昨日は「肉の日(29日)」でした。
父の皮膚がんの予後の、定期検査があったので、車に乗せて築地の病院に連れて行ってあげて…
お昼はふたりで、病院の食堂でカキフライ定食を食べましたけれど…
最近父は外食のとき、私と同じものばかり頼みます。
白内障でメニューがよく見えていない様子なのに加えて…
何かを自分で決断する力が弱くなってきたから、というのもあるみたいです。
夜は仕事帰りの妻と合流して、ステーキを食べました。
「肉の日」ということで、定価の29%OFFになっていたのでね。
もちろん高級和牛の霜降り肉なんかじゃなく、輸入牛の赤身ステーキです。
この方がヘルシーですし(笑)。
余談ですけど、最近は和牛の子牛が海外に輸出されて…
イタリアでも日本のブランド牛が肥育されて、結構人気を博しているようですよ。
イタリアのアルファベットの読み方の習慣と、アクセントは必ず母音にかかるので…
「WAGYU」を「ヴァーギュ!」と呼んでいますけれど。
ハンドルを握るのでもちろんお酒は飲んでませんよ。写真に写っているのはレモネードです。
父は肉が好きなので喜んでいました。
肉が好きなお年寄りには、なぜか長命な人が多いようだ、という話題から…
(肉が食べられるくらい胃腸が丈夫なお年寄りだから長命なのかもしれませんが)
死ぬのが怖いかどうか、死んだらどうなるのか、という話になって。
父はもともと信仰心ゼロ、宗教や信心のたぐいは全部大嫌い、という人。
少年時代、人並み以上の軍国少年で…
天皇陛下は神様なんだと心から信じて「陛下の御真影」や「宮城の方向」を真剣に奉拝して…
日本は世界でただ一つの「神の国」なんだから、戦争で敗けるはずがないと信じていたのに…
見事に戦争には敗けるわ、天皇は「人間宣言」するわで…
「おとななんか信じない!」「おとなが言う『神様仏様』なんてぜんぶ嘘っぱちだ!」
ということになったようです。純情でまっすぐな子ども…過ぎたんでしょうね。
だから、軍国少年の反動で、戦後はずっと「社会党支持」だったと自称してます。そして…
葬式、法事、墓参りや、初詣したりするのは、世の習慣だから形式としてやっているだけで…
神や仏なんていない。神頼みなんて意味がない。人間死んだらそれですべてお終いだ。
だから、亡くなった人が「あの世から見守ってくれている」なんてことはなくて…
「死んだ親父やおふくろは、もうどこにも存在してない。墓参りなんて意味ない」と。
だから仏壇ひとつありません。
まあ、無信仰と自称しながら、その実、神や仏のようなものであるとか…
「死後の世界」だとかを、どこかで信じているのであろう…
普通の日本人とは違いますね。
なので、父は死ぬことがものすごく怖いそうです。
そして、日に日に自分の体と頭が衰えているのを感じるにつけ、恐ろしさが増しているんだと。
私が「自分自身が死ぬこと自体はそれほど怖くはないな」と言うと…
「自分の意識がなくなったら、何もかも消えて、無の世界になっちゃうんだぞ」と。
私が「自分が消えても、自分の外の世界は続いて行くでしょう」
「元は自分なんて存在していないところから…
いろんな偶然が重なってこういう形になって、また元に戻るだけのこと」
「形のある物はすべていつか滅びて、別の形に変わるものなんだから、自然なことじゃない?」
「生き物も物質も現象も、万物が絶対に避けられない運命なのに、それをそこまで怖がってたら…」
「この世に生まれて生きていること自体が、恐ろしいことになっちゃうんじゃない?」
と言ったら…
「いや理屈はそうかもしれないけどさ…」
「自分の意識がなくなったら、あとは、世界も何もぜんぶなくなるのと同じだろう」
と……
観察する主体が消滅したら、観察される客体=世界が消滅する……みたいな考え方。
ここまでくると哲学的な話になって、唯物論と唯心論の対立みたいになりますね。
父は哲学などに興味ないし、そんなものはむしろ軽蔑しているでしょうけれど。
でも要するに父の考え方は、意識を持った「自我」がこの世のすべてであって…
自我が消失したら、この世の何もかもが終わり、という…
スーパーエゴイズム…みたいな感じなんでしょうね。
そして「終わり」をすごくネガティブに捉えている。
理解できなくはないです。でもそれって、宿命的にすごく苦しい考えになるというか…
死が避けられないことである以上、生きること自体、というよりは…
この世界そのものが、バッドエンドを約束されていることになります。
いずれにしても「消滅」をそれほどネガティブに捉えるのは、不幸なことです。
その考えから来る生きづらさ、恐怖を避けるために、必要だったのでしょうか…
驚いたことに父の場合「最近まで、自分は本当に死なないんじゃないかと思っていた」と。
これ、冗談ではなく、本気で言っているみたいなんです。
自我・意識の継続が「世界の終了」を防ぐ唯一の手段なら、そうであってほしいですよね。
「神国日本」に裏切られて、あらゆる「神的なもの」を否定した少年がたどり着いたのは…
自分自身を、世界の中心であり、世界の存在を保証する「神」にすることだったのでしょうか。
とにかく、色々と変わった思考をする人なんだなというのが、ごく最近わかって来ました。
少し前まで見せていなかった、心の奥にある本音、本当の自分の姿が…
抑え隠していた力が、老いと共に緩んで、表にさらけ出されるようになったのでしょうか。
ちなみに父は、教育のある人ではなくて、旧制中学(卒業時は高校)しか出ていません。
小学校までは、陸軍将校が来校しての、軍事教練に時間をとられて…
中学時代は、終戦直後の何もかも欠乏していた(教材と教師も含め)時代なので…
木造校舎の壁板を引っ剥がしてストーブの薪にしたり、校庭で芋を作って腹の足しにしたり…
そんなこんなで、ろくに勉強はしてないんだ、と自称しています。
(学問も学歴もなくても、社会的には成功?しましたが)
ちょっと特異な世界観を育んだのは、戦争とその後の国家の荒廃だったのでしょうか。
父は、時代の犠牲者なのかも。
とにかく「国民学校」で、ある種のカルト的宗教の、洗脳教育を受けた子どもたちと…
その洗脳された子どもが、大人になって作った社会。
そればかりでなく、洗脳世代に育てられた人たち(我々)…
も含め、その歪みは解消されないまま、日本社会はここまで来てしまったような気がします。
さすがに、私らの子ども世代に、その影響はないと信じたいです。
でもこの十数年の「反動教育復活」を想うと、またぞろ大日本帝国の亡霊が蘇って…
男の子は「国のために死ぬ」ことを目的にして生まれ、生きていて…
女の子はその「銃後を支える」ために生まれ、生きているのだという…
「死ぬことが目的の生」を基にした、狂気の国が復活するのではないかと危惧します。
たとえそれが狂気の社会であったとしても、とりあえずは…
「周りに合わせ、多数派になって、勝ち馬に乗って生き延びる」ことが…
日本人の生き方だったりする。
とてもヤバい人たちなんですよ、私たち、実は。
最後に、しつこくまた(笑)小倉唯さんの「大切な曲」を置いておきます。
>長きに巻かれ(大樹の)陰に隠れ 得る平穏って何だ?
という歌詞。
ほんとにそうですね。