投資家の目線

投資家の目線820(東芝に対するTOB)

 東芝の経営が揺れている。4月7日に、英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズ(CVC)による株式非公開化を目指すTOBが報じられた。その後、前CVC日本法人会長だった車谷社長が辞任し、CVCは買収提案を留保することとなった(「英CVC、東芝への買収提案を当面保留 社長交代受け」 2021/4/17 日本経済新聞WEB版)。車谷氏に関しては、「経済産業省は、車谷氏を留任させてCVCの提案を受け入れれば、障害になりかねないと懸念される外為法の事前審査にゴーサインを出すとの意向を東芝側に伝えたという。(中略)東芝入りの決め手は、福島第一原発事故後の東電国有化のスキーム作りで協力した経済産業省の官僚たちの強い推しだったとされている。」(『東芝「車谷社長解任」は幻に終わった…!?買収騒動で提出されなかった「取締役会の議案」』 2021/4/13 現代ビジネス)と、CVCの買収提案には経済産業省の関与も報じられていた。しかし、『東芝が幹部社員を対象に実施した社内調査で、車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)に対する「不信任」が過半数に上ったことが13日、明らかになった。』(『東芝社長、幹部社員の過半から「不信任」 社内調査、揺らぐ再任』 2021/4/13 毎日新聞)と、東芝社内は経済産業省の思惑通りにはいかなかったようだ。

 一方、米ハーバード大学の基金運用ファンドはシンガポールの資産運用会社、3Dインベストメント・パートナーズに売却した(『東芝、「物言う株主」3割に』 2021/4/13 日本経済新聞朝刊)。上場を維持すれば、経営陣はアクティビストファンドの圧力を受け続けることになるだろう。ハーバード大学といえば、「複数の外電が、東芝の議決権の4%を持つアメリカのハーバード大学の基金運用ファンドに対し、経済産業省の関係者が圧力をかけたと報じる問題も起きた。 東芝経営陣の意に沿わない形でエフィッシモなどと連携して議決権を行使しようとすれば、改正外為法の調査対象になる恐れがあるなどと指摘、思いとどまるように迫ったというのである。」(『東芝「車谷社長解任」は幻に終わった…!?買収騒動で提出されなかった「取締役会の議案」』)と報じられており、基金の運用を妨害されるような企業の株式は保有し続ける価値はないと判断されたのかもしれない。

 東芝の買収に関しては、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)も買収案を計画中でCVCの提案を金額面で上回る可能性が高い、カナダの投資会社ブルックフィールド・アセット・マネジメントも東芝への買収案提示を検討と報じられていた(「KKR、ブルックフィールドが東芝への買収提案を計画-関係者」 2021/4/14 Bloomberg)。買収対象となった企業の経営陣は、株主利益最大化のため、できるだけ高値で売却すべきであるというものをレブロン基準という。一旦買収提案を受けてしまったら、それを上回る金額を提示する買収案が提示されたらそこに売却しなければならなくなるところだった。

 東芝のTOBに関し、甘利明自民党新国際秩序創造戦略本部座長は『英投資ファンドなどによる買収提案に関し「企業価値の向上への意味が不明だ」と指摘した。』(『自民・甘利氏「外資に翻弄、疑問だ」』 2021/4/15 日本経済新聞朝刊)が、これはユノカル基準を念頭に置いているのだろうか?敵対的買収が企業経営や効率性に脅威となるとき、買収防衛策が認められるという判断基準をユノカル基準という。

 甘利氏は『「重要な国防や原子力、量子分野を担っており、外資に迄Mされていいのか疑問だ」とも強調した。』(『自民・甘利氏「外資に翻弄、疑問だ」』 2021/4/15 日本経済新聞朝刊)という。今年の1月1日に日英EPAが発効した。「日英包括的経済連携協定(EPA)に関するファクトシート 外務省経済局 令和2年10月23日」(p9)によれば、

『【投資】 (市場アクセス総論)
i. 原則全ての分野を自由化の対象とし、自由化を留保する措置や分野を列挙する「ネガティブ・リスト」方式を採用し、透明性の高い自由化約束を確保した。日 EU・EPAと同様、投資保護規律及び投資家と国家の紛争解決(ISDS)手続は含まない。
ii. 日本は、既存の国内法令に加え、宇宙開発産業、放送業、社会事業サービス(保健、社会保障及び社会保険等)、初等及び中等教育サービス並びにエネルギー産業等について包括的な留保を行っており、必要な政策について裁量の余地を確保した。』

とされており、原則として英投資ファンドが日系企業を買収することは問題ない。しかし、東芝に関しては原子力発電というエネルギー関連の事業を保有しているため、留保できると解釈できる。かつて、東芝は原子力大手のウエスチングハウス社(WH)を英国核燃料会社から相場の2倍超といわれる54億ドル(当時の為替レートで約6600億円、株式の77%)で買収(『ウエスチングハウスへ追加出資、東芝が悩む「次の一手」』 2011/9/13 日本経済新聞WEB版)、その後WHは経営破たん、その株式は投資ファンドのブルックフィールド・ビジネス・パートナーズに1ドルで売却され、約6400億円の損失が確定した(「米WHの再生計画が承認、東芝の損失確定」 2018/3/30 日本経済新聞WEB版)。世界的には原子力発電技術は国家にとってさほど重要なものでなく、WH売却の前例から、日系企業が原子力発電事業を外資に売り渡しても何の問題もないことがわかる。以前、河野太郎防衛大臣(当時)が米、英、加、豪、ニュージーランドとの軍事協力であるシックス・アイズを唱えていたが、それであれば、米、英、加の投資ファンドが東芝を買収しても国防面では問題ないはずだ。

 甘利氏は、『海外からの投資を規制する改正外為法について、諸外国の対応と比較して「足らざる点があれば対応しなければならない」とさらなる改正の必要性に言及した。』(『自民・甘利氏「外資に翻弄、疑問だ」』 2021/4/15 日本経済新聞朝刊)が、かつて担当大臣を務めたTPPにも投資の自由化がうたわれていた(「早わかりTPP(一問一答集) 2017年6月 内閣官房 TPP政府対策本部」 p1)。なぜ、TPP担当大臣の時に外為法を改正しておかなかったのだろう?TPPには贈収賄を禁ずる腐敗防止条項があるが、その担当大臣の時に自身の事務所であっせん利得疑惑(この疑惑については、大臣辞任会見の時、しかるべきタイミングで公表すると述べたがその後公表などあったのか?)。TPPやEPAのような経済連携協定が何たるものか理解していない人物が担当大臣だったということだけは分かった。

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