三井物産と親密な塗料中堅の川上塗料に、大株主の上中商事株式会社、ホライズン株式会社、ホライズン1号投資事業有限責任組合から共同で、取締役5名の解任、取締役5名の選任、監査役3名の選任の株主提案がなされた。川上塗料の取締役会は株主提案に反対し、新株予約権の発行を含む買収防衛策を発表した。株主提案が実現すると同社の技術や生産等に通じた取締役がいなくなるというリスクがある。しかし、2021年11月期の決算短信の今後の見通しには「当期同様、将来に向けての需要の掘り起こしや市場開拓に注力し、不要な経費の削減を行い財務基盤の強化に努め、全社一丸となって対応して参ります。」と昨年と同じ文言が並び、提案株主の「当社現経営陣は、2021年8月31日時点で19億4131万7千円もの現預金を計上しているにもかかわらず(2020年11月期第3四半期)、これらを従来の事業又は新規事業に投資するなどして事業収益に繋げることをしません。そればかりか、新型コロナウイルスの感染拡大が取りざたされるようになってから、既に2年弱が経過し、これまでの状況を踏まえた具体的な経営方針の策定が可能になっていると考えられるにもかかわらず、なおも、上記のように悪化した経営成績をどのように回復させ、かつ向上させるかについて、何らの具体的な方策も示されておりません。」(「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」 2022/1/21)という主張には説得力がある。会社四季報2022年新春号でも「主要顧客の金属や機械業界向け塗料需要が復調するが、コロナ前水準には至らず。不要不急の支出抑制続け連続営業増益。」「作業効率考慮し工場内での資材配置を変更するなど生産効率化に向け小さな工夫を積み重ねる。」とされており、大きな新規投資は期待できない。
川上塗料第106期有価証券報告書によれば2020年11月30日現在の保有株数は、上中商事55千株(発行済株式の総数に対する所有株式数の割合5.56%)、ホライズン1号投資事業有限責任組合18千株(同1.90%)に対し、「当社株式の大規模買付行為等への対応策(買収防衛策)の導入について」 2022/1/21)にある上中商事の保有株数は2021年11月30日現在67千株(持株比率6.70%)となっている。
川上塗料には東京工場(東京都江戸川区松江1丁目13≠V、1949年2月操業開始)がある。首都高速7号小松川線の小松川ランプ入口近くで、2019年12月の小松川ジャンクションの供用開始により自動車の利用は便利になったと思われる。付近には、三菱UFJ銀行やみずほ銀行の小松川支店、スーパーマーケットのマルエツ松江店がある。最寄り駅は都営新宿線船堀駅(2028年度めどに江戸川区役所が近くに移転予定)とJR総武線新小岩駅で、google mapによれば、徒歩ルートで船堀駅から2.1km、新小岩駅から2.3kmの位置にあり、最低でも自転車は必要だ。最寄りのバス停留所は300mほど離れた東小松川一丁目で、ラッシュアワーではない時間帯だが、バスで船堀駅から8分、新小岩駅まで12分かかった。同工場は大きな工場ではなく、川上塗料第106期有価証券報告書によれば、建設及び構築物23,241千円、機械装置及び運搬具2,685千円(10年前の第96期は各30,809千円、5,613千円)と他の工場に比べて帳簿価額がかなり低く、設備投資があまりなされていないのではないかと思う。土地面積は2,386.74平方メートル、帳簿価格412,538千円なので、約17.3万円/平方メートル、特別なことがない限り、売却すれば解体費用を考慮しても売却益は出るだろうと思う。株主提案で取締役候補になっている上中康司氏は、日本債券信用銀行(旧日本不動産銀行)から外資系金融機関等を経て、現在は株式会社建設経済新聞社の代表取締役にもなっており(「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」 2022/1/21)、不動産には明るそうな人物だ。なお、川上塗料東京工場は従業員数16人、平均臨時雇用者数4人(同有価証券報告書)と雇用は大きいとは言えず、東日本には市原市に千葉工場がある。
昨年前半は1100円から1300円ぐらいで推移していた株価が、決算月の11月には3600円の高値を付けた。株価高騰の裏にはこのような大株主の動向もあったのではないだろうか?
