投資家の目線

投資家の目線921(現在の金融危機)

 シリコンバレーバンク(以下SVB)が取り付け騒ぎで経営破たんして以降、金融危機が止まらない。クレディ・スイスがUBSに救済で買収されるのに続き、24日にはドイツ銀行の株価も9%下落している(『【コラム】ドイツ銀、よみがえる過去の亡霊』 2023/3/25 ダウ・ジョーンズ配信)。

 

 SVBに関して、「同社の預金は6割超がテクノロジーやヘルスケアなどの米スタートアップだ。個人と法人がほぼ半々という米銀全体に比べると、大きく法人に偏る。こうした構造が保険対象外の預金が9割を占める状態を生んだ」(「預金、1日で2割強流出 シリコンバレー銀、急転直下の破綻、格下げ回避策裏目」 2023/3/14 日本経済新聞朝刊)とされる。「ポールソン回顧録」(ヘンリー・ポールソン著 有賀裕子訳 日本経済新聞出版社)には、リーマン・ショックの時、「わたしは大手金融機関のなかで最も脆弱なのはシティだと見ていた。規模の割に小口預金残高は多いとはいえず、とりわけアメリカ国内でその傾向が強かった。このため大口取引や海外の預金への依存度が高く、パニックに弱かった」と記されている。大口預金依存の金融機関は、経営効率はいいのかもしれないが、パニックに弱いというリーマン・ショック時の教訓が生かされていなかったのではないか?

 

 「米株式市場では中堅・中小銀行を大口預金の多寡で選別する動きが出ている。保険で守られない25万ドル(約3400万円)超の預金を多く抱え、SVBと似た負債構造の銀行ほど顧客逃避の懸念で下げがきつい」(「大口預金の多さ、SVB破綻で不安視 米中堅銀行の株安」 2023/3/16 日本経済新聞電子版)という。経営が不安視されるファースト・リパブリック・バンク(以下FRC)も富裕層向けのプライベート・バンクである。3月24日の同社の終値は$12.36。SVB破たん前の3月10日の終値$81.76から85%も低下している。FRCは増資を計画していたが(「ファースト・リパブリックが増資を計画-NYT」 2023/3/18 Bloomberg)、株価低迷の中で同社は増資が可能なのだろうか?インドのアダニグループが増資を撤回したのは、「不正疑惑」で株価が低迷し、公募価格を大幅に下回ったことが原因だった(「公募増資撤回の印アダニ、トップ説明も安心材料とならず 株価下落」 2023/2/2 CNN)。

 

 クレディ・スイスの経営不安も資金の引き上げが原因のようだ。スプートニクの姉妹組織、経済専門通信「プライム」で論説委員を務めるナタリア・カルノワ氏は、『多くの顧客がスイスの銀行によるロシアの口座凍結を受けて信用をなくし、資金を引き揚げ始めたと説明する。「スイス銀行に資産を預けていた顧客は、ロシアの次は自分たちかもしれないと理解し、資金を引き揚げ始めた。真っ先に動いたのは中国だ。中国人はスイス銀行に大量に預金していたが、この資金が去り始めたことで銀行は『痩せ細り』、そのうえ債務は増える一方だった。資金調達をしようにも金利は上昇しており、流出した資金を埋め合わせる顧客も来ない。こうして損失が生まれる。クレディ・スイスもこの問題に直面し、耐えられなくなったのだ」』と、スイスが中立主義を放棄したことが原因と指摘している(「クレディ・スイスはいかにして対露制裁の犠牲となったか」 2023/3/22 sputnik)。これによれば、クレディ・スイスは対ロシア制裁の犠牲になったといえる。米司法省のクレディ・スイスとUBSへの調査は(「米司法省、クレディ・スイスとUBS調査か ロシア制裁逃れ巡り」 2023/3/24 日本経済新聞電子版)、金融不安を益々煽ることにはならないだろうか?米国の中小銀行では預金流出が進み、「米連邦準備理事会(FRB)は24日、9〜15日の流出額が過去最大の1200億ドル(約15兆7000億円)になったと発表し」(「米国の中小銀行、預金流出最大 大手行・MMFへ15兆円」 2023/3/25 日本経済新聞電子版)ている。

 

 中華人民共和国によるウクライナ事変の和平案に関連して、多くのグローバルサウスは中国の指導者をピースメーカーと見做し、西側の指導者を戦争屋と見做している(Not Everyone Is Laughing Off Xi’s Plan for Peace in Ukraine” 2023/3/24 Opinion Bobby Ghosh Bloomberg)。米国務省は、ブリンケン長官が訪問したばかりのエチオピアに対して、戦争犯罪や人道に対する罪で非難した(「米国の戦犯追及に反発 エチオピアとエリトリア 21世紀最悪・北部ティグレ州紛争」 2023/3/24 時事通信)。エチオピアのアビー首相とブリンケン長官との会談は、米国にとって芳しい成果が得られなかったのだろうか?

 

 ウクライナの橋梁などのインフラストラクチャーは50トン以下の車両等の使用にしか耐えられないため、それより重い戦車を供与するNATO側はウクライナへ架橋戦車も提供するようだ(『アメリカ「本気モード」の象徴? ウクライナ供与の「架橋戦車」は戦況を一変させるか その威力とは』 2023/3/17 乗りものニュース)。NATOの新型戦車は強力な劣化ウラン弾を使用できる強みがあるが、渡河には架橋戦車が必要でウクライナ領内での使用には制限がかかる。橋をかけている最中で移動のできない架橋戦車は、ロシア軍にとって格好の標的になるのではないか?また、ウクライナの穀倉地帯で劣化ウラン弾を使用すれば、土壌やそこで生産される農産物が汚染される懸念がある。汚染基準を緩めることで、食用として流通できるようにするのだろうか?

 

 岸田首相の訪印は、グローバルサウスをこちらの陣営に取り込む狙いがあった(「インド太平洋支援計画 岸田首相、グローバルサウス照準」 2023/3/21 日本経済新聞電子版)。しかし、中華人民共和国の「ウクライナ和平案」は多くのグローバルサウス諸国に支持されている。岸田首相の訪印は空振りに終わった。統一地方選では、少なくとも失政続きの岸田文雄を政権の座から引きずり下ろして政策をリセットしなければ、日本は生き残りすら難しい。

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