ニューヨーク市のAmazonの物流施設で、初の労働組合が結成された。『アマゾンは経営主導の賃上げで先手を打ったが、インフレやガソリン価格高騰に対応したさらなる給与の引き上げなどを求めた組合側が支持を集め、経営側が徹底してきた「組織化封じ」の戦術に風穴が開いた』(「米Amazonに初の労組誕生 インフレ下で賃上げ圧力」 2022/4/2 日本経済新聞WEB版)とされる。「グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界」(クラウス・シュワブ、ティエリ・マルレ著 藤田正美、チャールズ清水、安納令奈訳 日経ナショナル ジオグラフィック社 p39)には、「パンデミックが終息すると、労働者側は有利になる。資本家側がコストをかけてでも再建を急ぐため、実質賃金が上がる傾向が強まるのだ。」、1347年から1351年にかけて黒死病が流行した時は、「この疾病が終息してから一年後には早くも、サントメール(北フランスの小都市)の織物工は、何度か賃上げを要求し、勝ち取ったのである。2年後には、多くの労働組合が労働時間の短縮と賃上げの交渉をするようになり、疫病発生前に比べて約3割賃金が増えた組合もあった。他のパンデミックでも、これほどではないが同じような状況が生まれた。労働者側の力が強まり、資本家側の力が弱まったのである。」と書かれている。新型コロナウイルスの流行で労働市場への参加者が減少したまま戻らず、労働者の力が強まっているようだ。
「グレート・リセット」(p197)には、グローバルなサプライチェーンの見直しについての記述もある。レジリエンス(回復力)の高いサプライチェーンを構築するために、「コストをかけて在庫を抱え、予備の設備を作ることを迫られる。(中略)必然的に生産コストは上昇するが、それはレジリエンスを構築するために必要なコストだ。」とされている。以前に書いた(投資家の目線849(見直される国際分業体制) 投資家の願い)にある、グローバル企業が工場と供給元との距離を短縮したり、第二の生産拠点を作ったりすることがそれに当たる。
「グレート・リセット」(p122)にある「グローバルガバナンス」のリセットはどうだろう?米国の外交問題評議会(CFR)は次の特別レポートで、高貴な世界秩序(the noble world order(バイデン大統領が渡欧前に発言した米国主導の「new world order」とはこのことか?「Biden jets to Europe as 'new world order' comments reverberate 2022/3/23 by Brooke Singman Fox News」))を構築するために、中東への関与を減らし(REDUCE ENGAGEMENT IN THE MIDDLE EAST)、インドとの関係を強化する(STRENGTHEN RELATIONS WITH INDIA)ことを薦めていた。
“The End of World Order and American Foreign Policy”
著者=Robert Blackwill CFRシニアフェロー、Thomas Wright ブルッキングス研究所シニアフェロー
出典=米国外交問題評議会HP(2020年5月)。
バイデン政権は発足時にサウジアラビアやUAEを攻撃するフーシ派のテロ組織認定を解除した。3月末のOPECプラス会合の際には、先進諸国の石油増産要請に際し、「決定に先立ちOPEC加盟国のサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)は、エネルギー市場におけるロシアとの協力関係を維持し、増産して西側諸国を支援することはしない意向を表明していた」(「OPECプラス、追加増産見送り 原油価格急騰でも」 2022/3/31 ダウ・ジョーンズ配信)と、中東諸国と旧西側諸国との関係はリセットされたようだ。
しかし、インドとロシアの関係はリセットされなかったようだ。米国やオーストラリアが批判をする中で(米国と豪州、インドを批判-対ロ制裁を骨抜きにする提案検討で(Bloomberg) 2022/3/31)、インド・ロシア両国の経済関係は石油取引などでむしろ前進している(『ロシア「原油購入望めば協議進める」 インドと外相会談』 2022/4/1 日本経済新聞WEB版)。「東アジア戦略概観 2013」(防衛省防衛研究所p27~29)では「非同盟2.0」という政策提言報告書に注目していた。そこには「特に米国から見てインドは理想的なパートナーであり、またインドにとっても直接競争関係にある中国への対抗として米国との同盟を想定しがちであると前置きしつつ、報告書は明確に米国との同盟を否定する。その理由としてはまず、米中関係の改善に伴って米印関係が軽視されるリスク、あるいは中国の脅威に対して米国が実際に行動を起こしてくれるのかが不明なことが挙げられている。加えて、米国が同盟国に対して過剰な要求を突きつける傾向があることから、同盟国より友好国にとどまる方が望ましいと述べている。」と書かれていた。事態は報告書の提言どおりで、クアッドによる強固な米印関係など安保・外交関係者の妄想の産物に過ぎなかったのだ。
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