約30年間ワンオーナーで乗り続けた我が愛車、メメと、ついにお別れして来ました。
アルファロメオ155 2.0 ツインスパーク8バルブ。
新車で買ったときには、アルファに乗っている人もまだまだ少なかったです。
輸入代理店は、大沢商会(大沢自動車)でした。
購入時にまだ29歳だった私が、もうじき59歳になります。アラサーからアラ還まで…
人生の、いちばん盛りの時期を共に過ごした車。
運転していても、もう自分の手足のような感覚で操れるようになっていて、まさに「人車一体」の境地でした。
何度も書いてきましたけれど、体の一部を失ってしまったような喪失感があります。
イタリア車に対する悪い先入観は私にもあったので、最初は半分趣味の車として見ていました。
壊れたら、とりあえず直しながら乗って、それでも手に余るようなら早めに乗り換えようと思って。
ところが使ってみると、トヨタ製のアルファロメオか?というぐらい、一切トラブルが無くて。
数年後、最初に壊れたのはパイオニア製のオーディオ、次に壊れたのはデンソー製エアコン。
日本製のコンポーネンツの方にトラブルが出るという、冗談みたいな展開でした。
ちなみにオーディオは、カセットテープを使うものでした。笑
最初にトラブルと言えるトラブルが出たのは息子が生まれた後、なんと20年以上経ってからでした。
車歴20年を超えてくればすべての部品が老朽化しますから、まあそれは不可抗力のこと。
それはもう故障ではなく、経年劣化ですからね。20年といえば、もう大抵の人は乗り換える時期ですし。
ただ壊れないというだけでなく、本当に運転して面白く、めちゃくちゃ楽しい車で…
特別速いというわけではないのですが、飛ばさなくても、エモーショナルな刺激に満ちたマシンでした。
そして下手な運転をすると「今のはへただったな」と車が指摘して来て…
上手く操れると「ナイス!うまいじゃん!」と車がほめてくれるような感覚。
運転しながら、車と常に会話している感じ。そんな車は初めてでした。
新婚旅行第二弾と決めた関西旅行に妻と乗って行って、さっそくコインチョップされてしまった思い出。
今は亡き祖父を、最低だった病院から遠隔地にあった別の病院に転院させるとき…
メメに乗せて連れて行きました。
祖父はろっ骨など骨折していて、相当痛かったはずなのに…
「良い車だなあ。やっぱり違うなあ」
とお世辞を言ってくれたのを憶えています。
あるいは高速を走行中に前のダンプから飛び石があって、フロントグラスを直撃し「あっ!」と思ったら…
空気の流れの関係か、当たる直前にホップして「ガツッ!」と音がしたものの、ガラスにはひびも入らず。
何だか、メメが守ってくれたような気がして、頼もしく感じたものです。
息子が生まれた朝も、産気づいて今にも生まれそうだという妻を後ろに乗せて…
メメで病院に駆け込んで、産室に入ってから20分もしないうちに「オギャア!」と。
もし道が混んでいたら、メメの中で生まれてしまっていたところでした。
夜中に高熱を出した息子を、焦りながら夜間救急に運んだり…
毎日メメで保育園への送り迎えをしたり。
そもそも「メメ」という名前自体、息子が幼児のとき「アルファロメオ」と発音できなくて…
「メメ、メメ」と言っていたことから来ているんですけれど。
家族旅行にも、メメでいっぱい行ったなあ。
いつも、我が家の頼もしいヒーローでした。
私がイタリアに興味を持って、言葉も覚えて、仕事を辞めた後は…
イタリアの文学(中世からルネサンス期の)や歴史(思想史)を学ぶために留学して…
結局、25年間に渡り、取材や執筆、翻訳や講義など、イタリアに関わる仕事をするようにまでなったのも…
一番最初のきっかけはメメを買ったことだったんです。
間違いなく、私の人生の航路を決めたのは、メメとの出会い。
大げさでなく、人生を変えたクルマでした。
一台のクルマが、人生を変えることもあるんです。
そして、メメを手放すのと同じタイミングで、イタリア関係の仕事をするのも、やめる私。
人生の、一つのステージが、メメとともに終わった感じです。
自分で運転して、妻と息子と三人で送り届けて来たのですが…
息子は寂しそうな顔をして、メメをさすっていました。
妻は泣いていました。
でも、いつもうちの車を見てくれている、マエストロS君に譲渡して…
S君は「この車の価値がわかる良い人に、僕が直接、責任をもって売ります」と言ってくれました。
だから、どんな方のもとに渡ったのかもわかるでしょうし。
もしかしたら、車検や整備などで、今後会える機会も、あるかもしれない。
メメのおかげで、本当に幸せなカーライフを送れました。
カーライフに留まらず、人生の「夏」の時期を充実して遅れたこと自体が、メメのおかげだったかも。
次のオーナーさんの元で、幸せな余生を送ってくれることを、心から願っています。
メメ、本当にありがとう。
そして、お疲れさまでした。