投資家の目線

投資家の目線958(貞観政要)

 貞観政要は、唐の太宗の言行録である。「貞観政要 全訳注」(呉兢 石見清裕訳注 講談社学術文庫)には、恩賞よりも税を軽くする方が大事だと書かれている(同書p81)。褒美をもらっても国が治まっていなければそれを持ち続けることができないため、労役や租税を軽くする方が自身を含めたみなが恩恵を受ける方が望ましいためだ。防衛増税を言っている日本政府は逆のことをやろうとしている。

 

 水源が濁れば川も濁るというのもある。「君主自身が嘘をついて、臣下に正直であってほしいと願うのは、まるで水源が濁っているのに、水の流れが清らかであってほしいと望むようなもので、道理に合わないであろう」(同書p447)というのだ。東京五輪をめぐる汚職事件や、自民党議員がパーティー券販売のキックバックを政治資金収支報告書に記載しなかった疑惑など日本の上層部が腐敗しているのに、人民に清廉さを求めるのは道理に合わないことだ。

 

 賢者を推挙したり、善行を推奨したりせず、ただ銀鉱脈を掘らせてその税収を利益にしようと進言した権万紀は官位を剝奪された。後漢の桓帝と霊帝の二人は利益を好んで義理を蔑み、暗愚な君主と伝えられているという(同書p542)。カジノ誘致で観光客から収入をあげる構想などは、道徳観なき利益至上主義といえるのではないか?

 

 軍隊はやむを得ない時だけに用いるものとされる。630年に、林邑国から甚だ無礼な外交文書が来たので討伐すべしと願い出た官僚に、太宗は昔から大きな戦争を起せばその国は必ず滅んだため、外交文書の言葉遣いの問題など意に介する必要はないと答えている。また、毎年のように行われる高句麗征服戦争のための負担に人民が堪えられず、隋の煬帝はつまらぬ男に殺されてしまったという(同書p664~665)。同書p85の、「自制こそが天下泰平の道」にも通ずる話だ。ウクライナでの戦争にのめり込んで米国人民に多大の負担をかけるワシントン政治は、国内反乱のもとになるのではないだろうか?さらに、自分の身に利益があっても人民が損をするのであればやりたくないと、他国から攻められた場合の援軍派遣が負担になる康国の属国申請を却下している(同書p666)。軍事同盟から手を引いたがっているドナルド・トランプ氏も同様の考え方ではないのだろうか?

 

 630年、李靖が突厥を破ってその部族民が唐に降伏してきたとき、突厥の部衆を中国内地に居住させることに反対の声が多かった。秘書監の魏徴は、「北方民族は、顔は人間でも心は野獣と同じであり、我々とは違う人種です」と、北方民族は恩義を顧みない人間だと言っている。給事中の杜楚客は、「北方の遊牧民は、人の顔をしながら獣の心を持つもので、恩徳で懐かせるのは難しく、威力で服属させやすいものです」と言い、涼州都督の李大亮も、「『春秋』は、『異民族は野獣の輩、欲望はきりがない』」という例を挙げて上奏している(同書p694~698)。民族等が異なればものの考え方が異なり、理解することが難しいことを示している。イスラエルのガラント国防相は、ガザ地区での戦いを『「動物のような人間」との戦いだと述べた』(『イスラエル国防相、「動物のような人間」との戦い ハマスへ報復受け』 2023/10/10 朝日新聞デジタル)が、それに通ずるものがあるように思う。「敗北しつつある大日本帝国 - 日本敗戦7カ月前の英国王立研究所報告-」(刀水書房 坂井建朗訳 p224)は、「日本人は素朴で、情緒的には抑圧されている。彼らは何よりも自分たちの過去と悪質な教育制度によって教えこまれた教義の犠牲になっている。キリスト教を理解すれば、日本人はその道徳心を発達されるに相違ない」と述べている。日本人自身は、自分が道徳的な人間であると思っていても、宗教や宗派が異なっていれば「人間としてあるべき道」も必ずしも一致しないため、相手を互いに、道徳を解しない動物のような人間と見做すことはあるのだろう。

 

 太宗は、降伏してきた突厥の部族長に絹を与えたり高官に取り立てたりするなどして懐柔を図り、宮城の護衛まであたらせて皇帝の威光を恐れ、恩徳を慕うようにさせようとした。しかし639年には、彼らは逆に部族の配下と結託し、太宗の御営は攻め込まれることとなり、太宗は突厥の部衆を中国内に居住させたことを後悔することになったという(同書p696~700)。価値観の異なる人間が、同じ一つの地域で共に暮らすことが難しいことを示しているように思う。

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