投資家の目線

投資家の目線869(ウクライナ問題と食料、肥料)

 ウクライナ問題が、各国で食糧問題に発展している。「ウクライナ侵攻が招く食料危機(The Economist)」(2022/3/22 日本経済新聞WEB版)には、「現在ロシアとウクライナはそれぞれ世界1位と5位の小麦輸出国で、合計で世界の年間販売量の29%を占める。一部の不作や新型コロナウイルス下の買い占め、その後のサプライチェーン(供給網)の混乱を経て、世界の在庫は5年平均を31%下回っている。(中略)ロシアとウクライナを合計すると、世界で取引されるカロリーの12%を輸出している計算になる。両国は、大麦やトウモロコシからヒマワリまで、人間や動物が消費する多くの油糧種子や穀物の輸出国トップ5に入る。ロシアは肥料の主原料の最大供給国だ。肥料がなければ作物は弱り、栄養価が低くなる。」と書かれている。小麦不足による価格高騰を受け、エジプトではパンの価格を抑制するのに腐心している(「エジプト、パン高値抑制に躍起 ウクライナ危機で小麦高」 2022/3/22 日本経済新聞WEB版)。そんな中、ロシアの同盟相手、サウジアラビアの国営機関がシンガポールの農産物商社に出資した(「サウジ・アグリカルチュラル、オラム・アグリの株式35.4%取得へ」 2022/3/25 ダウ・ジョーンズ配信)。

 肥料価格も高騰している(「肥料価格、過去最高値に 主産地ロシアの供給停止で」 2022/3/22 日本経済新聞WEB版)。小麦不足だけなら、「パンがなければ、お米を食べればいいじゃない?」と言えるが、肥料の不足は植物由来の食物全体に及ぶため、そういうわけにもいかない。「One of Canada’s largest railways is winding down operations after failing to reach a labor deal with unionized workers」 2022/3/20 Bloomberg)には、カナダがロシアやベラルーシとともに、肥料に使用されるカリウムの主要供給国であることが書かれており、ロシアとベラルーシが制裁を受ける中、カナディアン・パシフィック鉄道の労働者のストライキが長引けば、肥料の供給不足が加速するところであった。(その後、労働協約を巡り労働組合と合意に達し、通常の列車運行を再開すると発表した 2022/3/23 ダウ・ジョーンズ配信)。

 このウクライナの一件で、BRICS諸国の存在感が強まっていると感じる。エジプト等の小麦不足の国に向けて、小麦生産第2位のインドが輸出を検討している(「インド、エジプト向けに小麦輸出を検討」  2022/3/22 日本経済新聞WEB版)。インドは国連での一連のロシア非難の決議を棄権し、ロシア産原油を輸入しようとしたり(「インド、ロシア産原油の輸入検討 割引価格で」 2022/3/14 日本経済新聞WEB版)、制裁を回避する貿易決済の仕組みを検討したり(「[FT]ロシア、インドと通貨交換を検討 決済制裁を回避」 2022/3/18 日本経済新聞WEB版)している。

 パキスタンに対しては、ロシアはガスのパイプラインを建設し(「[FT]パキスタン、ロシア産ガス管の建設推進 米欧と緊張」 2022/3/17 日本経済新聞 WEB版)、インドのミサイルが落下するなどキナ臭い中で、中国は軍事連携強化で力の均衡を図ろうとする(「中国、パキスタンと軍事連携強化」 2022/3/23 日本経済新聞WEB版)。

 民間人攻撃停止の国連決議では、「南アフリカはロシアによる侵攻に言及しない独自の決議案を提案した。南アフリカのラマポーザ大統領はロシアのウクライナ侵攻は北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大が原因であり、ロシア非難は非効率的との立場を明確にしている。」(「国連総会が緊急特別会合 民間人への攻撃に非難相次ぐ」 2022/3/24 日本経済新聞WEB版)の南アフリカもBRICSの一角だ。ブラジルのボルソナーロ大統領はロシア制裁をしないと明言し(『ブラジル大統領、ロシア制裁を拒否 ウクライナ人は「コメディアンに命運託した」』 2022/2/28 CNN)、外相はG20からのロシア排除に反対している(『ブラジル外相、G20のロシア排除に「反対」』 2022/3/26 日本経済新聞WEB版)。そもそも、BRICSはワクチン研究開発では協力している(「BRICSワクチン研究開発センターが始動」 2022/3/23 新華社通信)。

 なお、民間人攻撃停止の国連決議では、OPECプラスのうち南スーダンが棄権から賛成に回り、ブルネイが賛成から棄権に回った(『「民間人攻撃停止を」 国連総会決議採択 賛成140カ国』2022/3/25 日本経済新聞WEB版)。日本は、ブルネイから石油を輸入している。ブルネイがロシア非難に賛成しなかったことは、日本にとって脅威ではないだろうか?

 また、民族主義者がユダヤ人を虐殺したウクライナのゼレンスキー大統領がイスラエル国会の演説で、『「80年前、ウクライナはユダヤ人を救うための選択をした。これからはイスラエルが決断を下して支援するときだ」と強調した』(ゼレンスキー「これからはイスラエルがウクライナを支援するとき」 2022/3/21 中央日報日本語版)。この歴史修正発言がイスラエルだけでなく米国でも問題視され、ウクライナに対する風向きが変わりつつある。日本もウクライナ問題からの撤退時期を考え始めないと、令和版シベリア出兵になる可能性がある。

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