投資家の目線

投資家の目線886(通貨問題、エネルギー問題)

 7月19日、テヘランでイランのライシ大統領、ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領が会談した。「プーチン氏はイランとの2国間貿易で米ドルなどの国際通貨に代わり、ロシアのルーブル、イランのリアルを決済に使う案について協議したと明らかにした」(『プーチン氏、穀物輸出協議に「満足」 トルコと首脳会談』 2022/7/20 日本経済新聞WEB版 更新前記事)。インドもロシアやイランとの貿易でルピー建て決済を導入しようとしている(「インド中銀、ルピー建て国際決済導入 ロシアなどとの貿易促進か」 2022/7/12 ロイター)。3月には、サウジアラビアが人民幣建て石油販売を検討していると報道された(「人民元が反転上昇、サウジが元建て石油販売を検討とのDJ報道で」 2022/3/15 Bloomberg)。世界貿易でのUSダラー離れが進行しており、USダラーの国際的地位は相対的に低下すると予想される。それに合わせるように、中華人民共和国は米国債の保有も減らしている(「中国の米国債保有、12年ぶり1兆ドル割れ 金融も分断」 2022/7/19 日本経済新聞WEB版)。

 

 一方、財務省が発表した日本の2022年上期(1~6月)の貿易収支は、7兆9241億円の赤字になっている。「資源高が響き、赤字額は比較可能な1979年以降で半期として過去最大となった」(「貿易赤字、1~6月過去最大7.9兆円 資源高響く」 2022/7/21 日本経済新聞WEB版)という。「円安は輸出を押し上げる効果があるが、半導体などの供給不足もあって思うように伸びていない」(「貿易赤字最大、円安と共振 中国減速で輸出も鈍く」 2022/7/21 日本経済新聞WEB版)。地下資源も貴金属の備蓄も乏しい日本にとって、「円」の信用力の裏付けは輸出による外貨獲得能力が主であろう。江戸時代、姫路藩の藩札の信用力が高かったのは、藩札が江戸で人気の播州木綿の生産高に応じて発行され、正金銀が獲得できたためである(「兵庫県の歴史 県史28」 今井修平、小林基伸、鈴木正幸、野田泰三、福島好和、三浦俊明、元木泰雄 山川出版社 p248)。貿易赤字が続けば、円の凋落は続くものと思われる。

 

 7月18日、EUはアゼルバイジャンとの間で2027年までにガス輸入を倍増させる覚書を締結した。「アゼルバイジャンはカスピ海に油田・ガス田を有するエネルギー輸出国で、20年からはトルコを経由したパイプラインで欧州にガスを供給している」(「EU、アゼルバイジャンからガス輸入倍増へ 覚書を締結」 2022/7/19 日本経済新聞WEB版)。IMFは、ロシアから天然ガスの供給が止まればドイツの経済生産が4.8%失われると警告している(「ドイツ経済は約5%失われる、ロシア産ガスの供給途絶なら-IMF 2022/7/21 Bloomberg)。ドイツの経済危機は欧州の経済危機ともいえるが、日本への影響はないのだろうか?

 

 また、アゼルバイジャンは本当に欧州向けを倍増させるほどの増産ができるのだろうか?以前、インドのエネルギー企業リライアンス・インダストリーズが、ロシア産原油を精製して米国に販売しているのではないかという疑惑が上がった(『ロシア産石油制裁、「産地ロンダリング」で抜け穴だらけ』 2022/6/3 ハンギョレ新聞)。トルコ経由のパイプラインは、ロシアからブルガリア、セルビアを経由してハンガリーに達する「トルコ・ストリーム、バルカン・ストリーム」もある(『ロシアからトルコ経由の天然ガスパイプラインを延長する「バルカン・ストリーム」が開通(セルビア、ブルガリア、ハンガリー、ロシア、トルコ) | ビジネス短信 - ジェトロ』 2021/1/14)。アゼルバイジャンからトルコに供給されるガスの量を減らし、その減少分をアゼルバイジャンがロシア産ガスを購入してトルコに供給するというスワップ取引が行われるだけではないのか?ロシア産ガスの購入代金より欧州向けガスの輸出代金の方が金額が多ければ、アゼルバイジャンは利ザヤを獲得できる。

 

 日本経済新聞も、原子力発電を支える濃縮ウラン燃料がロシア依存であることを報道し出した。「現在は安全審査中だが、青森県六ケ所村の濃縮工場で加工もできる」(「原発燃料 脱ロシア難航 日本に供給協力要請」 2022/7/19 日本経済新聞朝刊)というが、日本が米国から輸入していた毎年500トン前後の量(2001年-2010年、「政策選択肢の重要課題: エネルギー安全保障について」 原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会 平成24年2月23日 内閣府 原子力政策担当室 p11)を生産できるのだろうか?『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』(エマニュエル・トッド著 堀茂樹訳 文春新書 p92)では、プーチン大統領の戦略は、「国土とその資源を優秀・有能な軍隊で守りながら、世界経済がアジアと新しいテクノロジーへの移行を完遂するのをまつ戦略」としている。確かにロシアはエネルギーなどの資源を外交上有効活用している。

 

 DPRKは、ウクライナ東部へ労働者を派遣する模様だ(『ロシアの駐北朝鮮大使「北の労働者は質が高い」、ウクライナ東部への派遣に期待示す』 2022/7/19 読売新聞オンライン)。同国は1980年代にもウクライナ東部支援に関与していたそうだから、それが復活することになる。ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイの加盟するメルコスルはゼレンスキー大統領の演説を断った(「ウクライナ大統領、演説断られる 南米4カ国の首脳会議」 2022/7/22 日本経済新聞WEB版)。キエフの政権は世界から見放されてきている。

 

 イランといえば、2019年6月、故安倍晋三氏は首相として訪問したが、何の成果も得られなかった。ジョン・ボルトン氏には、「結果は明白、安倍のミッションは失敗だった」(「ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日」 ジョン・ボルトン著 梅原季哉監訳 関根光宏・三宅康雄他=訳 朝日新聞出版 p429)と書かれる始末。日米経済交渉もほとんど進まなかった。ワシントンDCでは評価させるクアッドも、枠組みだけで中身はスカスカ。風前の灯火となったウクライナのように、大失敗を連発する外交・安保関係のシンクタンクの安倍氏への高評価など、ただの傷の嘗め合いに過ぎない。安倍晋三氏は国葬に値するほどの成果を残したと言えるのか?

 

追記:

2022/7/28

↓アフリカ諸国で人民幣決済が始まっているようだ。

中国湖南省のアフリカ向け越境人民元決済、35カ国・地域をカバー 2022/7/27 新華社通信

2022/8/4

↓各地で広がる人民幣建て取引

モスクワ取引所、中国人民元建て債券の取引開始 2022/8/3 ロイター

ロシア銀行、中国決済網に相次ぎ接続 SWIFT排除で加速:2022/7/27 日本経済新聞

2022/8/6

↓アルジェリアはBRICS加盟に関心を示し、トルコはガス代金の一部をルーブルで支払う。

 

アルジェリア、BRICS加盟を示唆 2022/8/1 (AFP=時事)

ロシア・トルコ、ルーブルで一部ガス支払いへ 首脳会談で合意 2022/8/5 (ロイター)

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「金融」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事