の追及は不可能かな…。
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ということで、ACROSS THE UNIVERSEだけを研究した結果、「全曲歌詞集」が信頼できるという結論に達しました。ただ、これを買うのにはためらいもありました。5,000円+税ですし、目的はACROSS THE UNIVERSEの歌詞だけ。それでも買って良かったと思います。ここに至るまで、ネットも見たり、ビートルズに関するいろんな本やムックを読んで、歌詞の表記に関する何かの手掛かりをつかむための調査もしていましたが、残念ながら有力な情報を探し出せなかったので、もはや自分が「こう聴こえる」と思っている歌詞が形になっている「紙」「出版物」が欲しかったんです。そうしないとモヤモヤが晴れない。一番近かったのがヤングアメリカンズの歌詞カードという、不思議に感じるけどある程度根拠のある情報を経て、最終的に最も豪華な本で一致点を見いだせたのは自然だったというか、必然だったというか、そう思いたいです。
こんなことを長々と書いてしまって…最後まで読んでもらえる人は、本当にACROSS THE UNIVERSEの歌詞に興味がある方だけでしょう。ご意見をいただければ幸いです。
もう更新されてないのかもしれませんが、
この歌の繰り返し部分、
マントラは、ヴァースの語り手の言葉だと思いますが、その後の「Nothing's gonna change my world」は、語り手の言葉ではなくて、guru の言葉か、宇宙の真理が発した言葉なのだと思うのですが、
ご指摘のとおり、宇宙の真理と考えれば合点もいくし素敵な解釈だと思います。
ただし、お読みいただければ分かると思いますが、私はジョンが歌っている英語詞、言葉がどうか、というところにフォーカスしていますので、その意味、解釈には踏み込んでいないのです…どうぞご了承ください。
細かい部分(day/days、la/ra等)は違っているかもしれませんが、その時「rule」を辞書で引いて「『私は日を支配できる』とか何かかっこいい」という中学生らしい感想を持ったことははっきり覚えているので、大筋は間違っていないと思います。
残念ながらその家も今はなく、レコードも全て失ってしまったために真相は不明ですが、ふと思い出してコメントさせていただきます。
コメントありがとうございます。私はその歌詞を見たことはありませんが、マントラだと分からなければruleと聴こえて、意味も当てはめると確かにかっこよく感じますね。もう少し別の歌詞カードを探ってみたくなりました。貴重な情報に感謝します。
コメントありがとうございます。遅ればせながらDisney+で見始めました。遂に本人の歌詞カードが登場しましたね。最後まで確認出来ませんでしたが、見えた範囲では…ホッとしてます。コレが波及して正されるかな~と思っても、なかなか難しいでしょうね。
これから様々なアレンジも聴いて、その変遷も探ってみようと思いました。
改めて映像をみたら、ここで指摘していなかった「~LIKE A RESTLESS」が「~LIKE THE RESTLESS」とジョンの歌詞カードに記載されていました。これはもう一度調べ直さないといけなくなりました。
Let it be版を聞くとsun it(サンゼィ)と聞こえるのですが、The Beatles Across The Universe 1969 RARE(YouTube)では、はっきりuns andと歌っています。
ありがとうございます。このブログが少しでもお役に立てたのであれば嬉しいです。
また、ItとAndについてもご指摘ありがとうございます。私も他のバージョンを聴いてみようと思います。