投資家の目線

投資家の目線913(ウクライナ支援で自ら武装解除する米国)

 米シンクタンクの戦略国際問題研究所が、米国がウクライナへ軍装備品を大量に供与していることによる米国の武器在庫の落ち込みと、在庫補充のための防衛関連企業の生産能力の欠如を指摘する調査報告書を提出した。『昨年8月以降にウクライナに供与した対戦車ミサイル「ジャベリン」の数は、2022年度の生産ペースに基づくと約7年分に相当するほか、地対空ミサイル「スティンガー」はここ20年間の輸出分にほぼ匹敵する。100万発以上を供与した155ミリ砲弾や、ジャベリン、りゅう弾砲、対砲兵レーダーなどの在庫はいずれも低水準にあるとみられるという。台湾の防衛戦略上重要な役割を果たすとされる対艦ミサイルシステム「ハープーン」などの在庫は中程度とみられるものの、現在の在庫は戦時には十分ではないかもしれないと報告書は指摘。「過去の産業動員から推測すると、防衛産業基盤が重要な兵器システムや武器弾薬を十分に生産・供給し、底を突いた在庫を補てんするには何年もかかる」としている。』(「米軍需産業、中国との衝突に備え不十分=報告書」 2023/1/24 ダウ・ジョーンズ配信)。例えば、携行ミサイルの弾頭は米国の片田舎の工場で、手作業で作られている。オートメーション化もなされていないため、緊急時になっても量産化することは難しい。

 

 今や、大韓民国や(”Moving US military stocks from South Korea for Ukraine leaves no readiness impact, Pentagon says” By DAVID CHOI STARS AND STRIPES  January 20, 2023)イスラエルの米軍基地からも備蓄弾薬がウクライナへ供与されている(「米、イスラエルで備蓄の武器弾薬をウクライナへ転用」 2023/1/21 CNN)。弾薬がなければ現代の戦争はできない。まさか剣や槍、弓矢で現代戦はしないだろう。いくら日本が米国に協力しても、ウクライナで費消され弾薬のない今の米軍が他国の軍事衝突に介入できるわけなどない。

 

 エネルギー不足で生産設備を稼働できなくなる欧州は、工業力を失いユーラシア大陸の西の端に位置する貧しい国家群に転落する可能性がある。『「戦争は兵器の問題というよりは支出の問題なのであり、その支出を通じてこそ兵器は使い物になるのだ」と古代ギリシャの戦史家ツキジデスは述べている。一世紀のローマの歴史家タキトゥスによれば「お金こそが戦争の筋肉である」とのこと。もっと直接的には、フランスのルイ十四世は「最後の1ギニーが常に勝利を収める」』(「戦争の経済学」 ポール・ポースト著 山形浩生訳 バジリコ㈱ p13)。貧しい国家は大きな軍事力も持てない。森元総理は先日、「ロシアが負けることは、まず考えられない」と述べられた(『森元首相、ウクライナ支援を疑問視 「ロシア負けず」』 2023/1/25 日本経済新聞電子版)。BRICS加盟国の南アフリカは同じBRICS加盟国の中ロと合同軍事演習を予定し(「ロシア、アフリカ諸国歴訪で影響力拡大 南アフリカと軍事演習」 2023/1/24 日本経済新聞電子版)、BRICS加盟が予想されるエジプトのシシ大統領はBRICS加盟国のインドを訪問し(『インドとエジプトが接近、「非同盟」結束に脚光再び』 2023/1/26 日本経済新聞電子版)、ブルキナファソはフランス軍に撤退を求めている(「ブルキナファソ軍事政権、フランス軍に1カ月以内の撤退を要求」 2023/1/23 CNN)(追記:先日ブラジルとアルゼンチンの共通通貨構想が公表されたが、24日にはロシアのラブロフ外相がこの時期にBRICS共通通貨構想に言及(「西側のメカニズムは頼りにできず」=ラブロフ露外相、BRICS共通通貨について 2023/1/25 sputnik)、フィリピンのマルコス大統領は米国の影響圏か旧ソ連の影響圏かを選択することを拒否し(「フィリピン大統領、冷戦精神を捨てるよう呼びかける 」 2023/1/19 sputnik)、インドネシアは米国に経済成長の邪魔をするなと告げた(「インドネシア、米国に経済成長を妨げるのをやめるよう要求」 2023/1/24  sputnik)。アフリカ、南米、日本など一部を除くアジアのほとんどの国に離反された欧米側が、ロシアに勝てる理由を探すこと自体が難しい。森氏の発言を受け入れられない者は、自身が判断ミスをしたという汚点を受け入れられないだけだろう。

 

 そもそもキエフ大公国はモンゴル帝国に滅ぼされ、一方、後のロシア帝国につながるモスクワ大公国はモンゴルの徴税代行で潤うモンゴルの先兵だった。「ロシア人は、一枚皮をむけばタタール人」と言われるぐらいで、西欧でロシア人はアジア系として見られる。ロシアと戦うウクライナ人にはアジア系と戦うヨーロッパ人の先兵という意識のある者もいるだろう。『おそらく「文化支持的」と呼ばれうるが、けっして「文化創造的」と呼ばれることはできない。』(「わが闘争 上」 アドルフ・ヒトラー著 平野一郎・将積茂訳 角川文庫 p415)とアジア人種を蔑視するナチの思想が受け入れられやすい土壌が、ウクライナにはあると言える。

 

 第一次世界大戦勃発当初、戦況を見極めるためにタイは中立を宣言した。1917年7月になって、タイはドイツとオーストリア=ハンガリーに宣戦布告し、戦勝国の地位を手に入れた。第一次世界大戦時のタイの参戦は、『「危ない橋は渡らない」「最小の負担で最大の利益を得る」という発想が存在した。第一次世界大戦への参戦は、無事に「戦勝国」となれば他の列強の戦勝国と肩を並べ、タイの国際的な地位の好転に貢献するが、もし「敗戦国」となってしまうと逆効果しか得られない。このため、どちらが優勢かを最終的に見極めてから決断する必要があった』(「物語 タイの歴史 微笑みの国の真実」 柿崎一郎著 中公新書 p140)。「戦勝国」になりたいのなら日本もタイのように戦況を見極めてから態度を決める方が賢明だ。にもかかわらず、地雷除去協力など(「ウクライナ地雷除去へ連携一致 日カンボジア外相が会談」 2023/1/24 日本経済新聞電子版)、岸田政権はウクライナ支援につんのめっている。岸田政権にはタイ人ほどの高度な知性を持った人物は存在しないようだ。

 

 第二次世界大戦敗戦時にビルマ大使を務めていた石射猪太郎は著書「外交官の一生」(中公文庫)で、日本と同盟しながら「自由タイ」を結成して英米ともつながるタイの二重外交を、『すべてが「タイの自由と独立を維持するため」の一念から出発した、明知な働きなのである。私は神憑りの空疎なスローガンや、威信とか面子とかにとらわれて、国を亡ぼした日本の愚昧さに思い較べて、タイに対して慚愧を感じたのであった』(p434)と述べている。日本政府には、反省とか歴史に学ぶとかという姿勢はないようだ。

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