投資家の目線

投資家の目線821(福島原発事故の汚染処理水海洋放出)

 4月13日、日本政府が東京電力福島第一原発事故で発生した汚染処理水の海洋放出を正式に決定した。中華人民共和国、ロシア連邦、大韓民国が圧力を強めているほか(「Japan's plan to release radioactive water from Fukushima nuclear plant sparks outrage」 2021/4/22 CNBC)、朝鮮民主主義人民共和国、台湾も批判している(「中国、原発処理水巡り日本に圧力-台湾と韓国、北朝鮮も放出計画批判」 2021/4/16 Bloomberg)。

 1980年、日本政府の、マリアナ海溝に原子力発電所で発生した低レベル放射性廃棄物の試験投棄計画が発覚した。その時の顛末が一般社団法人太平洋協会のHP「太平洋・島サミットとはなにか 日本の対島嶼諸国外交が目指すもの」(小林泉 大阪学院大学教授)に書かれている。
『その一が、太平洋の真ん中から突如沸き起こった猛烈な日本非難だ。それはロンドン条約に基づいて、マリアナ海溝に原子力発電所から出た低レベル放射性廃棄物を試験投棄する日本政府の計画が発覚したからだった。海洋の何処にも配慮すべき政治アクターなどなかったはずなのに、一斉に上がった予期せぬ抗議の合唱に政府はビックリ仰天、1980年のことである。
 大平首相を引き継いだ鈴木善幸内閣の中川一郎科学技術庁長官は、「ロンドン条約に基づいている」とか「あくまで試験投棄ですから」と言い訳したが、抗議の声は一向に収らず、翌年のフォーラム年次総会では、日本を非難する共同コミュニケが採択された。
(中略)
 島々から寄せられる抗議や非難は、その後も続いた。だから後継の中曽根首相は、就任時から太平洋中心部にある政治アクターの存在を意識せざるを得なかったのである。1984年9月、元日本領だった独立前のミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国、パラオ共和国の三つの自治政府から、3人の大統領がそろって総理官邸を訪ねた。このとき中曽根首相は、これから誕生しようとする新しい国々のリーダーたちに向かって「太平洋諸国の皆が反対するのであれば、核廃棄物投棄の強行はいたしません」と発言するとともに、新国家の建国へ向けて惜しみない協力を約束したのである。』

 当時の反応から見ると、条約等に基づいているからといって、汚染処理水放出が周辺諸国に受け入れるわけではないことがわかる。そして、中曽根総理(当時)の約束を守るためには、日本政府は太平洋周辺諸国が納得するような計画を提出しなければならない。汚染処理水にはトリチウム以外の規制基準以上の放射性物質が含まれている。2020年3月時点で、汚染処理水の約71%が規制基準を超え、二次処理が必要なものだ(「ALPS処理水について (福島第一原子力発電所の廃炉対策) 令和2年7月 経済産業省」p19)。ちなみに、1993年にロシアが日本海に低レベル液体放射性廃棄物を投棄した時、日本は抗議を行った(「ロシア極東における液体放射性廃棄物処理施設(スズラン)の建設 (16-03-02-08) - ATOMICA - (jaea.go.jp)」)。

 『日本の処理水海洋放出、どんな「悪い結果」がもたらされるのか―仏メディア』(2021/4/16 Record China)という記事は、仏国際放送局RFI中国語版サイトが、今回の海洋放出が貿易面に与える影響を伝えたことを報じている。記事によれば、『「農林水産省によると、原発事故後、54の国と地域で輸入禁止や放射性物質の検査証明書の提出を求めるなどの規制措置がとられた。日本の要請に応じて、39の国と地域が規制を撤廃したが、米国、中国本土、韓国、台湾、香港、マカオは輸入禁止を維持している。日本の関連製品の輸入禁止を発動したのは6カ国・地域で、EUやロシアなど9カ国・地域は検査証明書の提出などを求めている」(中略)、「日本が処理水を再び放出すれば、日本の水産物に対する禁輸措置はさらに拡大し、日本の漁業に壊滅的な打撃を与えると言っても過言ではない」と論じた。』という。東日本大震災後、大韓民国が輸入を禁止したホヤを韓国系米国人向け販売する計画(「三陸のホヤ、米国に 韓国系移民照準に販路開拓」 2018/5/19 日本経済新聞WEB版)も、日韓関係の悪化の上に、さらに汚染処理水放出で、永久に不可能になったのではないだろうか。

 福島原発の汚染処理水について、米国国務省は「国際的に認められた核の安全基準に合致する手段を採用したようだ」(『原発処理水の海洋放出「国際基準に合致」 米国務省』 2021/4/13 日本経済新聞WEB版)と、放出を許容しているように見える。上記のように、そもそも米国は日本での出荷制限品目を県単位で輸入停止している(「原発事故に伴い輸入停止措置を講じている国・地域」、「諸外国・地域の規制措置(2021年3月17日現在)」 農林水産省HP)。米国は畜産が盛んなので、彼らは海産物がダメなら肉を食べればいいわという考え方のかもしれない。しかし、米国にも漁業関係者はいる。彼らを敵に回して、民主党は中間選挙を戦えるのだろうか?

追記:中米統合機構加盟8カ国との外交次官会議でも、汚染処理水海洋放出に対するリスクを再確認する共同声明が採択されている。(『「地球で最も大きな井戸を汚染させる」 日本の海洋放出に対抗して韓-中南米が世論戦』 2021/4/26 中央日報)

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