投資家の目線

投資家の目線922(サウジアラビア上海協力機構加盟へ)

 サウジアラビアが、上海協力機構(SCO)参加を閣議決定した。現在は対話パートナー国だが、「対話パートナー国の地位は中期的にサウジの加盟に向けた第一歩となる」(「サウジ、上海協力機構への参加を閣議了承 中国との関係強化」 2023/3/29 ロイター)。「石油統計速報 令和5年2月分」(経済産業省HP)によれば、今年2月サウジアラビアからの原油輸入量は526万klで全体の43.4%を占める最大の輸入元である。SCOはカタール(原油輸入量79万kl、6.5%)が対話パートナー国、アラブ首長国連邦(UAE 同417万kl、34.4%)、クウェート(同128万kl、10.6%)、バーレーン(同16万kl、1.3%)が対話パートナー国の資格を得る手続きが始まっており(「上海協力機構が共同宣言 イラン23年加盟、10カ国に」 2022/9/16 日本経済新聞電子版)、それらを合わせるとSCO関係国からの原油輸入量は全体の96.2%となる。それらの国は西側諸国と同盟や協力関係を築くとは考えづらく、原油取引も商売であって、友好的な特別価格での取引にはならないであろう。戦闘機も、護衛艦も、戦車も石油から作られる燃料がなければ動かない。

 

 ロシア外務省のSCO大統領特別代表のハキモフ氏はトルコがSCOに加盟するには加盟国であるロシアに敵対的なNATOを脱退すべきだと発言し(『ロシア外務省、「トルコの上海協力機構加盟にはNATO脱退が必要」』 2022/9/21  parstoday)、『トルコ中道右派政党「祖国党」のエテム・サンチャク副議長は、トルコのNATO脱退は「必要」であるとし、今後5-6ヶ月のうちにそれが実現するだろうと述べた。Aydinlik紙が伝えた』(「トルコ NATO脱退の可能性を示唆」 2023/1/25 SPUTNIK)。トルコもSCOに加わる可能性がある。

 

 3月の終わりに開催された民主主義サミットの共同宣言に署名を一部留保した国にはインド、メキシコ、ポーランド、フィリピン、イスラエル、イラクなど、署名しなかった国にはブラジル、コロンビア、インドネシア、マレーシア、南アフリカ、ナイジェリア、ケニアなどがある。グローバルサウスはNATOが支援するゼレンスキー政権のウクライナの敗北を見越しているようだ。インドはロシアと北極海航路協議し、ロシアのチェクンコフ極東・北極圏発展相は「ウラジオストクからインドへのコンテナ輸送コストは、モスクワからの場合に比べて3分の1であることが特に注目された」(「ロシア、北極海航路の利用拡大へインドと協議=インタファクス」 2023/3/29 ロイター)と述べている。コリア海峡や津軽海峡などで日韓が航行の邪魔をすれば、せっかく西側諸国が秋波を送っているインドを敵に回しかねない。フィリピンのマルコス大統領は国際刑事裁判所との関係を終了した(『フィリピン、ICCと「絶交」 前大統領の麻薬戦争の捜査再開に反発 』 2023/3/29 SPUTNIK)。ロシアのプーチン大統領がフィリピンを訪問する上での障害がなくなった。メキシコのオブラドール大統領は記者会見で、『米政府はロシアのガスパイプライン「ノルドストリーム」の破壊工作に対する非難に自ら答えなければならないと言明した』(『メキシコ大統領、米国による「ノルドストリーム」爆破疑惑をやり玉に挙げる』 2023/3/23 SPUTNIK)。ブラジルは、国連安全保障理事会において否決された「ノルドストリーム」爆破事件を調査する国際委員会の設置を求めるロシアの決議案に中国とともに賛成した(『【図説】国連安保理、「ノルドストリーム」爆破の調査求めるロシアの決議案を否決』 2023/3/29 SPUTNIK)。3カ国以外の理事国は棄権で、ノルドストリームが事故ではなく破壊されたことは西側諸国も認めているのになぜ調査を拒むのだろう?ウガンダの大統領子息のムホージ・カイネルガバ将軍は東欧問題に関してロシア側の支持を明言している(『モスクワ脅かされれば「援軍派遣」 ウガンダ大統領息子』 2023/3/31(AFP=時事))。

 

