風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第一部) 其の弐拾弐

2010-02-11 22:06:39 | 大人の童話

昭和四十五年十一月、六年生になった夢は市内小学校ドッジボール大会に

出るため、友だち二人と六小から会場の四小に向かっていました。夢はどきどきして

いました。

”久しぶりの四小、学校の様子はどうなっているだろう。一年の時、同じ組だった

子たちは。”

夢の胸に、懐かしい想いが次々と浮かんできます。なかでも、二年の二学期から

一度も会っていない四小のことは特に気になりました。

”わたしのこと、覚えていてくれてるだろうか。あの頃みたいに、今でも話すことが

できるのだろうか。”

そんなことを考えて歩いているうちに、いつか四小に着いていましたが、四小の

様子は四年前とだいぶ変わっていて、夢はびっくりしてしまいました。林だった所に

校舎が増築され、昇降口の場所も違い、校舎前の花壇の土手には芝生が

植えられ、階段ができていました。それでも、やはり一年間通った学校、懐かしさが

胸に染みとおってきます。と、その瞬間、目の前の校舎がパァーッと大きく光り、あの

聞き覚えのある懐かしい声が聞こえてきました。

「よく来たわね。ちょっと見ないうちに大きくなって。」

”ああ、四小さん、わたしのこと覚えていてくれた。わたし、まだ四小さんと

お話できるんだ。”

夢は感激で何も言うことができずにいました。

「どうしたの。何も言わないで。」

四小にうながされてやっと一言、

「会えてとてもうれしい。ありがとう。」

あとはもう、涙で言葉になりませんでした。四小は静かに夢を見つめ、微笑みながら

言いました。

「ね、また会えたでしょ。さあ、もう涙を拭いて。ほら、ドッジボール大会始まるわよ。

今日は、おもいっきり楽しんで行ってね。」

四小に語りかけられ、少し落ち着いた夢は、

「うん、ありがとう。四小さん、そこで見ていてね。」

笑顔で答え、、手を振りながら校庭の方へ走っていきました。大会の結果は、

残念ながら惨敗でした。四小に、

「残念だったわね。気を落とさないで。」

と慰められましたが、本当は夢にとっては、大会の結果なんてどうでも

よかったのです。だって、夢の心の中では、大会の結果より四小に会えた喜びの

方が、ずっとずっと大きかったのですから。帰り際、夢は四小にそっと言いました。

「あのね、わたし、六小さんともお話してるの。前に、四小さんが言ったとおりに

なったみたい。でもね、四小さんと話し方全然違うのよ。なんか、一人でキャーキャー

言ってる時もあるし。おもしろいけどね。」

夢の言葉を聞いた四小は、

「ウフフ。そう、よかったわね。」

そう言うと、うれしそうに光を放ちながら消えていきました。