4月2日の日本経済新聞朝刊で、ルノーの発行した円建て債とユーロ建て債の利回り格差についての記事があった(社債消えぬ価格のゆがみ、参加者減り市場機能低下、マイナス金利導入で拍車(ポジション)2016/4/2 日本経済新聞 朝刊)。
引用開始
「価格のゆがみを利用する投資も面白い」。みずほ信託銀行の加藤晴康シニアファンドマネージャーが見せてくれたのは仏自動車大手ルノーが発行した債券の流通利回り(気配値)の推移だ。企業の信用力は変わらないのに、日本で発行された円建て外債(サムライ債)の利回りはユーロ建てに比べて高止まりしており、割安にみえるという。
引用終了
社債の信用力は、企業の信用力だけでなく財務上の特約も関係するので円建て債とユーロ建て債の信用力が全く同じかはわからない。また、この記事では両債券の満期が全く同じかもわからない。そのため、完全な裁定取引が成立するかもわからない。しかし、ここでは同じとして以下の検討を行う。
行動ファイナンスといえば、ロイヤルダッチ・シェルの例がよく挙げられる。これは、ロイヤルダッチ社とシェル社が独立したままで6対4の割合で利益を分け合うことになっているため、ロイヤルダッチ社の株価はシェル社の株価の1.5倍になるはずだが、実際にはそうなっていないというものである。よって、企業の信用力というファンダメンタルズの条件が同じだからといって、必ずしもルノー社債間の利回り格差が縮小するわけではない。
また、クローズドエンドファンド・パズルの問題もある。これはクローズドエンドファンドが新規募集されるときはプレミアムが付くが、その後ディスカウントされて取り引きされるようになり、そのファンドが清算されたりオープンエンドに変更されたりしたときに急激にディスカウント幅が縮小するというものである。このことからすると、満期に近づくまで両債券の利回り格差は開いたままでもおかしくはない。
これらの現象は、ノイズトレーダーリスクで説明されることが多い。ノイズトレーダーはファンダメンタルズに基づかない取引をする投資家で、そのような取引のスタイルをとるため価格の歪みの解消には向かわないというものである。ただし、債券投資家は機関投資家が主である。彼らは運用資金も持っている情報も多いので、その点からするとノイズトレーダーリスクは小さく、利回り格差の縮小が起こる可能性はあると思う。
最近の「ファイナンス」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事