 グローバルサウスだけでなく、オーストリアではゼレンスキー宇大統領の演説中に多くの議員が退席した(『オーストリア極右議員ら、ゼレンスキー氏演説中に退席 「中立に違反」』 2023/3/31 ロイター)。NATO加盟国のハンガリーはロシアと貿易エネルギーで協力を確認している(「露副首相がハンガリー外相と会談、貿易とエネルギー供給の分野で協力を確認」 2023/3/29 SPUTNIK)。国連人権高等弁務官はウクライナ政府によるモスクワ総主教府庁系のウクライナ正教会に対する弾圧を指摘している(「国連人権高等弁務官がウクライナ政府に勧告、信仰の自由を保障せよ」 2023/3/29 SPUTNIK)。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は、ウクライナ正教会の解体を呼びかけている(『ウクライナ正教会の解体はまだ間に合う、「膿」は物理的に除去すべし=宇大統領府長官顧問』 2023/4/1 SPUTNIK)。ゼレンスキー政権は、「正教やルーシの言語は下層階級のものとみなされるようになった」(「物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国」 黒川祐次著 中公新書p74-75)という差別意識を隠しきれないようだ。ウクライナ正教会への弾圧は、キリスト教社会で批判の対象になっている。そもそも、「九七年五月、エリツィン政権はNATOが反ロシア的性格を持たないという確認のうえで、中欧三国(ポーランド、チェコ、ハンガリー)のNATO加盟を容認した」(「ロシア史 新版世界各国史22」 和田春樹編 山川出版社p429)という。反ロシア的なウクライナはこの例に当てはまらず、ロシアはNATO加盟を容認できない。

 

 NATO側敗北予想は、決済通貨のUSダラー離れに現れている。インドはルピー建ての貿易を促進する措置が含まれる新通商政策と明らかにし、「商工省高官は記者会見で、ドル不足に直面している国とルピー建てで貿易を行う用意があると述べ」(「インド新通商政策、ルピー建て貿易促進へ=高官」 2023/3/31 ロイター)ている。ASEANに関しては、『ASEAN財務副大臣会合では、ドルなどの通貨への依存度を下げるため、域内の国々が貿易や投資で自国通貨の使用を増やすという提案が出された。 ドディ氏は「(ドルやユーロなどの)ハードカレンシーにあまりさらされないことは経済の回復力にとって有益だと考えられている」と述べた』(「ASEAN金融トップ、世界的リスク抑制を協議」 2023/3/31 ロイター、ドディ・ブディ・ワルヨ氏はインドネシア中央銀行の副総裁)。中華人民共和国(中国)とブラジルは自国通貨の人民幣とレアルで貿易取引を決済することに合意し、中国はロシアやパキスタンとも自国通貨で決済する協定を結んでいる(「中国・ブラジルが自国通貨決済で合意」 2023/3/31 産経新聞)。イラクも中国との貿易で人民幣建て決済を許可している(「イラク 中国との貿易で人民元建て決済を許可」 2023/2/26 Record China)。中国はUAE産のガス取引をフランスのトタルエナジーズの間で人民幣決済した(「中国、初の人民元建て決済 仏トタルとLNG取引」 2023/3/28 ロイター)。

 

 一方、NATO側は英国、ドイツ、フランスでは生活苦から大規模なストライキが発生している。特にフランスは抗議側と警官隊が衝突して内乱状態。マクロン政権に統治能力はないのだろう。英国はTPPに加盟するというが(「英国のTPP加盟合意 初の参加国拡大、7月署名目指す」 2023/3/31 日本経済新聞電子版)、独立派政権が続くスコットランドの分は除いて考えた方がいいかもしれない。米国では銀行危機で銀行から預金が流出し、MMFへ流入している(「米国の中小銀行、預金流出一服 MMFは3週連続流入」 2023/4/1 日本経済新聞電子版)。米国の住宅価格の伸びは鈍化している(「1月の米住宅価格指数、前年比5.3%上昇 伸び鈍化続く」 2023/3/29 日本経済新聞電子版)。モーゲージ証券は大丈夫だろうか?MMFの中に不動産関係の資産担保CPは組み入れられていないのだろうか?

