◇日本放射線腫瘍学会、厚生労働省に報告書提出
重粒子線や陽子線を患部に照射し、がんを治療する粒子線治療について、日本放射線腫瘍学会が「前立腺がんなど一部では、既存の治療法との比較で優位性を示すデータを集められなかった」とする報告書を厚生労働省に提出した。粒子線治療はがん細胞を狙い撃ちできる治療法として普及し、診療報酬上も自己負担となる照射費用以外は保険適用される優遇を受けている。同省は優位性を示せない部位について、有効性や副作用の有無を調べる臨床試験を求める「格下げ」や、がんの進行度に応じて先進医療からの削除も検討する。
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粒子線治療は、機器や治療技術の有効性、安全性がある程度認められるとする「先進医療A」に指定され、照射のための300万円前後の費用を自己負担すれば、残りの入院や検査、投薬の費用に保険を適用できることが、診療報酬点数表に盛り込まれている。現在、放射線医学総合研究所(千葉市)など同省の基準を満たした全国の施設で、他に転移のないがんを対象に実施している。先進医療による粒子線治療が始まった2001年度以降、昨年度までに約2万1000人以上が治療を受けた。
報告書によると、前立腺がんや一部の肝臓がんなどについて、国内外の文献などを参考に生存年数や副作用のデータを既存のエックス線治療と比べた結果、症例数が少なかったり、比較条件が異なっていたりしたため優位性が証明できなかった。過去の診療報酬改定で、保険適用の可否を審査する同省の先進医療会議が何度も既存治療との比較結果を要求していた。同学会は当初、これらの治療の保険適用を目指したが、報告書で「先進医療Aのままでは評価に耐えるデータの蓄積は困難」と結論づけた。
公的医療保険は、保険診療と保険外の医療を併せて受ける「混合診療」を認めないが、先進医療に指定されると例外的に「混合診療」が認められる。このうち未承認の医薬品や医療機器を使わず、有効性がある程度明らかなものが「A」、有効性が十分明らかではなく、厳格な条件下で臨床試験として実施し、有効性などの審査を受けるものが「B」となる。
今後の診療報酬改定で粒子線治療の一部がBに「格下げ」された場合、対象となる疾患数や患者数、試験期間が限られるため、施設経営に影響が出る可能性がある。さらに先進医療から削除されれば自由診療になり、治療費全額が患者負担となる。厚労省は来年1月をめどに結論を出す方針。
一方、同学会は、小児がん▽骨・軟部腫瘍▽頭頸(とうけい)部がん▽原発性肝臓がん▽原発性肺がん--の5種類は有効性と安全性が認められ、他に根治療法がないことから保険適用を要望した。【阿部周一】
◇粒子線治療
加速器でエネルギーを高めた粒子をがんの病巣に照射し、がん細胞にダメージを与える治療。照射する粒子が水素原子核(陽子)の陽子線治療と、陽子より重い炭素の重粒子線治療がある。狙った病巣にピンポイントで粒子を当てられるのが特徴で、高い治療効果と、正常な細胞を傷つけず副作用を抑えることが期待されている。一方、加速器の建設や維持に必要な費用は大きい。放射線医学総合研究所によると、今年4月現在、建設中も含め陽子線施設は9カ所、重粒子線治療施設は5カ所。このほか、山形や大阪でも重粒子線施設の建設計画がある。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150808-00000015-mai-soci&pos=2
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