↓2009年12月にはこんなことも書いていた。東京工場は休止していたこともあったのだ。
投資家の目線236(川上塗料東京工場) 投資家の願い
2022年1月27日追記:
上中康司氏が、アサヒ衛陶元社長とともに金融商品取引法違反(インサイダー取引)容疑で逮捕された。ヤマダ電機との業務提携に関する事実を知ったうえでアサヒ衛陶株式を買い付けた疑いだという(「アサヒ衛陶元社長ら逮捕 インサイダー容疑で大阪地検」 2022/1/26 日本経済新聞WEB版)。金融商品取引法166条第2項の重要事実には、適用除外になる軽微基準がある(金融庁HP 「重要事実と軽微基準等の一覧」)。業務上の提携の場合、「(提携の場合)提携日の属する事業年度開始の日から3年間の売上高の増加額が直近の売上高の10%に相当する額未満と見込まれること(49条10号イ)」とされている。
アサヒ衛陶第70期の有価証券報告書を見ると、連結売上高は、2016年11月期28.0億円、2017年11月期30.8億円、2018年11月期28.7億円、2019年11月期24.3億円、2020年11月期20.0億円と減少傾向である(第70期の従業員数46人、平均臨時雇用者数12人)。金融商品取引法違反を問うには、ヤマダ電機との業務提携で概ね3億円以上の売上高の増加(減少しているので下支えと言った方がよいだろう)が見込まれる必要があるだろう。
業務提携時のアサヒ衛陶側のプレスリリースは見つからなかったが、第67期有価証券報告書(平成30年2月28日提出)の「経営環境ならびに事業上および財務上対処すべき課題」の販売強化の欄に「業務提携先の株式会社ヤマダ電機との協力体制強化による営業強化を進めてまいります。」と書かれている。第68期有価証券報告書(平成31年2月28日提出)の「経営者による財務状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の経営成績の欄に「販売面においては、業務提携先である株式会社ヤマダ電機グループ向けの販売増加…」という記述があるものの、どの程度の増加かは不明である。第69期、第70期の有価証券報告書に関しては、ヤマダ電機との業務提携に関する記述は見つけられなかった。アサヒ衛陶は単一セグメントで、セグメント情報はない。有価証券報告書を見ても、ヤマダ電機との業務提携が、金融商品取引法違反に当たる重要事実なのかどうかの判断はできなかった。
2022/2/2追記:
2月2日、川上塗料への株主提案は取り下げられた。
2022/2/16追記:
H29/11/8付、アサヒ衛陶の「株式会社ヤマダ電機との業務提携に関するお知らせ 」を見つけた。それによると業績に関する記述は、「当社は、本業務提携が当社の企業価値及び株主価値の向上に資するものと考えておりますが、平成 29 年 11 月期の連結業績に与える影響は現時点で軽微であると判断しております。業績に重要な影響を及ぼすことが明らかになった場合には、速やかに開示いたします。」とだけしか書かれていない。11月決算企業なので、期末までひと月もないからH29年11月期への影響はほとんどないことは理解できる。アサヒ衛陶側の情報では、業務提携の次期以降の業績への影響は分からない。翌年1月19日付の決算短信ではH30年11月期の予想売上高は前年比12%増の34.5億円だが、ヤマダ電機との業務提携の効果がどれほどかは特定できない。
また、証券取引等監視委員会HPの「アサヒ衛陶株式会社株券に係る内部者取引事件の告発について」(令和4年2月14日)には、「平成29年7月下旬頃、その職務に関し、アサヒ衛陶が、株式会社ヤマダ電機(令和2年10月1日、株式会社ヤマダホールディングスに商号変更)との業務上の提携を行うことについての決定をした旨の重要事実を知ったもの」とある。金融商品取引法違反を問うのなら、両社の業務執行を決定する機関が業務提携を行うことを決定している必要があろう。業務執行を決定する機関は必ずしも取締役会等である必要はないが、業務提携の決定からその発表まで3カ月以上もかかったことになる。
2024/4/6追記
川上塗料東京工場隣接地に大和ハウス工業が3階建ての物販店舗と駐車場を建設中。スーパーマーケットの「肉のハナマサ」が閉店して以来、周辺の大手スーパーはマルエツぐらいしかなかった。新小岩駅から距離のある国道14号(京葉道路)付近にも共同住宅が建設中で、店舗建設は江戸川区松江地区の人口増加を見込んだ動きだろうか?