 

 日本政府は孤立に向かう西側諸国に追従しているが、岸田政権はまた日本を敗戦に導こうとしている。

 

追記:2023/12/23 最終更新

↓人民幣決済については、さらに次の国で実施される。

「ロシア、ブラジル、イラン、カンボジア、イラクの5カ国はすでに人民元決済が利用可能になっている、あるいは加速しています。」

ブラジルが中国との自国通貨建て決済を発表 中国外交部「両国に有益」2023/3/31 (CGTN Japanese)

 

「マレーシア中央銀行は、同国と中国がリンギと人民元を使って貿易できるようにする取り組みを進めている」(「中国、マレーシアに約390億ドル投資へ=アンワル首相」 2023/4/4 ロイター)

 

↓インド外務省がマレーシアとの貿易決済でルピー建てが可能になったと発表。

マレーシアとの貿易、ルピー建て決済可能に :2023/4/3 NNA

 

↓ミャンマーもルピー決済。

インド・ルピーとの直接決済導入へ、中銀 :2023/4/6 NNA

 

↓バングラディシュはロシアと人民幣決済

バングラデシュ、原発建設でロシアに人民元で支払いへ 2023/4/17 ロイター

 

↓ブラジルのパルプ製造企業が中国向けに人民幣建て販売を検討

中国への製品販売、人民元建てを検討-ブラジルのパルプ生産スザノ 2023/5/9 Bloomberg

 

↓2月10日、マレーシアのアンワル首相が、今後の新たな経済危機に備えるため「アジア通貨基金(AMF)」の必要性に言及

幻の「アジア通貨基金」構想、米中対立下で再燃? - 2023/4/11 日本経済新聞電子版

 

↓タイとボリビアも人民幣建て決済に前向き

タイ中銀、人民元建て貿易決済巡る規則を年内に緩和へ  2023/5/11 ロイターボリビア大統領、貿易での元使用に前向き 「中南米のトレンド」 2023/5/10  ロイター

 

↓『ロシアとイランは現在、二国間の決済の80%をリアルとルーブルで行っていると言及。「自国通貨に切り替えるために意図的に行われた作業は成果を上げている」と 評価した。 また、両国は中国人民元など他の通貨を使った取引の決済についても議論してきた。「我々の銀行はこの方向で動いている」とノヴァク副首相は付け加えた。』

ロシアとイランで進む脱ドル化、自国通貨と銀行を利用し貿易提携を拡大 2023/5/22 Forbes JAPAN ←人民幣決済も増えそう。

 

↓ロシア制裁の結果がこれ

サハリン権益、人民元で日本の商社に配当 対ロ制裁受け -2023/6/15  日本経済新聞

 

↓ベネズエラはロシアの決済システム利用へ

露決済システム「ミール」 新たなグローバル金融制度の発展に寄与=ベネズエラ大統領  2023/6/21 SPUTNIK

 

↓カンボジアもUSダラー決済主流から自国通貨建て決済を増やす方向

【カンボジア】中銀、越・ラオスと越境QR決済開始へ 2023/6/22 NNA

 

↓「ネパール中央銀のグル・プラサド・パウデル氏は双方の協力について、ネパールを訪れた中国人観光客に安全で便利な越境決済手段を提供し、両国の貿易と観光を促進すると述べた。」

ウィーチャット決済、ネパールでサービス開始 2023/6/26 新華社通信

 

↓日本ではタイバーツでのお買い物が可能に!

【タイ】アユタヤ銀、日本でQR決済の対応店が拡大 2023/6/30 NNA

 

↓アルゼンチンは、IMF融資の返済を人民幣とSDRで行う模様

アルゼンチン、IMF融資の一部を人民元で返済へ=消息筋 2023/6/29 ロイター

 

↓「4~5月の人民元建て輸入は輸入額全体の19%を占めた」

アルゼンチン中銀、国内での人民元建て口座開設を認可 2023/7/2 新華社通信

 

中国工商銀、アルゼンチンで初の人民元口座開設 2023/7/17 新華社通信

 

↓インド国営企業まで人民幣決済を利用するのか?

インドの国営石油会社、中国人民元でロシア産原油の購入検討-関係者 2023/7/4 Bloomberg

 

↓ブラジル石油公社も人民幣決済

ブラジル石油公社が、取引で人民元決済開始決定  2023/7/6 parstoday

 

↓バングラディシュの銀行はインドルピー取引を計画

Bangladeshi Banks Plan India Rupee Transactions as Reserves Fall 2023/7/7 Bloomberg

 

↓パプアニューギニアも人民幣決済?

