投資家の目線

投資家の目線750(デモと物価高)

 ハーバード大学のエズラ・ボーゲル名誉教授は、「香港問題について、大陸から移住した富裕層と一般住民の経済格差が底流にあると説明した」(「エズラ・ボーゲル氏、香港デモ背景に格差、米中関係巡り国際シンポ」 2019/11/19 日本経済新聞 朝刊)。香港の住宅の「価格の伸び率は前年比で5.5%増だった。1997年と比べると価格は2倍になったとしている」(「香港の平均住宅価格、世界一 平均1.4億円、賃貸の平均も30万円超に」 2019/4/15 香港経済新聞)。

 デモが続くバルセロナでも住宅価格が上昇している。「住宅価格の伸び率で見るとバルセロナが前年比16.9%増でトップ」(同前)という。『「外国人投資家が不動産を買いあさり、人に貸す。私のマンションも民泊ができて家賃が上がった」。市中心部に住むアンパロ・ロペスさん(45)はこぼす。』(『「観光公害」で政治対立 バルセロナで見えた「観光の怖さ」』 2019/6/19 11:22 京都新聞)と、住宅価格の上昇の原因として民泊の増加があるようだ。

 また、地下鉄運賃値上げから反政府デモに発展したチリも(「チリ暴動が照らし出す、反緊縮デモが世界各地に広がる理由」2019年10月28日(月)19時20分 ジョシュア・キーティング ニューズウィーク日本版)、中南米の中では物価が高い国だという(「来てみてびっくり!?以外と物価の高いチリ」 2016/3/3 エイビーロード)。

 ニューヨーク市に近い米ニュージャージー州のジャージーシティーでも、来年1月から民泊が規制される。「15年に民泊を認める条例を制定しているが、住宅街での観光客の増加や家賃の上昇などに不満の声もあがっていた。」(「民泊規制の強化、エアビーに痛手、NY隣接市で条例承認。」 2019/11/7日本経済新聞 夕刊)。米国サンフランシスコ市でも家賃高騰から民泊規制が始まった(週刊エコノミスト2018/11/27号「サンフランシスコ 強まる民泊への規制 背景に家賃高騰」 ジャーナリスト瀧口範子)。

 シリコンバレーでは老舗店舗が閉店し、その原因として、『シリコンバレーならではの事情もある。新たにできた高層アパートは家賃も高く、高給取りのIT(情報技術)企業の社員がターゲットになる。若い「新住民」を狙ったが、「ミレニアル世代はあまり料理をしない。アパートでは『ウーバーイーツ』など出前のパッケージが目立つ」(ラスムセン氏)という。人件費の高騰も追い打ちをかけた。』(「ザックも通った老舗店閉店―シリコンバレーの変容象徴(グローバルViews)」 2019/12/3 日経産業新聞)ことが挙げられている。住宅価格の高騰は地域コミュニティーを破壊する。グローバリズムに対する反乱の原因には、生活費高騰による居住地域の生活環境の悪化があるように思える。大正期の日本の米騒動も米価高騰が原因だった。

 『年収1千万円は低所得層――。米住宅都市開発省の調査では、サンフランシスコで年収1400万円の4人家族を「低所得者」に分類した』(『安いニッポン)「香港なら2倍稼げる」―人材流出、高まるリスク。』 2019/12/12 日本経済新聞 朝刊)と、日本経済新聞社は海外の高所得ぶりをもてはやすが、サンフランシスコ市で4人家族が生活するのに必要なコストは年$148,439(「Here's how much it costs a 4-person family to live in the 15 largest US cities」 2018/3/15 CNBC)。1$=¥108で計算すると約1,600万円。生活費が年収を上回るから年収1,400万円でも低所得者層と言えるだろう。稼ぎが増えても、必要な生活費がそれ以上に増えたら海外に出る意味は乏しい。

 最近ではグローバル企業等も、『自治体やIT企業もこうした事情を理解し、問題解決に努めた形跡はある。マウンテンビュー市はオフィスビルの新設に際してグーグルなどの売り物である「無料の社員食堂」を禁じるルールを制定。地域とのつながりや地元レストランへの送客に配慮した。だが、一連の努力にもかかわらず急成長は地元との間で摩擦を生み、対策は追いつかない。』(「ザックも通った老舗店閉店―シリコンバレーの変容象徴(グローバルViews)」 2019/12/3 日経産業新聞)、「事態を受けて、今年に入りグーグル、フェイスブックは中低所得者向け住宅建設などにそれぞれ10億ドルを投じると発表。11月にはアップルも25億ドルの出資を表明した。」(「カリフォルニア 住宅高騰でホームレス増加=土方細秩子」 2019/11/25 週刊エコノミストonline)と、地域社会の配慮する姿勢がみられるようになった。グローバル企業がもっと早くから地元の貧困層対策を行っていれば、民主党の大統領予備選でサンダース候補が健闘し、トランプ大統領が当選するような現象も起こらなかったかもしれない。トランプ大統領のように、アメリカ人が作ったものをアメリカ人が適正価格で買う「バイ・アメリカン」政策をとれば、極度の所得のアンバランスが抑制され、「定職持ちのホームレス」もいなくなって、社会は安定するだろうとは思う。英国で保守党が勝利し、決定的になったブレグジットといい、グローバリズムが市民生活に合わなくなっている表れだろう。

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