ドイツでも中間層が縮小している。「一部の人々の所得が増加する一方で、一部は一段と貧困化しているという」(「【市場の声】ドイツ、中間層が縮小=Ifo調査」 2023/8/7 ダウ・ジョーンズ配信)。それに追い打ちをかけて、ドイツ連邦統計局が発表した6月の鉱工業生産指数(季節要因・稼働日数調整済み)はエコノミスト予想の0.5%低下を下回る前月比1.5%低下であった(「ドイツ鉱工業生産、6月は前月比1.5%低下 予想以上の落ち込み」 2023/8/7 ダウ・ジョーンズ配信)。
ドイツでは列車の遅延が問題になっている。ドイツ鉄道は遅延の理由にはインフラ老朽化が含まれ、「今年3月の監査当局の報告書によれば、経営陣はその後、物流などの非鉄道事業や海外進出にかじを切る一方で、国内の鉄道への投資をおろそかにした」(『「時間厳守」のドイツ、遅れる鉄道』 2023/8/11 ダウ・ジョーンズ配信)ことを挙げている。この遅延問題を受けて、スイスはドイツ鉄道の乗り入れ禁止を検討しており、『スイス連邦交通局のミヒャエル・ミュラー報道官は「イタリアの列車には同じような問題はない」と指摘』(同記事)している。グローバリズムは自国への投資を疎かにし、そのために自国の人民を苦しめている。中間層が没落し、経済まで落ち込んでいるにもかかわらず政府がウクライナ問題や環境問題などのグローバリズムにかかりきりでは、人民は既存政党に愛想をつかして「ドイツのための選択」に支持が集まっても仕方がない。
日本でも、物価高で実質賃金は低下し(「6月の実質賃金1.6%減 物価高で15カ月連続マイナス」 2023/8/8 日本経済新聞電子版)、消費も落ち込んでいる(「6月消費支出4.2%減 4カ月連続マイナス、食料落ち込み」 2023/8/8 日本経済新聞電子版)。インフラストラクチャーの老朽化が問題視されていることもドイツと同じだ。日本の政党も台湾やDX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)などの「対外的な見栄えの問題」にかまけていないで、国内問題に目を向けなければ、人民から愛想をつかされるだろう。
米国もよくない。6月の貿易赤字は前月比で4%縮小したが、「輸入が減少し、米国の需要が後退している可能性があることを示した」(「【MW】米貿易赤字、6月は前月比4%縮小」 2023/8/8 ダウ・ジョーンズ配信)とされる。中国の輸出不振が言われているが、米国の需要後退も一因ではないだろうか?米国ではクレジットカードの債務残高が1兆ドルを上回るとともに、延滞率は増加している。「クレジットカード債務のうち、返済が30日以上滞っている延滞率は7.2%と、1-3月期の6.5%から上昇。(中略)自動車ローンの延滞率も上昇しており、30日以上の延滞率は7.2%と、1-3月期の6.8%から上昇」(「【MW】米クレジットカード債務残高、1兆ドル突破」 2023/8/9 ダウ・ジョーンズ配信)している。
カリフォルニア州ではマイホームが手に入れにくくなっている。「同州の不動産協会が11日に公表したリポートによると、4-6月(第2四半期)に一戸建て物件(価格中央値)の購入条件を満たせた世帯は全体の16%にとどまった。1-3月の19%、1年前の17%から低下している。一戸建て中古住宅の価格中央値は83万0620ドル(1億2040万円)で、頭金20%を支払った上で30年物固定金利で住宅ローンを組むためには、少なくとも20万8000ドルの年収が必要だった」(「カリフォルニア州、遠のくマイホームの夢-手が届くのは全体の16%」 2023/8/12 Bloomberg)という。「米サンフランシスコ地区連銀が今週公表した書簡によると、家賃や住宅価格に関するあらゆる民間の指標が軟化している」(「【コラム】米インフレ、鍵握る住居費に緩和の兆し」 2023/8/11 ダウ・ジョーンズ配信)ことは借家人にとって朗報かもしれないが、「借り入れコストが2倍に膨らんでいることに加え、賃料の伸びは鈍化し、建設費は上昇している」(「【焦点】マンション投資の安全神話、米で崩壊の危機」 2023/8/9 ダウ・ジョーンズ配信)ことは、集合住宅の投資家にとってはマイナス要因である。
米国では窃盗もひどい。例えば、ナイキの商品は店舗だけでなく、「配送センターや鉄道の操車場、留め置き用の貨物列車からフェデックスの配達トラックに至るまで、サプライチェーン(供給網)のほぼすべての段階で盗難に遭う」(「【焦点】狙われるナイキのスニーカー 転売で窃盗横行」 2023/8/8 ダウ・ジョーンズ配信)という。昨年1月、ロサンゼルス市周辺で貨物列車が窃盗に遭っていることが報じられたが、報道されないだけで事態は改善されていないようだ。窃盗犯の襲撃を受ける鉄道員やトラック運転手などが、待遇の改善を求めてストライキなどに訴えるのは当然の流れだろう。橋梁の落下など、米国の物流は厳しい状態にあるのではないだろうか。
大韓民国の大手即席麺メーカー農心は、「米国での販売増によって海外売上高比率は3割に迫る。2022年には米カリフォルニア州で年産能力3億5000万食の即席麺工場を稼働させ、北米や中南米に販路を広げている」(『「辛ラーメン」の農心、アメリカで販売増 海外比率3割に迫る』 2023/7/24 日本経済新聞電子版)という。日清食品ホールディングスの米国事業も、2022年通期の売上収益で+38%、数量で+1桁前半%で、2025年を目途に第3工場の建設を予定している(2022年度通期決算報告)。米国では即席麵は貧困層の食べ物と言われる。即席麵メーカーは、米国の貧困層の拡大を見込んでいるようだ。米国もインフラストラクチャーの老朽化や中間層の没落という共通の問題を抱えている。