中国、FTAでパプアに接近 人民元建て貿易取引狙いか -2023/7/11  日本経済新聞電子版

 

↓インド、UAE貿易もUSダラー決済離れ

インド・UAEが首脳会談 現地通貨建てで貿易決済合意 -2023/7/16  日本経済新聞電子版

↓インドとUAE自国通貨建て決済開始
 
インド、UAE産原油を自国通貨ルピーで決済 2023/8/14 ロイター

 

↓日経までUSダラーのピンチを報じる

新興国「ドル依存はリスク」 地域通貨や人民元シフトも -2023/7/24  日本経済新聞 電子版

 

↓ボリビアも人民幣決済の方向か?

ボリビア国営銀行、人民元取引業務を開始 2023/7/27 新華社通信

 

↓ミャンマーも脱USダラー

【ミャンマー】ロシア産石油製品、人民元で決済=投資相 2023/9/13 NNA

 

↓中国とブラジル自国通貨建決済開始

《ブラジル》中国貿易、自国通貨で初の取引完了=ドル外し、強まる人民元の存在感 2023/10/5 ブラジル日報

 

↓マレーシア自国通貨建決済拡大

マレーシア、ドル依存脱却へ 貿易決済で自国通貨使用拡大=首相 2023/10/10 ロイター

 

↓カンボジアのUSダラー決済離れ拡大

【カンボジア】越境決済実現へ、インドネシアなどと協議 2023/10/18 NNA

↓アルゼンチンは通貨スワップ拡大

アルゼンチン、中国との通貨スワップを追加利用へ-大統領選控え 2023/10/19 Bloomberg

 

↓中国の政策銀行国家開発銀行、マレーシアのメイバンク、エジプトの中央銀行、BBVAペルーと人民元建て融資契約締結。
中国輸出入銀行、サウジ・ナショナル銀行と人民元建て融資契約締結。
中国銀行はエジプトのパンダ債発行支援
 
中国、「一帯一路」で人民元国際化を強化 2023/10/19 ロイター
 
 
↓ラオスで人民元クリアリング業務開始
 
中国工商銀行、ラオスでクリアリング業務開始 2023/10/28 新華社通信
 
↓パキスタンの人民元決済進行中
 
中国、パキスタンで人民元クリアリング銀行開設 2023/10/30 新華社通信
 
↓東南アジア3カ国がQRコードを使った決済へ
 
シンガポール、インドネシア・マレーシアと越境決済を今週開始 2023/11/17 ロイター
 
↓貿易金融の分野で人民幣がユーロを抜く
 
アングル:人民元が貿易金融シェア2位に、低金利で借り入れ急増 国際化まだ途上 2023/11/17 ロイター
 
↓ペトロ元時代になっていくのか?
 
中国とサウジアラビア、1兆円規模の現地通貨スワップ協定-期間3年 2023/11/21 Bloomberg
 
↓カンボジアでの人民元による清算・決済に関する取り決め確立についての覚書もある
 
【カンボジア】越境決済など金融協力で覚書、中国人民銀と 2023/11/24 NNA
 
↓人民幣決済がカザフスタンにも拡大
 
中国工商銀、カザフに人民元クリアリング銀行を開設 2023/12/17 新華社通信
 
↓2024年1月2日から人民元/パタカ、ドル/パタカ、香港ドル/パタカの取引が行われる
 
中国、マカオの通貨パタカの銀行間取引開始へ 2023/12/20 ロイター
 
↓22年1月以来の人民元決済が第4位に
 
中国人民元の決済シェア、11月は世界4位-4.6%と円を上回る 2023/12/22 Bloomberg
 
 
↓イランとロシアもUSダラー抜き決済へ
 
イランとロシア、自国通貨での取引で最終合意=国営メディア 2023/12/28 ロイター
 
 
↓BRICSの一角を占めるブラジルがOPEC+に参加。世界に占めるOPEC+、BRICSの石油輸出割合が上昇
 
ブラジル、OPECプラスの協力憲章に参加へ-拘束力なし 2023/12/1 Bloomberg
 
 

 

サウジアラビアの閣議と同じ3月29日には、ロシアのパトルシェフ安全保障会議書記が、ニューデリーでインドのモディ首相と会談している。

プーチン氏側近がインド首相と会談、双方の「相互利益」巡り協議 2023/3/29 ロイター

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