
三鹿の渡し
元康君を大高城から安全に逃がすべく、平八郎は与七郎(石川数正)らと先駆け隊となり、三河へ駆ける。
大高城の様子を伺っていた野盗の類いは、大手門が開門され、雪崩れ込もうと色めき立った。
その刹那、
〜どけどけ!主命である!邪魔だ!〜
〜ぎゃ〜っ!、ひぃ〜っ!〜
平八郎は馬上で槍を振るって進路を塞ぐ格好になった野盗らを血祭りに挙げると、そのまま走り去った。
平八郎に続いた馬上の与七郎もこれには唖然となった。
残った野盗らは、凄まじい形相で仲間を斬り殺して行った三河武士の恐ろしさを肌で感じて、慌てて大高城から去っていった。
この様子を本丸から眺めていた元康君は、
〜ほほう、これは頼もしき侍大将になるのう〜
元康君は、元服間もない平八郎が野盗らをも臆することなく蹴散らして、主命を果たそうと駆け去った後で、烏帽子親として誇らしい思いに心地よい感動を覚えた。
平八郎らの先発隊は、大高城を出た後は、陥落させた丸根砦、鷲津砦を過ぎ、東へ進路を取った。今川軍が往路で使った街道沿いをあえて離れ、信長の軍勢が今川勢を討つべく雪崩れの様に降りてきた太子ケ根に登る。
〜平八郎、如何したのだ?〜
与七郎は急ぐ先発だというのに、寄り道の様に太子ケ根へ登る進路を取った平八郎を訝(いぶか)しんだ。
平八郎は信長が昼間観ていたであろう景色を脳裏に刻み込んだ。
…信長という男、必ずや若殿の前に現れるはず。…そうであっても、守り抜いてみせる。…
〜かたじけない、急ぎましょう。〜
一刻(約1時間)が過ぎた。
池鯉鮒(ちりう〜現在の知立市)からは北の八橋へ街道から外れた。
八橋側から伺うと、街道は野盗らが盤踞している。
〜これは、若殿をお連れするのは、相当難儀するぞ〜
与七郎がため息をつく。
2に続く